- はじめに
- T 総合的な授業を創造するための「相互交流のコミュニケーション」
- /有元 秀文
- 1 なぜ「相互交流のコミュニケーション」か/ 2 公的なコミュニケーションと私的なコミュニケーション/ 3 双方向のコミュニケーションの難しさ/ 4 なぜ、私はコミュニケーションをライフワークにしたか
- U 「相互交流のコミュニケーション」を創造するための授業プラン集
- 一 教科書を使った楽しいコミュニケーション
- 解説 /有元 秀文
- 1 物語教材で討論しよう(「白いぼうし」) /宮津 大蔵
- 1 実践の意図/ 2 事前の指導について/ 3 授業の実際
- 2 「大造じいさんとガン」でコミュニケーション /宮津 大蔵
- 1 実践の意図/ 2 授業の実際/ 3 終わりに
- 3 環境教材でパネルディスカッションをしよう(「一秒が一年をこわす」) /橋本 美佐子
- 1 単元設定の意図/ 2 学習の流れ/ 3 パネルディスカッションについて
- 4 道徳教材で約束について討論しよう(「手品師」) /浅井 純
- 1 主題と価値項目について/ 2 資料について/ 3 子供の実態について/ 4 授業構成について/ 5 授業の実際/ 6 まとめ
- 5 「きりかぶの赤ちゃん」で演劇をしよう /宮本 えり子
- 1 はじめに/ 2 実践の概要/ 3 おわりに
- 6 テクストの分析と解釈と批評 /三森 ゆりか
- 1 はじめに/ 2 ドイツにおける文学教育の流れ/ 3 「白雪姫」(グリム童話)で行う小学校高学年のための「分析と解釈」の授業/ 4 おわりに
- 二 いろいろなメディアを使った楽しいコミュニケーション
- 解説 /有元 秀文
- 1 新聞記事を使って、いじめについて考える /成田 雅樹
- 1 実践の概略/ 2 育てようとするコミュニケーション能力/ 3 単元展開とねらいとするコミュニケーション/ 4 コミュニケーション活動の実際
- 2 「ヤダァ」の中味役割演技を通してのコミュニケーション能力の育成(「となりのトトロ」より) /清水 保徳
- 1 「育てたい力」と活動の構想/ 2 題材について/ 3 本時の流れ/ 4 終わりに
- 3 みんなで語り合おう〜インターネットフォンを使って〜 /廣川 清治
- 1 はじめに/ 2 手軽な「インターネットフォンリリース」/ 3 交流の流れと意図したコミュニケーション/ 4 子供たちの様子
- 4 ニュース番組を作ろう /奥村 陽子
- 1 「先生、取材に行って来まーす」/ 2 必要はコミュニケーション上達の母?/ 3 気軽に使いたい情報機器たち
- 三 コミュニケーション・スキルを楽しく学ぼう
- 1 心と言葉で受けとめるインタビューのコミュニケーション・スキル地域紹介のテレビ番組をつくろう /橋本 美佐子
- 1 単元設定の意図/ 2 学習の流れ/ 3 授業を通して明らかになったこと/ 4 授業の実際
- 2 さわやかな自己表現ができるコミュニケーション・スキル /豊田 英昭
- 1 自己尊重、相互尊重の感情を育てるグループワーク/ 2 さわやかな自己表現を身につけるグループワーク/ 3 実践的なコミュニケーションのグループワーク
- 3 もめごとを解決するコミュニケーション・スキル陰口を言われたときに /高倉 滋子
- 1 本時のねらい/ 2 展開/ 3 授業記録/ 4 本時の振り返りカードの結果と考察/ 5 まとめ
- 四 いろいろなスピーチ・コミュニケーションをやってみよう
- 解説 /有元 秀文
- 1 「ショウ・アンド・テル」から始めてみよう /三森 ゆりか
- 1 はじめに/ 2 目的/ 3 方法
- 2 宇宙人はほんとうにいるか /橋本 美佐子
- 1 単元設定の意図/ 2 学習の流れ/ 3 児童の作品/ 4 授業記録
- 3 絵を分析しながら、ディスカッションで楽しく論理的思考を育てよう /三森 ゆりか
