- まえがき
- 第1章 地域で自立的生活を実現する指導・支援
- @自立とは
- (1) 「最終の目標」から「当面の目標」へ
- (2) 自立≠自活
- (3) 自立的支援
- (4) 主体的行動
- (5) QOL(QWL)
- (6) 社会生活力
- (7) まとめ
- A生きる力とは
- (1) 考えることができる
- (2) 働くことに喜びを感じる
- (3) 感謝の気持ちが持てる
- (4) 主体的な生活ができる
- (5) 余暇を利用できる
- B指導と支援の違い
- C地域で自立する支援の条件とは
- (1) 将来を見通した支援
- (2) 親との連携
- (3) 実態把握に基づく支援
- Dなぜ地域で育てる必要があるのか
- 第2章 効果的な実践事例
- 家庭との連携を重視した事例
- @マウンテンバイク教室で遊びの幅を広げた事例
- 1 元気あっくんどこへ行く!
- 2 自転車大好き!
- 3 もっと上手になりたいよ!
- 4 マウンテンバイク教室に挑戦!
- 5 はばたけあっくん!
- A学校での調理実習を家庭での食事づくりにつなげた事例
- 1 M児の実態
- 2 調理実習の捉え方
- 3 指導の実際
- 4 今後に向けて
- B生活全体を整えることで睡眠が安定に向かった事例
- 1 H児の実態
- 2 生活を整える
- 3 今後に向けて
- Cコミュニケーション手段が広がり意欲的に外出の意思表示ができた事例
- 1 自分の思いが伝わらないK君
- 2 生活経験のな化から生まれた身振りサイン
- 3 楽しみになった外出
- 4 身振りサインからトーキングエイドへ
- D交通機関を利用して自主通学ができるようになった事例
- 1 自主通学に向けてのスタート ―課題の明確化―
- 2 自主通学に向けて ―3つの課題を乗り越えるために―
- 3 最後に ―母親の偉大さ―
- E学校と家庭の一貫指導により,他害・自傷が軽減した事例
- 1 不適応行動についての捉え方
- 2 A君の特徴や行動について
- 3 A君が不適応行動をしてしまうのはどんなときか
- 4 A君の不適応行動を軽減するために家庭と連携して何をしたか
- 5 一貫した対応によりA君の行動はどうなっていったか
- Fスーパマーケットで買い物ができるようになった事例
- 1 A男の実態
- 2 買い物の実態
- 3 支援の基本方針と計画
- 4 活動の実際とA男の変容(母親の連絡ノートより)
- 5 A男の変容
- 地域との連携を重視した事例
- @「さをり織り」で自信をつけ,「さをり織り」作家として意欲的に活動している事例
- 1 はじめに ―「さをり織り」作家として―
- 2 毅さんが「さをり織り」に出会うまで
- 3 「さをり織り」との出会い
- 4 充実した毎日
- 5 おわりに ―ますます広がる世界―
- A居住地校交流の取り組み
- 1 はじめに
- 2 A君の居住地校交流
- 3 自閉症の児童に対する支援
- 4 交流の様子
- 5 おわりに
- B地域生活を広げるランチショッピングの事例
- 1 みんなが楽しみにしているランチショッピング!
- 2 自閉症のT君にとってのランチショッピングとは?
- 3 T君の楽しみを広げるために
- C余暇活動に喜びを見出した事例
- ――ボーイスカウト活動をとおして――
- 1 はじめに
- 2 中学部時代
- 3 ボーイスカウトM団の活動
- 4 日本アグーナリーで
- 5 まとめ
- D家庭生活に困難があるK夫のショートステイ初体験から
- 1 K夫のこと
- 2 担任になって
- 3 初めの一歩
- 4 担任として何ができるか
- 5 初めてのショートステイと次の課題
- 6 支援費制度のもとで
- 7 最後に
- E地域行事への参加の繰り返しによって人間関係を広げた事例
- 1 障害のある子どもにとっての地域とのかかわり
- 2 地域とのかかわりを意識したこれまでの取り組み
- 3 市内の毎月の定例市への参加に向けての取り組み
- 4 B君の実態と課題
- 5 B君の集団参加における取り組みの視点
- 6 B君の社会参加に対する保護者の意識の変化
- 7 まとめ
- F地域の人と一体になったボランティア活動
- 1 はじめに
- 2 ボランティア活動のはじまり――地域に目を向ける(高等部2年)――
- 3 空いた時間にボランティア活動――気楽に,楽しく,ゆったりと(高等部3年)――
- 4 おわりに ―M子にとってのボランティア活動―
- G一人一品を担当した弁当作りと校外活動とを結びつけた事例
- ――養護学校中学部の生活単元学習(学級)での取り組み――
- 1 はじめに
- 2 弁当作りで願うM君の姿及び基本的な支援方法
- 3 取り組みの実際
- 4 取り組みを終えて
- H地域に根ざした高等部祭の事例
- 1 高等部祭とは
- 2 M男について
- 3 高等部祭に向けての準備
- 4 高等部祭当日
- 5 高等部祭を終えて
- 職場・社会との連携を重視した事例
- @現場実習での適切な支援で働く力を育んだ中学校特殊学級の事例
- 1 現場実習の意義とねらい
- 2 A君の実態,課題
- 3 将来に対する保護者の願い
- 4 働く力を育てるための学習活動
- 5 現場実習の取り組みの実際
