- 著者インタビュー
- 算数・数学
平成14年3月に、以前から知り合いだった和束小学校の川下校長から手紙で顧問のオファーがあった。よく聞くと、京都府全体の算数の研究会で研究発表をするということだった。その時点では、川下校長が算数部の専門家だと知らなかった。児童のレベルの困難さを話してくれた。別れ際に、駐車場で、「うちの教員は算数の授業の仕方がよく分からないだけなんです。それを知ればがんばってくれますから」と川下校長は言った。なるほどと思った。
学校訪問してみると、算数の授業としては空回り。教師は一生懸命教えているけれど、指導技術や教材研究力の点で大いに問題があった。児童の学習の様子を見てもきびしかった。ただし、協議会での教師達の熱心さは伝わってきた。しっかり身につけたいという気持ちが伝わってきた。困難さも感じてはいたが、和束小学校をなんとかしようと学校を出るときには覚悟を決めた。
前日のお昼、または当日の朝に本時の学習の予習をさせるのである。一部の児童に対して取り出し指導をする。
例えば、分数のたし算を指導するならば、その前のレディネスである通分や約分、または、簡単な分数の計算を復習・予習させておく。すると、その児童は、当日の算数の授業で同じことを学習するのだから、よく理解できるのである。先ほど学習したばかりであるから、理解度の早い児童に対して臆病にならずに理解できることになる。
現在の算数の授業では、理解の早い児童も遅い児童も一斉に学習がスタートする。これでは、毎日、格差がつくばかりである。習熟度別指導というのは、この格差に対応した指導である。ゴルフで言えば、ハンディをつけてあげることにあたる。
先取り学習によって、教師は残り9割の児童への指導に集中できるようになる。また、先取り学習をした児童は積極的に学習に参加するようになる。
もうご存知の方も多いとは思いますが、それぞれどのような方法なのか、簡単にご紹介ください。
どちらの方法も問題解決型の授業を目指すために行う方法である。
「○つけ法」とは…
・子ども一人一人に対して子どもが問題を解決した過程と結果に対して赤ペンで○をつけていく方法である。×はつけない。教卓にもってこさせる方法ではなくて、教師が机間指導で回っていく方法である。
・解決過程と解決結果に対しての即時評価と即時指導をするために、できていなければできるための指示をすばやく出す。できていればそれを称賛し、次への行動指示をだす。だから、結果だけを○と×で評価するのではなくて、○になるようにしていく方法である。よって、部分肯定の精神でする。
・(1)スピード、(2)正確さ、(3)声かけ、(4)実態把握、(5)判断が大切である。
「意味づけ復唱法」とは…
・子どもに算数・数学の意味づけを図るために、教師または子どもが、お互いに発言を復唱することによって、授業の内容の確認、補完、焦点化、共有、記憶に役立てることである。
・教師の言葉を覚えさせるために何度も繰り返して復唱させる方法ではない。
「○つけ法」は、授業の中での記述言語に対する指導技法であり、「復唱法」は音声言語に対する指導技法である。
「○つけ法」については、明治図書より小学校算数、中学校数学についての単行本が出されている。
「復唱法」については、月刊『楽しい算数の授業』に特集記事がある。
また、私のホームページでは、「○つけ法」と「復唱法」に関する「ハンドブック」と「DVD」の紹介をしている。こちらを見てほしい。
私は「授業力」を次の公式で表している。
授業力=(教材把握力×子ども把握力×授業技術力)×精神エネルギー
この公式のポイントは4つの要素のかけ算であるということだ。問題解決型の授業をせよと言っても、子どもがノートに外化して思考過程を瞬時に読みとる力がなければ、また、後の授業で使う技術なければ、なかなかうまくいかない。子どものつぶやきなどの声に対して瞬時に的確に切り返す力がなければうまくいかない。私は、そのような教師の技能を鍛えることの大切さを主張している。精神エネルギーとは、元気よさ、熱意などのパワーとともに、子どもの心もありのまま受け止める受容・肯定の精神のことである。
まずは、「○つけ法」にしても「復唱法」にしても本で学んで素直にやってみることである。できれば、本物の「○つけ法」や「復唱法」に触れてほしい。そのためには、全国8箇所で開催している「授業力アップ志水塾」に参加してほしい。40名しか募集しない教師塾である。
本物の「○つけ法」は、○つけをした後、子どもの手がぱっと上がるような空気になる方法である。○つけしても授業の空気が変わらないというのは、本物にはほど遠い。
次に、よい授業を見ることである。その授業をリハーサル(なぞる)することを目指してほしい。真似るというよりは、正確になぞることである。その力ができ始めると確実に授業力は伸びる。