- 1 はじめに/ 2 つくば言語技術教室式「絵の分析と解釈」/ 3 「絵の分析と解釈」の授業風景/ 4 おわりに
- 4 「問答ゲーム」で論理的表現を育てる /三森 ゆりか
- 1 はじめに/ 2 「問答ゲーム」の目的/ 3 実践の方法/ 4 その他の「問答ゲーム」
- 5 ひびけ詩の心 /浅井 純
- 1 本校の取り組みについて/ 2 実践の概要/ 3 実践の成果
- 6 動物になりきって演劇と話し合いをしよう /情野 正
- 1 単元設定の基本的考え/ 2 横断的学習の構想/ 3 この学習で期待できること/ 4 具体的実践/ 5 単元計画と展開/ 6 具体的な学習の様子/ 7 授業の結果/ 8 授業からいえること
- 7 お話フリーマーケットで本と親しもう /井上 善弘
- 1 はじめに/ 2 お話フリーマーケットを始めよう単元の展開/ 3 お話フリーマーケットをしよう実際例/ 4 お話フリーマーケットを終えて/ 5 おわりに
- 8 対話を通して物語の構造を考える「読書へのアニマシオン」 /三森 ゆりか
- 1 はじめに/ 2 作戦「前かな? 後ろかな?」とは何か/ 3 作戦の実践/ 4 作戦と対話
- 9 楽しく話し合いながら、持ち物探しの「読書へのアニマシオン」 /足立 幸子
- 1 「読書へのアニマシオン」とは/ 2 「作戦2 これ、だれのもの?」の実際/ 3 コミュニケーションとしての楽しい話し合い
- V 「相互交流のある総合的な学習」実践事例集
- 解説 /有元 秀文
- 1 給食の残飯を調べて環境について考えた /橋本 美佐子
- 1 単元設定の意図/ 2 学習の流れ/ 3 学習の実際
- 2 保育園の子供たちと仲良くなろう紙芝居や読み聞かせ /高倉 滋子
- その1
- 1 単元のねらい/ 2 単元の展開/ 3 本時の展開/ 4 単元の成果と課題
- その2
- 1 展開の概略/ 2 成果と課題
- 3 みんなの力でトンネルをきれいにしたトンネルの壁に絵を描こう
- 一〇秒トンネルなんて、もう言わせない! /三戸 多喜子
- 1 指導の実際/ 2 指導の展開/ 3 児童の作品と感想
- 4 障害者との交流でクラスと家族と友達が連携できた /宮津 大蔵
- 1 実践の意図/ 2 単元を通して育てたい力/ 3 学習計画/ 4 実践の実際/ 5 実践を振り返って
- 5 八幡様の神主さんにインタビューしてみたら /橋本 美佐子
- 1 単元設定の意図/ 2 学習の流れ/ 3 八幡様の境内でのインタビューの実際/ 4 学習を終えて
- 6 「自分探しの旅」で家族や友達と相互交流ができた(三年生) /綾 澄子
- 1 指導の意図/ 2 指導目標/ 3 指導の流れ
- 7 わらべ歌を作って、家族や地域の人と交流できた(三年生) /宮葉 清子
- 1 なぜわらべ歌か/ 2 学習計画/ 3 学習活動の実際/ 4 学習活動のその後
- 8 いじめや差別をなくすためのビデオドラマつくり /宮津 大蔵
- 1 実践の意図/ 2 学習の展開/ 3 授業記録/ 4 まとめ
- 9 フィリピンから来たお友達と交流ができた /成田 雅樹
- 1 実践の概略/ 2 育てようとするコミュニケーション能力/ 3 単元展開とねらいとするコミュニケーション/ 4 コミュニケーション活動の実際
- 10 おもちゃの国へようこそ /宮本 えり子
- 1 はじめに/ 2 単元の構成とねらい/ 3 児童の活動から
- 11 消える校舎に寄せるメッセージ /唐鎌 良枝
- 1 赤い瓦屋根の校舎/ 2 こんな力を/ 3 つどう心『つどい』を読む/ 4 単元の進め方/ 5 終わりに
- W 子供が変わるちょっといいコミュニケーションの話
- 解説 /有元 秀文
- 1 歌えない子なんて一人もいない /白畑 若子
- 1 一人の転校生/ 2 M君がんばれ一斉テスト/ 3 先生、金魚をクラスに飼おう/ 4 M君どうしよう合唱コンクール/ 5 M君いい声みんなが感動
