- まえがき
- 第一章 読書指導の新しい展開
- 一 読書力の基礎を育てる読書指
- 二 低学年の読書指導の新しい展開
- 1 学習指導要領に示している読書指導
- 2 低学年の子どもと読書
- 3 低学年の読書指導の新しい展開
- 第二章 読書で育つ子ども
- 一 子どもたちと読書
- 二 読書についての子どもの意識
- 三 子どもの読書の傾向を整理する観点
- 1 読書が好きで、進んで読書をする子ども
- 2 自分から積極的に読書をしないが、読書は好きで、読書の時間に抵抗はない子ども
- 3 読書時間に読書はするが、どちらかというと読書が嫌いだと思っている子ども
- 4 読書は嫌いだし、読書がつらい、苦痛だという子ども
- 第三章 低学年の子どもを引きつける読書指導の実際
- 一 読み聞かせ
- 1 読み聞かせの実際
- 2 読み聞かせの場
- 3 読み方の留意点
- 4 先生が読むことの意義
- 5 どんな本を読むか
- 6 時間の確保
- 7 読み聞かせの効果
- 二 ブックトーク・本の紹介
- 1 ブックトークとは
- 2 ミニ・ブックトーク、関連した本の読み聞かせ
- 三 読書へのアニマシオン
- 1 読書へのアニマシオンとは
- 2 読書へのアニマシオンの実際
- 四 ブックウォーク
- 第四章 国語科の授業と読書を結ぶ
- 一 絵と文を比べながら読む 「はなの みち」(光村一年)
- 1 読書指導に広げる教材の特性/ 2 単元の目標/ 3 指導計画/ 4 読書指導につながる授業の展開/ 5 指導のポイント
- 二 「おもしろい」「ふしぎだな」の気持ちを大事にする
- 「サラダで げんき」(東書一年)
- 三 仲良し作りのお話を楽しく読む 「お手紙」(光村二年)
- 四 楽しくお話を読む方法を広げる 「スーホの白い馬」(光村二年)
- 第五章 読書学習ワークシート(読書指導に役立つアイデア)
- [1] 「本は友だちカルタ」を作ろう
- [2] 「おんどく」はっぴょう会をしましょう
- [3] 「本をよんでこたえる」クイズ大会
- [4] 「本のおび」作り
- [5] 「どくしょのおたより」作り
- 第六章 低学年の子に読ませたいブックリスト
- 1 日本の昔話・民話
- 2 世界の民話
- 3 世界の名作
- 4 楽しく読めるシリーズもの
- 5 友だちっていいな
- 6 ちょっと怖いぼうけん
- 7 いろんな心の動きを
- 8 戦争、障害、環境
- 9 ことばの本
- 10 知識の本
- 第七章 低学年の読書指導Q&A
- 一 「読み聞かせ」で気をつけることは何ですか
- 二 「ストーリー・テリング」はどうやるのですか
まえがき
新任教員研修会の講師に招かれた知人が次のような感想を述べていたのが印象に残っている。
知人はその研修会で「学級の子どもたちに読み聞かせをしたか」を問うたのである。参加したほとんどの教員が肯定の意味の挙手をしたということの驚きであった。知人は図書館教育に熱心で若い頃から読み聞かせの大事さを提案してきた。しかし、一〇年以上前は、話題にもならなかったと嘆いただけに、新任教員研修会の驚きは十分理解ができた。新任教員が読み聞かせに積極的になるということは、それぞれの学校が、読み聞かせを全校的に取り組んでいると理解できるからである。
近年、朝読書の時間や、保護者による読み聞かせボランティアの支援など手厚い読書指導が行われるようになった。読み聞かせの後の子どもたちの満足そうな顔から、教育効果が確実に高まっていると言えよう。読書風土の高まりは大事なことである。
しかし、ここまで読書に対する意識が高まっているとすれば、さらに、一段上の状態へ高めていきたいのである。読書によって自らを豊かにしよう、高めようという気持ちを持たせ、進んで本を読む子に育てたいという思いは高まる。しかし、実態はそうでないことが多い。それは、読み聞かせの後に、次のような文章や感想に出会うからである。
「心に残るとてもいい話でした。図書室で本を探して読もうと思います。」
「本が好きになりました。たくさん読みたいです。」
このような文章を書いた子が、その日の休み時間や放課後、図書館へ行って本を探したりする姿をあまり見かけない。読みたい気持ちにはなるが、読書行動までは高まらないというのが実態である。
改正学校教育法(平成一九年)では、義務教育の目標として新たに読書の重要性が示され、「主体的、意欲的な学習活動や読書活動」の推進、充実が学習指導要領にも盛り込まれた。一層の充実した指導が求められるようになった。
