著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
無理なくできて、生徒の思考力・表現力が見違える「数学レポート」実践のヒミツ
元熊本大学教育学部附属中学校教諭木 徹
2011/8/30 掲載
今回は熊本大学教育学部附属中学校数学科の先生方に、新刊『思考力・表現力がぐんぐん伸びる! 数学レポート実践集』について伺いました。

熊本大学教育学部附属中学校数学科

木 徹(たかき とおる)

平成13年4月から平成23年3月まで熊本大学教育学部附属中学校に勤務。現在、熊本市立東野中学校に勤務。

松永 憲治(まつなが けんじ)

平成20年4月から熊本大学教育学部附属中学校に勤務、現在に至る。

日方 和光(ひかた かずみつ)

平成22年4月から熊本大学教育学部附属中学校に勤務、現在に至る。

馬塲 一雅(ばば かずまさ)

平成19年4月から平成20年3月まで熊本大学教育学部附属中学校に講師として勤務。現在、上天草市立今津中学校勤務。

―本書の中には、中学生が書いたとは思えないようなレポートの実物が多数紹介されています。「数学レポート」の実践を始めた当初から、生徒さんたちはこんなにすばらしいレポートを書くことができたのでしょうか。

日方先生:最初からよいレポートを書くことはできませんし、書くことが苦手な生徒も当然います。本校では、まずレポートを書かせる最初の段階で、本書にある「レポートの書き方」というプリントを配布し、説明してきました。また、同級生や上級生が書いたよいレポートを折に触れて見せることで、次第によいレポートを書くことができるようになります。
 よいレポートとは、なにも高いレベルの内容が書いてあるものだけとは限りません。「ここまではわかったけど、ここからはわかりませんでした」もよいレポートです。自分なりの言葉で、ていねいに書くことが大切です。

―同じような取り組みをしたくても、継続的に行うのは難しいのでは、とお考えの先生もいらっしゃると思います。そこで、この「数学レポート」の実践が長続きしている秘訣を教えてください。

松永先生:レポート作成は、生徒にも労力がかかりますし,教師がそれに目を通してコメントを書くのにもそれなりの時間を要します。無理をせず、まずは学期に1回くらいの気持ちで取り組んでみてはいかがでしょうか。少し余裕があれば、学期に2回にしてみてもよいと思います。本校では、1つの単元で1つのレポートということを目安に実践してきました。生徒が書いたレポートには、1時間の授業の様子がライブ形式で個性豊かにまとめてあったり、新たな課題を見いだし多様な考え方で追究してあったりしますから、毎回楽しみながら新鮮な気持ちで読ませてもらっています。

―「数学レポート」のテーマとなる授業を行う際のポイントを教えてください。

木先生:生徒の知的好奇心をくすぐり、授業中に生徒がしっかり考えるような授業を行うことが大切です。ときには発展的な学習内容を扱うこともありますが、決してそればかりとは限りません。基本的な内容であっても、生徒が多面的に考えることができたり、課題づくりができたりする場面があればよいと思います。授業中にしっかり考えたことをレポートにまとめるという作業を通して、自分の考えを再構築し、わかっていたつもりでいたことに気付いたり、さらに疑問点を発見したり、自分なりの発展があったりするものです。

―生徒が書いた「数学レポート」を評価する際、先生はどのような部分に着目して見ていけばよいのでしょうか。

日方先生:基本的には、生徒の考えを読み取り、そしてそのアイデアの数学的な価値を認めるコメントを返すことでしょう。先生からのコメントが何よりの評価だと思います。その上で、優秀な作品は数学の掲示板などで学年全体に紹介すると、紹介された生徒は自信をもつことになりますし、それを見る生徒は、よい作品に触れることでレポートのまとめ方のレベルが上がっていきます。
 また、観点別に評価することも可能です。例えば、課題の発展のさせ方などから「関心・意欲・態度」を、説明の仕方や図の用い方などから「技能」を、課題解決に対する考え方やアイデアなどから「見方や考え方」を評価することができます。

―最後に、本書を手にとり、これから「数学レポート」を実践してみたいとお考えの先生方にメッセージをお願いします。

木先生:まずは、本書を参考に一度実践してみてください。実践なくして成功はありません。教師が無理と思っている間は、生徒の可能性を伸ばすことはできません。本書の中でも紹介していますが、このレポート実践は本校だけのものでなく、一般の公立中学校でも成功しているものなのです。半信半疑で実践した先生も、実践後は「予想以上の生徒たちのがんばりに驚かされた」ということをよくおっしゃいます。何を隠そう、私自身も「本当にこんなレポートが書けるのか…」と疑った一人だったのです。また、レポート実践は絶対にこうでなければならない、なんてこともありません。失敗を恐れずぜひ挑戦してみてください!

(構成:矢口)
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