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子どもになにを教えるべきか?…起こりうる「変化・リスク」への対応
学校教育で教える「ミニマム・エッセンシャルズ(最低基準)」は、学習指導要領がその大凡を規定しています。教育公務員である教員は、一般にその具現化の一つである教科書に沿いながら授業を展開していくことになります。では教育公務員は「ミニマム・エッセンシャルズ=教科書」さえ教えていればそれでよいか。そうとは言えないでしょう。
なにをこそ子どもたちに教えるべきか。いつも考えておく必要があります。
2011年3月11日、東日本大震災が起こりました。わたしはこの大震災を宮城県仙台市の自宅4階マンションで体験しました。その後の避難生活の中、わたしが考えたのは、「この大震災に対して、自分の行ってきた教育活動は果たして役に立つことがあったろうか」ということです。平穏な「いま・ここ」だけではなく、将来起こりうる「変化・リスク」に対しても正対することのできる教育を考える必要があるはずだと強く感じました。
防災ゲーム「クロスロード」
阪神・淡路大震災で災害対応にあたった神戸市職員へのインタビューを基に作成された「クロスロード」というカード式の防災ゲームがあります。「クロスロード(Crossroad)」とは岐路、分かれ道のことで、そこから転じて、重要な決断を意味します。大都市大震災軽減化特別プロジェクトの一環として、矢守克也氏(京都大学防災研究所教授)、吉川肇子(慶応義塾大学商学部准教授)、綱代剛氏(ゲームデザイナー)により開発されています。そのやり方は次の通りです。(出典:矢守克也・吉川肇子・綱代剛『ゲームで学ぶリスク・コミュニケーション―クロスロードへの招待―』ナカニシヤ出版・2005)
- 5人または7人の奇数人のグループを作ります。
- 提示された「ジレンマ」に対して各プレーヤーはYES/NOのカードを裏向きで提示します。
- ファシリテーター(ゲーム進行役)の合図で一斉にカードをオープンにします。
- 多数意見には1ポイント(青座布団)。ただしグループの中に一人だけ違った意見の人がいた場合は特別ポイント(金座布団)を与えます。
- 「ジレンマ」についてグループで話し合います。プレーヤーは自分の意見・判断の理由を述べなくてはなりません。
「ジレンマ」は、イラストのように、どちらを選んでも何らかの犠牲を払わなければならないようなものが多数あります。プレーヤーは「YES」か「NO」を選び、お互いにその答えを選んだ理由を話し合う活動を通し、次のようなことを学ぶことができます。
- 防災に関する問題を我が事として考えることができます。
- 自分とは異なる意見や価値観の存在に気づきを得られます。
- 少数意見に耳を傾けることの重要性などについて考えることもできます。
「変化・リスク」への対応をこそ、ゲームで学ぼう!
日本の戦後教育は、高度経済成長とそれを支えた終身雇用・年功序列という日本型システムを作り上げるための教育を行ってきました。それは教科書に書かれるような〈大事なこと(唯一の正解)〉をできるだけたくさん理解し、覚えさせる教育でした。
しかし3・11の大震災で明確になったことは、安定的環境のもとで大事なことを効率よく学ぶシングルループの学習だけしていても、「変化・リスク」に対応できないということです。
大震災はもちろん、いま日本は、経済的にも政治的にも、大きな停滞の中にあります。それは世界が「変化・リスク」と共にあること、特に、現在が、大きな「変化・リスク」と向かい合う時代にあることと関係しています。想定の範囲内にある〈大事なこと(唯一の正解)〉を学ぶのはよいとして、同時に大きな環境変化の中で「変化・リスク」に対する対応能力を育てて行くダブルループ型の学習が不可欠だということです。
では、どうすればそれを学べるのか。繰り返しになりますが、それは教科書中心のそれとは異なるはずです。ゲームに象徴される体験型学習の必要性がいま猛烈に高くなっているようです。いま改めて体験型学習ゲームの開発・普及を推進すべしと考えます。
- Web CROSSROAD(ウェブクロスロード)
http://maechan.net/crossroad/ - 内閣府防災情報のページ:災害対応カードゲーム教材「クロスロード」【チームクロスロード】
http://www.bousai.go.jp/kyoiku/keigen/torikumi/kth19005.html