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大型連休も終わると、学校にも落ち着きが出てきます。5月中旬からは、クラスごとにその学級担任のカラーがはっきり現れてくる時期です。クラス替えのあるないもありますが、昨年度受け持っていた前担任の色も、この時期までは引っ張りません。現担任、つまり自分のカラーが、今のクラスのカラーとなっています。
そんなこの時期、さらなる一手を打つのに、この「多段階信託変更リーダーシステム」の仕組みはとても有効です。このリーダー選びの仕組みの元は、アースリーダーズクラブというサイトで発表されていたものです。本連載では、その集団のリーダーのことを「アースリーダー」と呼んでいます。最近、私はこのアースリーダーの頭文字「E」を取って、「Eリーダー」(いいリーダー)と呼ぶようにしていますので、本連載でも以下、「Eリーダー」と呼ぶことにしましょう。
さてこの仕組み、年度の最初からでなく、途中導入でも効果を発揮します。すでに学級委員長を決めていてもOK。学級委員長という役職的リーダーがいて、Eリーダーという、実働的リーダーがいるという二重構造でもやっていけるからです。
クラスの人間関係は休み時間に現る!
子どもの人間関係を見るとき、一番分かりやすいのが休み時間の過ごし方です。外でボール遊びをする子ども、外でおにごっこ系の遊びをする子ども、外の遊具で遊ぶ子ども、教室で絵を描く子ども、図書館で本を借りてくる子ども、どこのグループにも属さず1人で過ごしている子ども……様々な過ごし方があります。
その中で、クラスの一番多くの人数がかかわって遊んでいるグループには、やはりそのクラスのリーダーがいることが多いです。例えばボール遊びだと、給食を食べ終わった後、真っ先にクラスのボールをキープし「休み時間、ドッチボールしようぜ!」とみんなに声をかけているようなタイプです。このリーダーは、いわゆるクラスの人気者です。ずば抜けて勉強はできないけれど、明るく活発で、ユーモアがあり人望があります。
また遊ぶ内容に注目してみると、1年中同じ遊びしかしないというのはまれで、大概その時々の流行があります。どのタイミングで流行の遊びが変わるかというと、ここでもリーダーが変えていることが多いのです。体育の授業でサッカーをしたら、リーダーが「今日から休み時間はサッカーしようぜ!」などと声をかけ、遊びが変わっていきます。
子どもは休み時間、「何をして遊ぶか」も大事だけれど、それより大事なのは「誰と遊ぶか」なのです。だから、ドッチボールをするときも、ドッチボールがしたいという理由もあるけれど、この友達と遊びたいという思いの方が強いのです。そしてそれは、人間の行動の根源でもあるのです。
逆を考えてみると分かりやすいです。やりたい遊びのグループに自分の嫌いな子がいて、ほかのグループに好きな子がいたら、その日は、やりたい遊びよりも、好きな子がいる遊びを選ぶと思います。
最終決定権者は誰だ?
