- はじめに
- 第1章 言語活動としての問題解決授業
- ―思考力・判断力・表現力の基礎としての算数的価値の追求
- 1.思考力・判断力・表現力を育む算数科,問題解決の授業
- 2.徳育として算数的価値を追求する問題解決授業
- 2−1. タイプA:注入型・解説型の授業
- 2−2. タイプB:多様性を追求する問題解決授業
- 2−3. タイプC:一般性の追求に価値を求める問題解決授業
- 3.読解リテラシーの低迷と言語活動の充実
- 3−1. 読解リテラシーの低迷
- 3−2. 改訂で要請された言語活動
- 3−3. 算数科で求められるアーギュメンテーション
- 4.算数的活動の充実:算数の創り方と価値意識の醸成
- 4−1. 成功した旧課程「仕方を考える」(創り方・考え方)学習
- 4−2. 指導目標としての創り方(算数的活動の仕方)と価値(よさ)
- 4−3. 他の場面への活用性・一般性を追求するタイプCの授業
- 第2章 「学び直し」とアーギュメンテーションの実現
- ―意味と手続きによる授業づくり
- 1.教育課程における「学び直し」とアーギュメンテーション
- 1−1. 改訂で強調された「学び直し」
- 1−2. 意味と手続きで読める活用・発展としての「学び直し」
- 1−3. 拡張と障害,矛盾,アーギュメンテーション
- 2.拡張場面におけるアーギュメントの構造
- 2−1. 拡張場面に現れる弁証法的アーギュメンテーション
- 2−2. アーギュメントの構図:反例,表現変更,一般化
- 2−3. 例による意味付け:例示による説明と形式による説明
- 2−4. PとノンPの間でなされる反例によるアーギュメント
- 3.拡張場面におけるアーギュメントの方法
- 3−1. 意味と手続きによる授業づくり
- 3−2. 拡張場面におけるアーギュメントを促す発話
- 3−3. 算数らしい説明の仕方と学び直しとしてのわかり方
- 第3章 アーギュメンテーションによる問題解決授業の改善
- 1. アーギュメンテーションによる問題解決授業
- 1−1. 誘導発問による教え込み:形骸化した問題解決
- 1−2. 拡張場面で論点とすべき既習は何か?
- 1−3. 硬直化した問題解決:比較・検討場面
- 1−4. PとノンPによるアーギュメンテーションを展開するために
- 1−5. PとノンPからQは容易に導けない
- 2.PとノンPからQを導く一般化のふるい:加点を超えた選択・判断
- 3.活用・発展としての「学び直し」と「仕方の学習」
- 3−1. 本習課題で現れる既習と学び直し
- 3−2. ノートや黒板に表現してこそできるアーギュメント
- 3−3. 内容を通して実現するアーギュメンテーションの仕方の学習
- 3−4. 仕方の学習の連鎖を意識させる
- 4.アーギュメンテーションによる「展開の様相」
- 4−1. アーギュメントの構図マップ
- 4−2. 考えの妥当性のアーギュメントに焦点を当てた展開
- 4−3. 一般化のふるいによる決着に焦点を当てた展開
- コラム つまずき場面で,算数の価値,創り方,考え方を教える
- 第4章 アーギュメンテーションによる「学び直し」を実現する対話型問題解決の授業
- 1.考えの妥当性のアーギュメントに焦点を当てた展開例
- [1] 3年〔かけ算の筆算(1)〕 意味の合う式になっているかな?〜3口のかけ算の式〜
- [1] 3年〔わり算〕 新しい計算の仕方を考えよう〜包含除〜
- [3] 4年〔面積〕 つまり正方形のマスで比べれば,広さがわかるんだよ
- [4] 4年〔表と折れ線グラフ〕 折れ線グラフにした方がいいの?棒グラフの方がいいの?
- [5] 4年〔変わり方〕 ×4が見えるかな?
- [6] 5年〔平行四辺形や三角形の面積〕 どんな台形でもいえる面積の求め方は?
- 2.一般化のふるいによる決着に焦点を当てた展開例
- [1] 1年〔大きな数〕 新しい位の部屋は必要?!
- [2] 4年〔わり算〕 あまりはいくつなの?