- A市立図書館での就労を目指した学校・家庭・関係機関の連携した取り組み
- ――現場実習を中心として
- 1 生徒の実態
- 2 現場実習での取り組み
- 3 現場実習を終えて
- 4 その後
- B責任ある部署を任されて自信をつけた事例
- 1 I男について
- 2 再就職に向かって
- 3 K社の取り組みとI男の変容
- 4 I男の現在
- C会社ぐるみで障害の理解を深めた事例
- 1 U男について
- 2 U男の現場実習
- 3 就職に向かって
- 4 会社との連携を重視した実習
- 5 就職をして(U男の変容)
- D得意な能力を就労に結びつけた事例
- ――数字・記号・数の理解が得意なK君の事例――
- 1 K君の様子
- 2 現場実習(1・2年)の様子
- 3 就職先との出会い
- 4 S社での現場実習
- 5 現在の状況
- E特性を生かし就労を果たした事例
- 1 はじめに
- 2 Aさんについて
- 3 就労に必要なこと
- 4 Aさんへの支援
- 5 就労に向けて
- 6 特性に応じた職場へ
- 7 これからの支援
- 8 おわりに
- F親との連携により一般就労に結びついた事例
- 1 はじめに
- 2 初めての現場実習
- 3 高等部第1回現場実習
- 4 高等部第2回現場実習
- 5 高等部第3回現場実習
- 6 高等部第4回現場実習
- 7 アルバイト
- 8 おわりに
- G施設との連携(ショートステイ等の利用)を重視した社会生活への移行事例
- 1 K君について
- 2 連携のきっかけと目的
- 3 連携の実際
- 4 現在の様子および考察
- 第3章 事例に学ぶ生活作り
- @家庭との連携のあり方
- (1) よさを学び合う
- (2) 子どもへの願いを持ち合う
- (3) 連携の質を高め,幅を広げる
- A地域との連携のあり方
- (1) 学校から地域へ
- (2) 家庭から地域へ
- (3) 一人で地域へ
- B職場・社会との連携のあり方
- (1) 社会的不利をなくす
- (2) 自然の支援を引き出す
- (3) ネットワークを作る
- あとがき
まえがき
地域で生活し,地域で働くことは,人間として生まれた当たり前の権利であり,何よりも障害のある人たちが望んでいることです。しかしながら,現実はどうでしょうか。彼らの希望や願いとかけ離れた生活が当たり前のごとく繰り返されています。
彼らの学齢期は学校や家庭という狭い社会での生活がほとんどです。しかも,ごく限られた人との関わりしか持てない生活を送っています。学校卒業後はどうかというと,学齢期以上に地域社会から離れ,施設など障害のある仲間同士で暮らす生活を,今なお求める傾向にあります。特に対人関係に弱さを持ち,社会適応に困難性を示す自閉症の人は,地域からも敬遠されることも多く,さらに狭い,限られた生活を強いられています。
彼らのこうした生活が,果たして幸せな生活と言えるでしょうか。人間らしい生き方と言えるでしょうか。否です。人間らしい生き方とは,普通の地域の普通の家に住み,普通に支援を受けて人と関わり,普通に働き,普通の人と同じように賃金を得て,普通の経済生活を営み,自由と希望を持って,より質の高い普通の暮らしをすることです。障害の程度にかかわらず,彼らが普通の暮らしを望み,求めることは,ごく当たり前のことです。普通のことを普通に行い,当たり前のことを当たり前に実現していくことが,ノーマライゼーションであり,我々指導者に課せられた課題ではないでしょうか。
本書は,学校や家庭や地域や職場で適応するのが難しいと言われている自閉症の人が,周りからどういう支援を受ければ,生きる力を身に付け,地域社会で自立的な生活ができるようになるかを,全国の障害児教育現場の実践の中から,地域での生活作りに成果を上げている24編の実践事例を基にしてまとめたものです。実践事例をお読みいただければ分かりますが,彼らは地域社会で適応するのが難しいのではなく,適応できるような支援や対応が行われていないからできないだけである,ということを改めて感じます。さらに言えば,彼らは,彼らの持つすばらしい能力を生かせば,社会で十分適応していくことのできる存在なのに,生かされる取り組みが行われていない,ということにも気づかされます。彼らの地域社会での自立は彼ら自身の能力や資質の問題ではなく,我々指導者の取り組み,関わり方の問題であると言っても過言ではないようです。
我々指導者が彼らを指導,訓練し,彼らを変えることで,地域社会での自立が実現できるのではありません。我々指導者が適切な支援を行うことにより,彼ら自らが自立できてこそ,本物の自立と言えます。地域社会での自立は,彼らを変えるのではなく我々指導者が変わることで実現できると考えて欲しいと思います。
本書で挙げた実践事例を手がかりにして,指導者が地域の人たちと連携を図り,積極的に,地域で育てる取り組みを行うならば,多くの自閉症の人が地域で自立的な生活ができるようになる,と確信しております。生きる幸せ,生活する幸せ,働く幸せ,そして,たくさんの人に関わる幸せ,を彼らに味わわせて欲しいと念願しております。
2004年2月 編著者 /上岡 一世
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- 明治図書