- 2 毎日ほめていたら、ある小学生の「心の荒れ」が直った /山内 隆之
- 1 はじめに〜小さな小学生の心の叫び〜/ 2 Z君の担任として/ 3 Z君の変容〜話をすること・ほめることの大切さ/ 4 おわりに〜Z君からもらった一枚の走り書き
- 3 読み聞かせで心の安定を取り戻した小学生の子供たち /三森 ゆりか
- 1 はじめに/ 2 学級の状況と読み聞かせの実践/ 3 実践の成果/ 4 保護者が読み聞かせに熱心に取り組んだ理由
- あとがき
はじめに
この本は、「相互交流のコミュニケーション」を通して、「総合的な授業」を創造することを目指して編集した。
○「相互交流のコミュニケーション」とは何か
「相互交流のコミュニケーション」とは、子供たちみんなが違う個性を発揮しながら、活発な会話を通してお互いに協力し合い、分かり合うコミュニケーションである。本当に相互交流のコミュニケーションが達成されれば、授業だけでなく学校も変わる。学校だけでなく家庭も地域も変わる。
○「相互交流のコミュニケーション」が学校・家庭・地域を変えた例
例えば、環境の授業に取り組んだ五年生は、学校のそばのトンネルの汚い落書きを消そうと計画した。子供と教師の熱意は、自治体の長の心を動かし、ペンキ代を支出してくれた。トンネルの落書きは、子供たちが描いた美しい四季の絵巻に変わった。この壁画ができあがるために、教師と子供たちは幾度となく話し合い交流したことだろう。これは、教師が子供たちの願いを大切にして子供たちの力を引き出し、地域まで変えた相互交流のコミュニケーションの例である。
また、ある二年生の学級で、授業妨害が激しくなった。心配した母親たちが、教師や校長と話し合って読み聞かせの活動を強化することになった。読み聞かせを重ねるうちに子供たちはしだいに落ち着いていった。母親たちは、読み聞かせの会を拡大して全学年を対象とし、教師と父母が一体になった組織を創立した。こうして読み聞かせが全校に定着するためには、教師と母親たちが幾度となく語り合い交流したことだろう。これは、教師と母親と子供たちの相互交流のコミュニケーションによって、学校・家庭・地域が変わった例である。
○「相互交流のコミュニケーション」は、教科の枠を越える
これらは、教師や母親の願いによって、教科の枠を越えて、相互交流のコミュニケーションが実現した実践である。活発な相互交流のコミュニケーションが生まれるためには、従来の教科の枠を越える必要がある。なぜなら、活発な相互交流は従来の教科の枠に収まりきらないからである。前述のトンネルの例で言えば、環境美化について話し合うのは国語である。しかし討論しただけでは何も変わらない。教師や校長や自治体と交渉するのは社会科で、壁画を描くのは図工である。
コミュニケーションの学習を発展させれば必ず総合的な学習になる。なぜなら、人と人のコミュニケーションは本来教科の枠に収まりきらないからである。逆に、「総合的な学習の時間」には、必ず相互交流のコミュニケーションが必要である。なぜなら、「総合的な学習の時間」の究極の目的は生きる力の育成であり、生きる力の大部分はコミュニケーションの力だからである。
この本に掲載した実践のプラン集も、従来の教科のあり方を越えた横断的・総合的な学習である。ほとんどの実践は、私と共同研究した仲間の教師による、私が目の前で見た実践である。ここには、私が、授業研究を始めて以来のあらゆる分野のコミュニケーションの実践が含まれている。これらの実践をヒントにしていただけば、どの教室にも相互交流が生まれるはずである。
分かり合うことが容易ではない時代に、この本が、学校と家庭と地域を「相互交流のコミュニケーション」を通して変える力になることを心から願っている。
/有元 秀文
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- 明治図書