- はじめに
- 第1章 教師の授業力と算数授業
- 1 子どもの表現を鑑賞する力
- 2 子どもの感想を解釈する力
- 3 子どもの思考に沿った問いを生み出す力
- 4 子どもの誤答を正答に導く力
- 5 授業の構成
- 第2章 教材研究の本質
- 1 教材研究の意味
- 2 小数と分数の概念
- 2.1 これまでの分数と小数の指導
- 2.2 分数と小数を関連づける指導
- 2.3 小数と分数を関連づけたカリキュラム
- 3 小数のかけ算
- 3.1 「基準量×割合」の意味づけ
- 3.2 数直線を活用したかけ算の意味づけ
- 3.3 小数のかけ算の教材
- 3.3.1 問題Tによる展開
- 3.3.2 問題Uによる展開
- 3.3.3 問題Vによる展開
- 3.4 小数のかけ算の関連
- 4 分数のわり算
- 4.1 分数のわり算の立式
- 4.2 わり算の意味
- 4.3 わり算の立式の困難性
- 4.3.1 分数に関する視点
- 4.3.2 わり算に関する視点
- 4.3.3 文章構造に関する視点
- 4.4 分数のわり算の指導の実際
- 4.4.1 分数のわり算の授業展開
- 5 面積
- 5.1 量の概念
- 5.2 面積概念のミスコンセプション
- 5.3 面積指導での問い
- 5.4 教育課程実施状況調査における面積の調査結果
- 5.5 平行四辺形・三角形の面積
- 5.6 台形の面積
- 5.7 面積公式の統合
- 6 割合
- 6.1 割合指導の実態
- 6.2 割合の定義
- 6.3 割合指導の実際
- 6.3.1 くらべ方
- 6.3.2 導入教材の検討
- 6.3.3 ゴムの伸びの教材
- 第3章 学び合う授業の構成
- 1 学び合う授業の特徴
- 1.1 算数科授業における問題点
- 1.2 学び合うことの意味
- 1.3 学び合う授業での学習観の変容
- 1.4 教師の問うべき問い
- 2 学び合う授業と問題解決型の授業
- 2.1 学び合う場づくり
- 2.2 無答や誤答をどうするか
- 2.3 問題の提示
- 2.4 自力解決の場
- 2.5 比較検討の場
- 3 低学年での学び合う授業
- 3.1 発達と学び合い
- 3.2 ひき算の教材研究
- 3.3 低学年での学び合う授業展開
- 4 算数的活動を生かした授業
- 4.1 算数的活動の役割
- 4.2 分数指導の一般的な展開
- 4.3 分数概念の導入についての検討
- 4.4 パターンブロックを用いた分数概念の導入
- 4.4.1 問題の提示
- 4.4.2 関係を式で表す
- 5 教科書を活用した授業
- 5.1 教科書で教える
- 5.2 三角形の面積を求める
- 6 数学的表現力を育てる授業
- 6.1 数学的な表現力
- 6.2 式による表現
- 6.3 式をよむ活動での学び合い
- 7 活用する力を育てる授業
- 7.1 活用する力の意味
- 7.2 「活用」に関する問題の分析
- 8 授業研究を通した反省的実践
- 8.1 授業研究を通した検証
- 8.2 授業の分析
- 8.3 授業研究で学び合う
- 第4章 数学的な思考力・表現力の評価
- 1 書く活動による評価
- 1.1 自己評価の意味
- 1.2 思考力の評価と学習感想
- 1.3 学習感想の役割と様相
- 1.4 学習感想と数学的な考え方の評価
- 2 ノート記述からの評価
- 3 一人の子どものノート記述分析
- 3.1 乗法の意味の拡張に関する分析
- 3.2 計算法則の意識に関する分析
- 3.3 記述表現の全体的な分析
- おわりに
はじめに
私は年間60〜70の算数の研究授業を参観している。参観した授業の中で,よい授業だと感じたものには,いくつかの共通点がある。