人間関係を考えるとき、一番小さな単位は2人です。分かりやすい例として夫婦の関係で考えてみましょう。
何かを決めるとき、夫婦でお互いに話し合い意見を交わしますが、多くの夫婦を見てみると、最終決定権者は夫か妻かが決まっている家庭が多いように思います。
「亭主関白」や、「奥様天下(かかあでんか)」という言葉は、もともと家庭の中で最も権力がある夫婦関係や家族関係を意味しています。
最終決定権をもった方は、ここぞという場面では自分で最終決定します。しかし、晩ご飯のメニューについてや、衣替えをいつするかや、ゴミ出しをいつするかなど、些細なことは決定権をもたない方に委ね任せます。これは、決定権をもたない方に対して「この場面はあなたが決めていいよ」ということを最終決定しているのです。
学校現場でも、2人組みで何かするとき、力関係が存在する場合はすでに最終決定権者はどちらかに決まっています。そうでない場合は、まずは2人で相談し、決まらなかったらじゃんけんで決定権を決めることも多いと思います。人数が、班(少人数のグループ)になり、3人4人と増えていくと、相談でうまく決めていくことができる場合と、意見が合わず、結局じゃんけんで決めていく場面が出てきます。
「じゃんけん」より納得の「Eリーダーシステム」
このように何かを決定していく場合に、じゃんけん以外の決定権者の決め方として提案したいのが、このEリーダーシステムです。じゃんけんは奥が深く、マインドが強かったり、分析力があると勝ちが多くなるなど、実は平等ではないからです。
例えば3人の中から決定権者を決める場合、3人はそれぞれ、以下の3つのどれかの立場を表明します。
- 自分が決定権者になりたい
- 2人のうちどちらか一方に決定権者になってほしい
- 選べないので判断を保留で白紙
それでは、3人をそれぞれA、B、Cとして、どのようなケースがあるか考えてみましょう。AがEリーダーになる場合をシミュレーションすると、以下のようになります。
Aがなりたい、またはAが白紙で、B、CがAを選んだ場合
→AがEリーダー
Aがなりたい、またはAが白紙で、BがC、CがAを選んだ場合
→AがEリーダー
Aがなりたい、またはAが白紙で、CがB、BがAを選んだ場合
→AがEリーダー
AがBを選び、B、CがAを選んだ場合
→AがEリーダー(ループ)
AがCを選び、B、CがAを選んだ場合
→AがEリーダー(ループ)
3人とも自分を選んだ場合、または、3人とも白紙の場合
→最初に均衡を破ってB、CがAを選んだ場合、AがEリーダー※「ループ」に関しては連載第10回の記事を参照
このようなEリーダー(決定権者)決めを場面ごとにやっていくと、みんなが納得する判断、行動ができていきます。
Eリーダーを「いいリーダー」にする2つのポイント
その1 立候補なし、全員が立候補者
所属するグループの人数が多くなるほど、みんなが満足できるポイントを意識してバランスを取る力に長けた子どもが、Eリーダーになってきます。みんなの意見や気持ちを聞くとき、上から高圧的に聞くのでもなく、下から媚びて聞くのでもなく、ちょうどみんなの真正面になるような聞き方をしていることがポイントです。
基本的には、教室や学校は何でもありでいいのです。ただその際、それを集団全員でやった場合に広く成り立つのか、続けていった場合に誰も困らないか、という視点が大事になります。
このEリーダーは、全員が立候補者であり、全員の1票が必ず反映される仕組みになっています。つまり、これまでの立候補者を選ぶ選挙と違って、選ばれる人の分母が全体であるということ、選ぶ人の分母も全体であること、ここが大事なポイントとなっています。
結果、Eリーダーは、その人個人の利益や、一部の人の利益に走ると抑制力が働き、全体の利益となる発案、行動ができるバランスのとれる人になっていきます。これは、子どもでも十分理解でき、体感できる仕組みなのです。
その2 リーダー変更はいつでも可能
発明王、エジソンが「多くの失敗を重ねてたどりいた成功ですね」と質問された際の答えが有名な言葉になっています。「私は失敗と考えたことはない。こうしたらうまくいかないという発見の連続なのだ。その発見の積み重ねが成功につながるのだよ」と。
人間関係は、試行錯誤してよりよい関係を築くものであると言えます。どんな価値をもってどんな集団で過ごすのが、自分にとって、またみんなにとってより楽しく快適であるか、たくさんの失敗ではなく発見をしながら学んでいく上で、このいつでも変更可能という仕組みは大きな力を発揮します。
この仕組み、その発想をもって取り組むと、子どもたちは多くの経験をしながら、成熟した集団に向け進化を続けます。毎日が信託変更日、今のEリーダーが気に入らなければ即変更。試行錯誤を繰り返し、人として大事なものが、判断の基準になっていく、そんな仕組みです。
今回で本連載は最終回ですが、この追試の交流や、質問に応えるWEBページを作成中です。よろしければ、そこでまたお会いしたいと思います。長らくのご愛読ありがとうございました。
筆者拝
- 本連載で紹介の「多段階信託変更リーダー選出システム」の集計サイト「アースリーダーズクラブ」
http://www.earth-leaders.com/