- [3] 4年〔分数〕 6/5mなの? 6/10mなの?
- [4] 5年〔小数のわり算〕 「小数のわり算のあまり」は,どう表せばいいのだろうか?
- [5] 5年〔分数と小数〕 何を1として考えているのかな?
- [6] 6年〔比〕 量のバランスって何だろう?
はじめに
算数数学は,ギリシャ期に説得的な対話術(弁証法)をその記述論理に取り込むことで学問として定式化された。数学は自然に潜む不変な考えを美しく表す言葉でもあり,人として豊かな生活を営む上で必須の言葉でもある。500年も前に描かれたラファエロによる壁画「アテネの学堂」には,作図するユークリッドとその作図をみながら発見を語り合う青年等が描かれている(表紙)。ルネッサンスを生きたラファエロが,算数数学の象徴として選んだのがこの対話する青年たちであった。
先生方は,子どもがどのような対話を進める算数授業を願っておられるだろうか。本書は「自ら学び自ら考えるために既習を生かし予想し,他者の考えを認め合う子ども,矛盾や不思議を認めればすっきりわかるまで問い返し既習とつなげようとする子ども,そして広く通用する数学的な考え方のよさを味わい算数らしい活動を愉しむ子ども」を育てることをめざして編纂された。それは例えば,次のような話し合いのできる子どもたちである。
○既習を使おうとして新たな問題を見いだす子ども:「そうだ,前にやったことが使えそう?」。既習との差異に着目する子ども:「ここは同じだけど,…」。やり方の根拠を問う子ども:「どうして〜と考えていいの?」。
○妥当性を検討する段階で,やり方に対して根拠を示す子ども:「2×3=6,6に0を2つつけて600」,「それってさ。2が百円玉2個とすれば,2×3=6で百円玉6個。だから100×6=600ってこと」と言い換える子ども。算数的表現を使える子ども:「ここ」「そこ」という指示語ではなく「辺AB」「○cmのところを」「垂直に」と算数の言葉で表す子ども。立ち返るべき既習を区別する子ども:「長方形にまで戻らなくても平行四辺形でいいんじゃない」。他者の考えに共感する子ども:「それって,こういくこと?」。他者にわかるように区切って説明する子ども:「まず…,ここまではいい?」。「わからなさ」を大切にする子ども:「えっ,でも」。「途中まででもいいの?」。「わからないこと聞いていい?」
○比較・検討する段階では,相違点・共通点を見いだす子ども。自己を振り返り,他者のよさを見いだす子ども:「ダメかと思ったけれど,正しいことがわかってよかった。でも,A君の考えのほうが簡単でいいと思う。」
○判断する段階・一般化の段階で,いつでも使えるように考えの活用範囲を知ろうとする子ども。相手の考えを前提に考える子ども:「だったら,〜というようにならない」。仮定をおいてとらえ直し,いつでも使えるか調べようとする子ども:「この問題は偶数だけど,もしも,奇数だったら…」,「例えば,こんな場合には成り立つの?」,「じゃ,どんなとき使えるの?」。
このような願いの下,札幌の先生方と意味と手続きによる対話型問題解決授業の勉強会をはじめて20年になる。そこで提案した意味と手続きによる弁証法的対話は中学校でも追究され,全国の先生方から反響を得た。新たな事例を提案下さる先生方の声が木霊して私たちに届くまでになった。
OECDによるPISA読解力調査の低迷を受け,文部科学省は言語活動を教育課程改訂の中核にすえた。本書はその活動を,我々が追究してきた対話型問題解決授業の下,アーギュメンテーションという語で具体化した。
単純に積み重ならない学習場面でこそ,真に学ぶべき算数・数学の考え方や価値観を学びえる。改訂では,その場面が「学び直し」という語で強調された。本書は,その学び直しが,子どもどうしが説明し伝え合う教室でなしえることを示している。知識基盤社会において持続可能な成長を実現するために,誰にも求められる算数・数学的に価値ある思考力・判断力・表現力を育てる授業。そのキーワードがアーギュメンテーションである。
本書の出版に際して,お世話になった明治図書出版の仁井田康義氏,相田芳子氏に,共編者の田中秀典先生とともに感謝したい。
平成21年1月 /礒田 正美
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- 明治図書