第一は,教師と子どもとの関わりで,子どもを誉めて,認めている点と子ども同士の相互作用を活性化しようとしている点である。教師は,子どもに答えが間違えても自分の考えを表現することが大事であることを常に話している。算数の授業で大切なことは,自分の考えを他の子に知らせることと同時に他の子の意見を聞くことである。子どもは自分の考えに対して,不安や葛藤を持っている。そのような不安を解きほぐし,子どもの意見や考えを全員に知らせることが教師の役割である。教師から誉められ,認められることで,子どもは自分の意見を表明したことに安堵感を持ち,また発言をしようと考える。また,そのような教師の活動が,子ども同士がお互いの意見を認め合い,誉め合い,意見交換を活性化することに関わってくる。
第二は,授業展開が柔軟なことである。指導案にこだわっていない。指導案は,綿密に計画して書かれたものである。しかし,実際に授業が始まったら,指導案通りに進めるのではなく,子どもの実態に合わせて,教師が柔軟に修正して展開をしている。
第三は,問いの構成である。「なぜ」「どうして」という根拠を明らかにする問いや「いつでもいえるのか」という一般性・整合性を問うている。これは,教材や学年が違っても,算数の授業の問いには共通するものが明らかになっている。
これらの3つの点は,いずれも子どもの実態に根ざした教師の活動である。そこには,教師の授業観・学習観・子ども観が目に見える形で現れているといえる。
私は,算数の授業力向上には,2つの方法があると考えている。一つは,観て学ぶという日本の伝統的な「道」の文化である。優れた達人の技や型を観て,真似ることを通して,やがて,型を離れ,新しい型を作るという文化である。「道」の授業研究は,授業をたくさん観て,よい所を真似ることである。真似ることで,教師の問いかけや子どもの反応を自ら体験することである。そこから,授業観・学習観を知り,他の教材や学年でも通用するか試みる。それをくり返すことで,よりよい授業を生み出し,子どもの考えを育てることにつながっていく。
もう一つは,詳しいデータを収集し,それを分析することで,誰もが同じようにできると考える「プラグマティズム」の文化である。「プラグマティズム」の授業研究は,正確な授業記録の収集である。授業の記録を丁寧に再現して,そこからよい点や問題点を見いだすことである。教師は,感覚や感性で授業について語り合うのではなく,授業で繰り広げられた教師と子どもとの具体的なデータや一人の子どもの表現を収集して,事実に基づいた話し合いをすることである。
この2つを協調し,融合させることで授業力向上を目指したいものである。
本書は,明治図書の月刊誌『楽しい算数の授業』に1年間連載した「『確かな学力』をつける教材研究」と「『学び合う算数』の授業づくり」の2つをまとめ,加筆・修正したものである。数学的な思考力・表現力の育成について,教師の問い,教材の価値,子どもの活動という視点から述べている。本書が授業力の向上につながればと考えている。多くの方々からのご意見,ご批判を頂ければ幸いである。
最後になったが,明治図書編集部の石塚嘉典氏には,連載の時にも,また本書の企画,構成など様々な面から貴重なご意見や暖かい励ましを頂いた。心より感謝申し上げたい。
2008年8月 /中村 享史
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- 明治図書
- 中村享史先生の書籍を探していました。復刻してほしい書籍に現在投票中です。復刻を祈ります。2022/2/2640代・指導主事
- 教材の本質を知っているからこそ、主張のある授業づくりができるんだと、改めて思いました。学び合う算数授業づくりにかかわって、数学的な考え方の大切なポイントとともに、具体的な手だても解説されています。また、分数や割合、わり算など、これまでに算数界で議論されてきたことについてもふれられています。算数を専門に研究されている方はもちろん、ほかの教科・領域などについて研究されている方にもおすすめの一冊です。2008/9/27ルート