学校の日常は多様である。例えば、「本を読めばどんないいことがあるの」ということをストレートに聞きにくる子がいる。「本を読むのが嫌い」と得意そうに友達に話している子もいる。
私の場合、そのような子を前にして、適切には答えられなくて、あいまいに、それほど難しいことを考えなくていいから、たくさん本を読めばいいことがあるという意味のことを答えていることが多かった。つまり、読書風土の醸成には力を注ぐが、その次の段階への見通しはあまりなかった。いわば、自由読書の推奨である。
自由読書の推奨は大事である。その上に立って、さらに、読書指導を通して読書に親しみ、ものの見方、考え方を広げたり深めたりする教室づくりをしたい。そのために大事にしたいこととして次のことを考えた。
○低学年では、楽しんだり知識を得たりするために、本や文章を選んで読むことに意欲を示す指導の方法を具体化すること。中学年では、目的に応じて、いろいろな本や文章を選んで読むには、どんなことに留意をすればよいのか。高学年では、目的に応じて、複数の本や文章などを選んで比べて読ませること。
○これからの読書指導について、『小学校学習指導要領解説 国語編』(文部科学省 平成二〇年)においては、具体的に次のような示唆をしている。
・我が国において継承されてきた言語文化に親しむことができるよう、長く読まれている古典や近代以降の作品などを、子どもたちの発達の段階に応じて取り上げるようにする。
・読書の指導については、目的に応じて本や文章などを選んで読んだり、それらを活用して自分の考えを記述したりすることを重視する。日常的に読書に親しむために、学校図書館を計画的に利用し必要な本や文章を選ぶことができるように指導する。
・楽しむことや調べること以外に、読みたい内容を絞って読む、書き手を絞って読むなど。さらに、読書の範囲を広げるために、学校図書館などの施設の利用方法を学び、図書を紹介するブックトークなどの活動や読書案内、新刊紹介などを積極的に利用する態度を養う。友達同士で面白かった本の紹介をし合ったり、同じ題材の本を交換して読んだりするなど、読書への関心を高めることが大切である。
・適切な本や文章を選ぶために、学校図書館やインターネットなどの利用に関する知識、情報モラルなどを身に付けさせることが求められる。また、実際に、読書を日常的に行う生活をつくっていくために、本だけに限らず、新聞や雑誌、パンフレット、インターネットのホームページなど、様々な資料を活用できるよう工夫する。
このことから考えられるのは、本を好きにするとともに、主体的に読書と関わり生活を高めることを目指すことである。
本書の編集執筆に関わった常諾真教さん(前野洲市立中主小校長)、森邦博さん(大津市立田上小校長)は、三〇年以上の長い年月、滋賀県の学校図書館教育に力を注いでこられた。しかも、学級担任として授業も上手であり、管理職の立場になっても、子どもの眼を大事にし、国語教育と図書館教育を一つにしようという意志を高く持ち、実績を積み上げてきた。折々の会話の中で、次のことが話題になった。
「ポップやブックトーク、アニマシオンなど、図書館教育では一般的な用語であった。それが、国語の授業に入ってきた。読書の面でいえば、変わった部分が大きい。」
「文学作品だけではなく、ノンフィクションからインターネット、新聞、雑誌、絵やグラフまで広がっている。」
「教養的な読書から実用的な読書に広がっている。情緒が主だったのが、読むことによって知識を得るとか、役立つというように実用的になっている。」
このことは、新しい読書指導の方向への示唆であると受け止めた。従来の読書指導の実績と視点を変える多面的な考え方を取り入れることで新しい指導の手がかりが生まれるだろうという思いが高まった。
本書は具体的な教室の実態をふまえ、「読書が大事である」「読書を進んでする子になりたい」と思える子を育てる知恵を著したものである。読書の大切さを子どもに伝えるには、授業の改善が必要である。さらに、読書に対する適切な指導が必要であるという気持ちを織り込んだ。なお、授業改善や読書環境を高めるワークシートでは、さざなみ国語教室同人の実践をまとめた。多くの皆様のご指導を賜りたく存じます。
本書の発行については明治図書編集長江部満様にお世話になりました。最後になりましたが厚くお礼申し上げます。
平成二三年二月 京都女子大学教授 /吉永 幸司
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