- まえがき
- 第1章 全国の企業就労自閉症者の職場適応実態(373例の検討)
- 1 全国調査の概要
- 2 職種と知的能力
- 3 仕事の形態
- 4 職場適応状況
- 5 作業量の変化
- 6 作業の質の変化
- 7 不適切行動の変化
- 8 仕事面の支援
- 9 生活面の支援
- 10 作業面の問題点
- 11 生活面の問題点
- 12 今後改善すべきこと
- 13 現在の仕事量
- 14 調査結果からの検討
- 第2章 企業就労事例
- 重度精神遅滞を伴う自閉症者の就労事例
- @ 鰹節製造工場で働くK君の事例
- 1 対象者の実態
- 2 就労状況
- 3 職場での工夫
- 4 K君の入社当時からの成長と今後への期待
- 5 K君の進路指導
- 6 家庭の協力体制
- A 繊細なウニを扱う,人との関わりが苦手なCさんの事例
- 1 対象者の実態
- 2 高等養護学校での生活の様子
- 3 現場実習
- 4 再度,現場実習
- 5 雇用後
- B 表出言語をもたないO君が冷凍食品会社で活躍している事例
- 1 対象者の実態
- 2 就労を実現したい!
- 3 就労に向けて
- 4 現在の状況
- C 自傷が改善でき,安定して働けるようになったW君の事例
- 1 対象者の実態
- 2 W君の学校時代の様子
- 3 W君の現場実習
- 4 就職後のW君
- 5 会社の取り組み
- 6 W君の現在
- D 職場の理解と支援を得て精米工場で働いているI君の事例
- 1 対象者の実態
- 2 入学時の様子と学校での支援方針
- 3 現場実習の様子
- 4 就職をめざした現場実習
- 5 おわりに
- 中度精神遅滞を伴う自閉症者の就労事例
- @ スーパーで張り切って働くK君の事例
- 1 対象者の実態
- 2 K君の日常生活の変容と産業現場等における実習(現場実習)の経過
- 3 卒業後の支援と経過
- 4 まとめ
- A 職種選択・決定を大切にしたL君の事例
- 1 対象者の実態
- 2 L君の産業現場等における実習(現場実習)の経過
- 3 まとめ
- B 電装部品工場で働くH君の事例
- 1 対象者の実態
- 2 就労状況
- 3 職場での工夫
- 4 H君の入社当時からの成長と今後への期待
- 5 H君の進路指導
- 6 家庭の協力体制
- C プラモデルの化粧箱工場で働くI君の事例
- 1 対象者の実態
- 2 就労状況
- 3 職場での工夫
- 4 I君の入社当時からの成長
- 5 I君の進路指導
- 6 家庭の協力体制
- D 食品会社で働くパニック行動があるI君の事例
- 1 対象者の実態
- 2 高等養護学校在学中の様子
- 3 食品会社への就職
- 4 解雇の相談
- 5 学校の卒後支援
- 6 地域の関係機関との連携
- E 身体障害者療護施設で働くY君の事例
- 1 対象者の実態
- 2 進路懇談会の結論
- 3 4つの仕事に挑戦して
- 4 Y君の人徳(療護施設との縁)
- 5 卒業間際の現場実習(3年3学期)
- 6 卒業後の経過(ジョブコーチによる支援を経て)
- F 「僕を使ってください」――親子で職場を開拓した北川将也さん――
- 1 対象者の実態
- 2 はじめに
- 3 養護学校高等部時代
- 4 親子の熱意
- 5 現場実習
- 6 入社して
- 7 会社の一員
- 8 働くとは
- G 支援機関との連携で就労が安定しているTさんの事例
- 1 対象者の実態
- 2 一般就労をめざしましょう!!
- 3 Tさんにあった仕事を見つけ出そう!!(職場開拓,仕事づくり)
- 4 実習先のことを知ろう!!(事前の学習)
- 5 Tさんと一緒に働くぞ!!
- 6 Tさんと家庭,職場を支えるパートナーを求めて!!
- H マクドナルドのマニュアル化が効果的だったH君の事例
- 1 対象者の実態
- 2 マクドナルドF店での現場実習の様子
- 3 現在の様子
- I 生活支援ワーカーの紹介で再就職できたM君の事例
- 1 対象者の実態
- 2 就職をめざした現場実習
- 3 職適(職場適応訓練事業)を経て就職へ
- 4 生活支援ワーカーさんとの出会い
- 5 再就職に向けて
- J 職場定着に5か月かかったM君の事例
- 1 対象者の実態
- 2 職場定着までのいきさつ
- 3 支援とネットワーク
- 4 養護学校時代の作業学習を通して
- 5 願い
- 軽度精神遅滞を伴う自閉症者の就労事例
- @ 埋蔵文化財の発掘作業にチャレンジしたK君の事例
- 1 対象者の実態
- 2 はじめに
- 3 事業団の方々の理解を受けて
- 4 発掘現場での実習にチャレンジ
- 5 就労の実現
- 6 職場のみなさんに支えられて
- 7 おわりに
- A ユニクロのバックヤードで働くSさんの事例
- 1 対象者の実態
- 2 ユニクロで働く姿が目に浮かんだ
- 3 支援のポイントを提示
- 4 お客様状態からのスタート(3年1学期)
- 5 従業員としてやっていけるか?(3年2学期)
- 6 卒業後の経過
- B 趣味を生かした職業への転職で世界が広がった伊藤淳司さん
- 1 対象者の実態
- 2 はじめに
- 3 進路決定へ
- 4 追指導
- 5 転職へのきっかけ
- 6 転職への決断
- 7 広がる世界
- 8 夢を持って
- C 会社の理解で自動車免許を取得したK君の事例
- 1 対象者の実態
- 2 会社倒産を乗り越えて
- 3 再実習(先輩T君との関係)
- 4 家庭との連携
- 5 K君の目標達成(自動車免許の取得)
