- はじめに 〜品川区の教育改革「プラン21」のねらい〜
- 第T章 「教育改革は戦争だ」
- ―課題に正面から立ち向かえ―
- 1.日本の教育の現状
- (1) 戦後民主主義が教育に与えた3つの影響
- (2) 品川区の教育改革は「バトル」ではなく「ウォー」
- (3) 義務教育と規制緩和
- 2.校長として「学校から見た課題」
- (1) きれいごとを並べる教師,現実の社会を見ない教育
- (2) もって否なるラグビーの監督と学校の校長
- (3) 経営戦略としての教科担任制
- (4) 管理職に必要な2つの管理能力
- 3.教育長室から見た「学校の課題」
- (1) これ以上子どもたちを待たせておくわけにはいかない
- (2) 教育委員会はペースメーカー
- (3) 今求められるリーダーとは
- 4.品川区の「教育改革」の根底にあるもの
- (1) 改めてなぜ教育改革なのか
- (2) 学校の体質を変える
- (3) もう1度、教師の手で学校を甦らせたい
- 第U章 「学校改革」への着手
- ―学校選択制から特色づくりへ― 《第1ステージ》
- 1.改革の「種を蒔く」
- (1) 「なぜ学校を選ぶことができないのか」という素朴な疑問
- (2) 「学校選択制」の複線となる「学校公開制度」
- 2.品川区の教育改革「プラン21」の策定と「学校選択制」の導入
- (1) 「プラン21」策定時の教育委員会の決意
- (2) 学校選択制導入の背景
- 3.“指導方法”“学校の位置付け”“教育制度”:教育改革3つの視点
- 〜品川区の教育改革「プラン21」の考え方〜
- (1) 教育改革の3つの視点
- (2) 「規則基盤型」の学校から「成果基盤型」の学校へ
- 4.「特色づくり」で学校は変わるか
- (1) 学校選択制そのものがねらいではない
- (2) 「頑張らざるを得ない」状況をつくる
- (3) 「特色の横並び」でどこが悪いか
- (4) 「学校選択制で地域との関係が崩れる」というけれど
- 5.学校における「改革の実情」と教育委員会の支援
- (1) 「学年担任制」の導入 〜三木小学校の実践〜
- (2) 学校選択制を契機に 〜東海中学校の実践〜
- 第V章 「学校改革」の肉付け
- ―学校経営の転換と外部評価導入― 《第2ステージ》
- 1.「成果基盤型」の学校経営への転換
- 〜やる気のある校長,学校を支援する〜
- (1) 経営者としての戦略性が必要な管理職
- (2) 校長と教育委員会の「知恵比べ」
- (3) 管理職の力量を高める風土があるのか〜問われる校長のセンス〜
- 2.「外部評価制度」の導入
- 〜改革の「芽を伸ばす」〜
- (1) 外部評価制度で学校をサポート
- (2) これまでの学校評価に言えること
- (3) 学校の特色と「アカウンタビリティ」
- (4) 外部評価導入の意義
- (5) 品川区における外部評価のねらい
- (6) 「学校力」の向上を実現する外部評価のあり方
- (7) これからの学校評価
- 3.問われる学校の「態度表明」と「結果責任」
- 〜学力定着度調査の実施〜
- (1) 成果基盤型学校経営と学力定着度調査
- (2) 学校の信頼回復を目指す学力定着度調査
- (3) 学力定着度調査の概要
- (4) 重要なのは「数値」よりも「態度表明」
- 第W章 実学重視の「学校改革」へ
- ―小中一貫教育と市民科の取り組み― 《第3ステージ》
- 1.義務教育9年間という視点からの見直し
- 〜改革の「枝葉を茂らせる」〜
- (1) 小・中の「文化の違い」をどうするか
- (2) 4−3−2のまとまりで教育課程を考える
- (3) 『品川区小中一貫教育要領』に基づく小中一貫教育の全校実施
- (4) 各教科カリキュラムの弾力的な編成とステップアップ学習
- (5) 小学1年生からの「英語科」導入〜コミュニケーション教育〜
- 2.実学重視の教育へ
- 〜品川区独自の学習『市民科』の構想〜
- (1) 「市民科」導入の背景
- (2) 特別活動や道徳の時間の具体的な融合
- (3) 「市民科」で育む資質・能力
- (4) 社会人としての責任を育てる〜「職業体験・生活設計体験学習プログラム」の実施〜
- 3.小中一貫教育のタイプ
- 〜施設一体型一貫校と施設分離型連携校の設置〜
- (1) 施設一体型小中一貫校
- (2) 施設分離型小中連携校
- (3) 小中一貫教育で学校・教師の意識を変える
- 第X章 「学校改革」で求められる現場での取り組み
- ―新しい義務教育の創造―
- 1.「何のためか」を意識して動く
- 〜小中一貫教育を根付かせるために〜
- (1) 何のための小中一貫教育なのか
- (2) 「浮き足立つな」,しかし「動け」
- 2.「結果の検証」を次への1歩に
- 〜小中一貫教育の検証〜
- (1) 小中一貫教育で結果を出す
