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従来型の読解力は、例えば「登場人物の気持ちを考える」「趣旨を読み取る」といった「情報の受け取り」に重点を置くものでした。それも大切なのですが、それだけでは十分ではありません。
なぜか。国語の学習の目的は、子供たちが実際に社会との関わりの中で自己を実現して生きていくための「言葉の力」を身につけさせることだからです。「読解力」も、「社会の中で生きて働く力」として考える必要があります。
例えば、情報をどう利用するか、それをもとにどう考えるか、なども大切です。実際、社会の中で触れる情報には不要なものもあります。内容を点検しながら読むことが必要になることもあります。書かれていないけれども推測できることは何かを考えることも必要になります。さらに、その情報を得てどう考えるかということも問題になります。読み手としての主体性も問われてくるのです。
折しも、国際調査などで日本の「読解力の低下」がセンセーショナルに取り上げられていますが、従来型国語学習ではこういった観点はあまりなかったということも一因だと言えそうです。
そうした新しい読解力を含め、従来必要とされてきたものも含めて、新しく構造化しなおしたものが本書です。この本ではコンパクトにわかりやすく新しい読解力の本質と背景について解説してあります。
ずっと考え続けていた問いは、「みんな言葉を使っているのに、どうしてある子は国語が『でき』、ある子は『できない』のか」という問題でした。また、「国語の授業で本当にどんな力がついていくのか」、「国語の力のつく授業とはどのような授業なのか」、「そもそも、国語の時間に何を学ぶのか」ということも大きな問題でした。
その問題を解く鍵の一つが「言葉」です。国語の学習の基本にはすべて「言葉」があるからです。読解というのも、ある意味で文字情報を読み込むという言語記号の操作であり、また、知識を構造化していく情報処理のプロセスだと言えます。その仕組みをモデル化することが、これらの問題を考える大きなヒントになるのです。
「読めない」原因も、文字、語彙、文法などの言語処理の段階、文脈把握の段階(理解のための「枠(フレーム)」や記憶の力など様々な要因がある)といったさまざまなプロセスごとに考える必要があります。そのプロセスを整理し、一つ一つを押さえ、伸ばしていくことで、読解のための本当の「力」を身につけることができるのです。読みの主体と読解という行為との相互関係も考えていく必要があります。
「どのように読み取るかの方法や技術」「読み取るための技能や知識を自分でどう認識するか」などが大切なのに、教材の「内容」の解説ばかりしても退屈なだけで「読解の力」はなかなか伸びないのではないかと思うのです。
「言葉」という観点を改めて導入することで、従来の「内容確認型の授業」から、「読みの仕組み」を意識する授業へと、国語の授業を劇的に変えるお手伝いができればと思っています。
セールスポイントとしてめざしたのは「役立つ」「わかりやすく使いやすい」といったところです。
本書は、理論編とワーク編という二部構成です。理論的なことをわかりやすくまとめ、今の「読解力」をめぐる議論のポイントを一通りおさえることをめざしました。それと同時に、ワーク編で具体的な教材の例を示してあります。
ワーク編は、見開きで解説をつけるという構成にしてあります。B5からB4(あるいはA4)に拡大していただくとそのままプリントとして使っていただけます。
ワーク編はいわば授業の「種」のようなものです。必要に応じて適宜投げ込んでいただいくことができます。それぞれの独立性が高く、また、それほど重くもないので、どんな教科書をお使いのクラスでも並行しての利用ができます。
一応の目安として低学年向きから高学年向きまでという配置にしてあります。小学生を主に考えていますが、中学生でも使えます(逆に言えば、難易度はさまざまです。やらせておくだけでもいいというものもありますが、学年やクラスによっては先生の解説が必要なものもあります。ただし、見開きの解説があるので先生の特別な準備は不要)。
コラム的な読み物も工夫点です。子どもたちへの「アドバイス」(読書感想文を書くときに役に立つかもしれないアドバイスなど!?いろいろ)もあります。先生方用に役立つコラムなども紙幅のゆるす限り入れてあります。「メタ言語」など、よく使われるけれども改めて説明しろと言われてもしにくい、といた概念の解説も入れました。
2007年4月、43年ぶりに「全国学力テスト」が実施されました。いろいろな議論がありますが、特に国語に関しては、国語の「学力」を見直すための一つのいい機会となったことは確かでしょう。
「読解」という点から内容的に注意したいのは、特に、B活用型の問題で、資料を読み取って記述する問題、意見が異なる感想文の読み比べの問題、ちらし広告の文章の読み取りの問題などが出されたことです。実際の社会の中、生活の中で活きる国語力といったものが重要視されていると言えます。どういう書き方か(話し方などでも同じですが)というように、表現のあり方について考えることも重要な要素と言えます。
A知識型の問題では、言語事項の問題も数多く出題されるなど、いわゆる基礎・基本を押さえることもポイントになっています。もちろん、試験では、何が問われているかを把握し、情報を選び取り、自分なりに考え、記述する力が要求されます。
本書は、全国学力テストのいわゆる「対策本」を目指したものではありません。しかし、理論編では、新しい読解力が目指すものについてまとめてありますので、日々の授業を改善していくための手がかりになります。 また、ワークは「新しい読解力」を効果的につける教材集でもあり、「全国学力テスト」で重要視されるような力を効果的につけることができるように構成されています。例えば、「読解」に関わる言語事項的なこと、情報の分析、関連づけ、など多様な学習ができます。これによってつけた力は、全国学力テストなどでも発揮されるはずです。その意味では、この本は学力テストにそなえた本質的な力をつけるための本だとも言えるかもしれません。
よく言われるような「捕った魚を与えるのではなく、魚の捕り方を教える」学習が「読解」の学習では特に必要です。そのためには「読みの方法」を焦点化しておくことが必要です。そうできてはじめて、この時間にどんな力をつけるのか、この子にどんな力をつけていくのか、を明確にした授業をすることができるからです。
それとともに、「読み」に主体的に関わることも大切です。単に「正確に理解する」だけで、なんでも鵜呑みにするような読み方をするならば、きちんとした読み方とは言えません。場合によっては「この話の流れは十分に納得できるものかな?」というように批判的に読むことも必要です。また、「どうしてかなあ」「いいなあ」「これは好きではないなあ」のような思いを持つことも反応として大切です。
本書が、様々な「言葉」と出会う子どもたちの目を輝かせ、「言葉の力」を高めることに少しでも役立つならばこれに勝る幸いはありません。