- D 3度の離職を乗り越えて頑張っているT男の事例
- 1 対象者の実態
- 2 卒業後の経緯
- 3 T男の様子と課題
- 4 T男の余暇の過ごし方
- 5 まとめ
- E 家庭のがんばり,会社の理解で就労に結びついたMさんの事例
- 1 対象者の実態
- 2 現場実習の積み重ね
- 3 現場実習で見えてきた課題
- 4 飛び込みで企業訪問を繰り返して
- 5 最後の現場実習
- 6 卒業後の様子
- F ラップ・入れ物を作る会社で意欲的に働くK君の事例
- 1 対象者の実態
- 2 お母さんと頑張ってきたK君
- 3 就労をめざした高等部
- 4 彼をサポートし励まし続ける職場
- 5 これからをどう生きていくか
- G 勤続25年の長期就労を維持しているS君の事例
- 1 対象者の実態
- 2 就職に向かって
- 3 企業の配慮とアフターケア
- 4 現在の就労状況
- H 保護者の勤めている会社に就労したS君の事例
- 1 対象者の実態
- 2 在学中の現場実習
- 3 卒業後に始まった現場実習――挫折からの挑戦――
- 4 就職後のS君
- I 余暇活動の充実が働く意欲を支えているK君の事例
- 1 対象者の実態
- 2 入学時の様子と学校での支援方針
- 3 余暇活動での活躍
- 4 就職に向けて
- 5 卒業後の様子
- 第3章 就労実現に向けて何が必要か
- 1 未就労者に学ぶ
- 2 挫折事例に学ぶ
- 3 職場に学ぶ
- 4 親に学ぶ
- 5 職場側の課題
- 6 職場適応の要因
- 7 就労者,未就労者の生活実態の比較
- 8 就労実現のための指導の基本
- 9 就労支援
- 10 就労実現,就労維持のための6つのポイント
- あとがき
まえがき
知的障害養護学校においては,一人でも多くの子どもたちの就労の実現を目指した取り組みが日々行われている。しかも,ものごとに極端にこだわったり,パニックを起こすなど,いろいろな不適切行動を伴っている自閉症児・者の場合,一般的に予後が悪く,教育効果が上がりにくいことから,就労の実現はなかなか厳しいのが現状である。
一体その原因はどこにあるのだろうか。教師の中には「自閉症という障害そのものが就労を難しくしている」「自閉症児の就労はとても考えられない」「職場で受け入れてもらうのが大変である」など,と指摘する声も少なくないが,果たしてそうであろうか。筆者は自閉症児の就労を実現する取り組みを一貫して行い,その実現に努力してきた。筆者が日々の実践の中で特に注目していることは,知的能力が高く,障害の程度が軽いものが必ずしも就労できているとは限らず,能力はそれほど高くなくて不適切行動を伴っているにもかかわらず,就労できている者が多く存在するという事実である。こうしたことを考えると,自閉症児が就労できないのは,彼らの障害に問題があるのではなく,むしろ指導者側の就労の実現に向けての取り組む姿勢に問題があるのではないかと感じる。指導者が,彼らの持っているせっかくの能力を引き出していないし,また,それを社会で生かす支援も行っていない,ことが原因である,と言えば言い過ぎだろうか。
では,指導者が彼らに対して,どういう支援や取り組みを行えば,就労の実現ができるのであろうか。本書は,こうした課題を解決する目的でまとめたものである。
まず第1章には,全国の知的障害養護学校卒業生を対象に,自閉症者の企業就労状況及び職場適応状況を調査し,その結果をまとめた。実に全国で373名の自閉症者が多種多様な企業で生き生きと活躍していることが確かめられた。詳しくは本文で示すが,決して知的能力の高い者だけではない。低い者もたくさんいる。しかも,そのほとんどが職場に適応し,見事なまでに自閉症特有の能力を発揮し,職場から高く評価されているのである。彼らは職場に適応するのが難しい存在ではなく,間違いなく適応できる存在である,と言うことができる。
第2章では,373名の企業就労者のうち,実際に就労を実現させた先生方にお願いし,知的能力が重度の者から軽度の者まで26名の就労事例を取り上げ,就労の実現へ向けての取り組みと成功要因をまとめていただいた。事例をお読みいただければ分かるが,先生方の子どもを思う愛情,真剣さ,そして自立を目指す教育姿勢,時間を超えた絶え間ない努力には感心させられる。同時に,やはり彼らの将来は指導者次第である,ということをつくづく感じる。
第3章は就労実現に向けて学校,家庭,職場がどういう取り組みを行わなければならないかを,筆者のこれまでの研究と実践の成果からまとめた。具体的には自閉症者の企業就労に関わる課題を学校,家庭,職場の三側面から検討し,自閉症者の就労を拡大,維持するための方策について具体的にまとめた。
本書を参考に,一人でも多くの先生方や親御さん方に企業就労に向けた取り組みを行っていただき,一人でも多くの企業就労者が実現することを心から念願している。
「彼らの将来が指導者により決まるとするならば,指導者が変わる努力をしない限り,彼らは変わらない」ことを筆者も肝に銘じて,今後とも彼らの職業生活を支援していきたいと思っている。
2004年4月 編著者 /上岡 一世
就労には知的障害の違いによって差があるのではない、それ以外に大切なことがあることを、知ることができます。
就労は高校段階で考えるのではありません。
小学校段階から考えなければなりません。
ぜひ、特別支援学校小学部の教師に手にとってもらいたい書籍です。
もちろん、中学部、高等部の教師も。
そして、保護者に読んでいただきたいです。