
- 「学習ゲーム」アイデア
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「心に残る授業」とは
「心に残る授業」について簡単なアンケートをとることがあります。みんなでその場で出し合って、その「心に残る授業」をシェアすることも少なくありません。では、たくさん体験をしたはずの授業の中で、どういう授業が心に残るのでしょうか。
たとえば、ある音楽家の方は次のように語っています。
「『いずみのほとり』という曲が印象に残っています。先生は東北の出身で、歌詞がなまっていたのがとても印象的でした。『水よ 水よ〜』を『みんずよ〜みんずよ〜』と模唱してくれました。授業中はまねしませんでしたが、学校の帰り道、友達とよく『みんずよ〜』と歌ったものです。実に愛すべき先生でした」
井上ひさしさんの小説に出てきそうなエピソードです。
宮沢賢治の愛した学習ゲームアイデア「スペリング競争」
畑山博著『教師 宮沢賢治のしごと』(小学館・1988)という本があります。
宮沢賢治は岩手県の花巻農学校というところで教師として働きました。創作の片手間に授業をしていたのではなくて、本気で心を込めてやっていた感じです。この本には賢治の教え子たちへの取材によって再現された「心に残る授業」がいくつも収録されています。
その中には学習ゲームの授業事例も少なくありません。
たとえば、英語のスペリング競争です
- 生徒をA、Bの2班に分けます。
- たとえば、A班の一人が黒板に向かってbookと書きます。
- 次にB班の選手が出て、bookの終りのkを頭文字にした単語を思い出して書きます。たとえばkingです。
- 出てきたものをどんどん書いて、ついには黒板いっぱいにします。
- 賢治先生はそれを消して、さらに続けさせます。
みんなわくわくしながら、いつの間にかたくさんの単語を覚えていたと、教え子たちは証言しています。
この授業で興味深いのは4、5です。授業のある一定時間、グループ対抗でスペリングによるしりとり合戦をする授業はありそうですが、それを黒板いっぱいになるまで続け、さらには、その板書を消してまで続けたという点がおもしろいです。
別のある日の授業。リーディングをやっていると、皆が飽きてきました。すると賢治は「ではまたスペリング競争をやろう」と言ったそうです。
その日のスペリング競争は、A班、B班に分かれて、辞書を見てもよいからできるだけ文字数の多い単語をぶつけ合うというもの。両班必死になって、長い単語を見つけて戦いました。
初めはどんどん進みましたが、そのうちに、前の記録を破るような長い単語を見つけられなくなります。すると、賢治が、いかにもいたずらっぽい顔でこう言ったそうです。
「諸君がまだ見つけられないものがもう一つある。smiles。微笑だな」
「どうしてですか?」
「だって、この字なら初めのsと最後のsの間が一マイルもあるのだから」
生徒たちは歓声を上げて、笑い出したそうです。いい生徒たちです。
「スペリング競争」の学びのしかけ
この賢治の「スペリング競争」という学習ゲーム実践にある「学びのしかけ」は変化を伴ったくり返しということです。向山洋一氏が著書の中で原理を書いています。
言葉の教育ではくり返しがものすごく大事なこと。でも、「A→A→A→A」「A→B→C、→A→B→C…」というくり返しは、単調であるがゆえに苦痛を伴うことになります。
そこで変化を伴ったくり返し。「A→A'→A''→A'''」「A→B→C、→A'→B'→C'→…」と少しずつパラメーターを変化させつつくり返します。
学習ゲームを使う時、それを使う人の教育的な信念が問われる気がします。単なる眠気覚まし(教師の都合)で使うか。それ以上のもの(心に残る)として使うのか。たとえば、「smiles」の部分は賢治らしいユーモアがあって素敵です。しかし教育学的に考えると、板書を消して続けた4、5の部分も見逃せません。これは発想法の指導などで使われる「出し尽くす」作業です。記憶力ではなく想像力を刺激する学びのしかけの一つです。