- (2) 教育改革プラン21の検証
- おわりに
- 資料:〈品川区教育改革「プラン21」と国の教育政策の歩み〉
はじめに
〜品川区の教育改革「プラン21」のねらい〜
今日,教育改革,学校改革の名のもと,国,自治体レベルで様々な議論がなされ,その成果に基づく施策がそれぞれに進められています。しかし,その実態をよく調べてみると,改革の意気込みは感じるものの何のための改革なのかが学校現場に十分に理解されずに,施策だけが先行しているケースもあるように感じます。
「学校を変える」ためには,まず学校の現状をしっかりと分析し,把握する必要があります。その上でどう変えるのかを考えなければ,改革の成果はあげられません。品川区では,改革をスタートさせるにあたって,今から10年程前,学校の現状を次のように分析しました。
学校は変わらなくてはいけないという認識はあっても,変われないでいる。そして,自らの課題に気づきながらも,組織として戦略的な手を打てない結果,社会や保護者の要請に十分こたえられないでいる。
そうした学校の現状を変えるため,品川区では学校を取り巻く「社会的環境」の1つとして平成12年度より学校選択制を取り入れ,地域の要請や期待に応えることができ,具体的な教育の成果を出せる学校を目指して,教育改革「プラン21」をスタートさせました。
保護者・地域の期待にこたえる学校となるためには,単に法令や規則にのっとって十年一日のごとく学校を運営するいわゆる「規則基盤型の学校」から,校長がリーダーとして組織を束ね,説明責任を果たしながら学校が実現しようとする具体的な成果を明確に打ち出す「成果基盤型の学校」へと,学校教育の質的転換を図ることが求められます。そのための方策として,品川区教育委員会では次のような施策を展開してきました。
まず,「プラン21」の準備期である平成10年度には,学校の教育活動を「開く」とともに,日常的に教育活動を見られることを,教員が当たり前のこととして受け止めるようになることを目指した「学校公開」を,1年間を通して実施しました。続いて,この取り組みが定着した平成12年度から全小学校で,平成13年度には全中学校で学校選択制を導入しました。さらに,この学校選択制を土台として「特色ある学校づくり」を進めるため,あわせて「習熟度別学習」や「小学校の教科担任制」,「中学校の公開授業」,「小中連携教育」などのシステム(メニュー)を提案してきました。
これらの取り組みは,教員1人1人の考えは異なっても,子どものより確かな学力の定着のために組織として「そうせざるを得ない状況」を意図的に学校の中につくり出すとともに,学校が自らの考え方で教育活動を展開する自律的な学校経営の実現を目指すための方策でもありました。
学校はこれらのメニューから自校の実態に合った特色を選んで実施したり,学校独自の内容・方法で特色づくりを進めたりしてきたわけですが(第U章5:学校における「改革の実情」と教育委員会の支援を参照),さらに学校教育の質的転換を図る方策として,平成14年度に「外部評価制度」,平成15年度に「学力定着度調査」を独自に導入してきました。この制度により,学校は児童・生徒の確かな学力の定着や豊かな社会性や人間性の育成,保護者・地域との連携の仕方などについて,「何をどのように改め,どんな手立てを講じる必要があるか」を具体的に考え,それをホームページ等で広く「態度表明」するようになりました。
このような活動を展開することによって学校の体質が改善され,学校の前向きで真摯な姿勢が保護者や地域・区民に認められるようになると考えたわけです。こうした改革の取り組みを「手段」として,これまで変われないでいた学校の体質を転換し,教員の意識改革を図り,学校経営のあり方そのものを見直すことができました。
この改革の延長線上にあり,現在区内全小中学校で実施しているのが,小中一貫教育です。そしてこの小中一貫教育を実施するための基準としてまとめた「品川区小中一貫教育要領」は,国の学習指導要領をベースにしつつ品川区における新しい教育としての「地方基準」を示したものです。まさに「プラン21」は,地方の教育理念を明確に打ち出す「ローカルオプティマム」の時代を教育界が迎えたことを自覚する契機となったと言えるでしょう。
本書は,「プラン21」の歩みにあわせ,品川区の教育改革の底流にある基本的なものの考え方,現在の義務教育学校に対する本区の1つの問題意識やコンセプトについて示したものです。品川区の教育行政にかかわる方だけでなく,読者のみなさまの「各自治体や学校現場の視点で教育を考える」際の論議の一助になれば幸いです。
/若月 秀夫
「変わらなければ」と言うのは簡単だが、品川区のように本格的な改革に取り組んだところは数少ない。問題を国や県のせいにしてしまう風潮もある中、本書からは教育に関する責任を負う強い意思が感じられる。
参考書として、一読をおすすめしたい。