著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
明るい近現代史の授業づくりに歴史遺産の活用を!
愛知教育大教授寺本 潔
2006/12/8 掲載
 今回は、地図学習の専門家であり、近代歴史遺産の教材開発に意欲的に取り組んでいらっしゃる寺本先生に、新刊『近代の歴史遺産を活かした小学校社会科授業』について伺いました。

寺本 潔てらもと きよし

1956年熊本県生まれ。熊本大卒業、筑波大大学院修了、同大附属小教諭を経て愛知教育大教授。人文地理学、社会科教育、生活科教育、総合的学習教育論などが専門。地図学習の専門家でもある。文部科学省学習指導要領作成協力者として現行の指導要領解説(小学校社会)の作成にも携わった。
【編著書】 『“風土”に気づき ⇒ 地域を再発見する総合学習 沖縄発の新しい提案』(2003年)/『エネルギーを軸にした総合学習』(2002年)
【著書】 『社会科の基礎・基本 地図の学力』(2002年) ほか多数。

―まず、「近代の歴史遺産」をテーマとしたのはどうしてですか?

 これまで歴史教材と言えば江戸時代以前のモノや人物という意識が教師にも強かったのではないでしょうか?ましてや近代は戦争一色でイメージが暗いままなので、わが町の明治や大正・昭和の姿に関してはなかなか教師が扱おうとせず、教材開発が進んでこなかった感があります。実は多くの教師にとっても、自分が生徒のときに学習してこなかったせいもあり、わが町の明治や大正・昭和の産業や交通、偉人などに関しては知識が不足しているのです。こういった傾向を断ち切って、子どもたちに自分のルーツを知ってもらいたいと考えたのです。

―「自分のルーツを知る」ことにはどんな学習のねらいがあるのですか?

 近代は、お祖父さんや曽祖父の時代にあたり、子どもが想像できる時間的な範囲なのです。「自分がどこから来たのか?」というような疑問に答えてあげるためにも、自分の町の近代が理解される必要があります。便利な世の中になっていますが、一夜にして成し遂げられたのではないことを近代歴史遺産の学習を通して気づかせることができます。「近代は明るい」ことを教えてあげたいのです。

―近代歴史遺産の学習指導は教師だけでできるのでしょうか?

 心配いりません。すでに全国の県教育委員会文化課や文化協会を軸にして文化庁主導で近代化遺産選定作業がほとんど終わっていて、報告書も出来ています。この報告書が教材のネタになるわけです。でも、ほとんど教師には知られていません。ひどい例では教育委員会の文化課で進んでいる仕事が隣のデスクの学校教育課では全く知られていなかった例もあるくらいですから…。つまり、近代化遺産選定作業は学術的な文化財調査くらいにしか捉えられていなかったということですね。

―外国や国内では近代歴史遺産の指導はどのように行なわれているのでしょう?

 例えばイギリスでは産業革命時期の教材開発はとても盛んです。ワークシートや教科書にも繁栄を誇ったビクトリア時代以降の産業・交通などの遺産を教育でも大切に扱っています。歴史の浅いアメリカでも各都市に歴史協会があり、熱心な教材発掘と州立の歴史博物館や科学博物館が設立されています。国内では別子銅山や横浜市のなどで近代の遺産の教育活用が進んでいます。北海道では「北海道遺産」発見作業がかなりイベント化しつつあります。地域再発見の町おこしにも使える素材ですね。

―そうすれば、社会科だけでなく総合的学習の時間にも扱えそうですね。

 その通りです。総合的学習で扱える絶好のテーマともいえるでしょう。たとえば、ある町に古い橋が残っていたとします。その橋が出来た時代の地域産業の様子や市民生活を調べて、現在に残っているその橋を生きた文化財として見つけていく学習があります。橋の保存や活用を児童生徒たち自身が考えていく学習です。行政や市民に企画・提案する学力が身につくきっかけになるでしょう。地域が輝きを増すきっかけとなりますよ。

(構成:及川)

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