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「書写」は、文字を読みやすく整えて、速く、手書きすることをねらった学習です。
これまでは、そういう結果のみを求めて、窮屈になっていた面がありました。これからのあるべき「書写」は、誰のため(自分も含めて)に書くのか、何のために書くのかをしっかり考え、それに応じた書き方が効果的にできるようになることを提案しています。
効率を優先する場合には、手書きよりもパソコンがベストだと判断できるような認識を育成することでもありますし、手書きがベストだと判断できる場合には、躊躇無く手書きが実行できる能力を育成することをめざしています。
一方「書道」は、芸術として、文字を素材にし、線や造形による表現美を扱います。多様な美(たとえば、整斉な美、厳正な美、温雅な美、軽快な美、重厚な美、素朴な美、雄大な美、剛健な美など)について、鑑賞力や表現力の育成をめざしていきます。小学校・中学校の国語科書写で扱った楷書や行書の整斉な文字に関する知識や技法が土台となっていきます。だから、「書道」と「書写」は、共通する部分もありますが、目標も内容もかなり異なるのです。
「言語活動の充実」のために必要とされる書写能力には、三つの柱があります。伝達性、記録性、表現性の三つです。それぞれに関して簡単にご説明しましょう。
- @ 伝達性
- 目的や相手、書式にあわせて意思を的確に伝達するという言語活動の伝達性に資する書写能力のことです。その最たるものは、手紙や葉書を書く際に発揮される書写能力です。
- A 記録性
- 外部からの情報に対してメモやノートで受け止める行動や、自分の内部から生まれてくるアイディアを詰まらせないで滑らかに書き留める行動を支える書写能力のことです。
- B 表現性
- 短歌や俳句の創作活動を行う際に、その世界をより魅力的に見せる表現性を保障する書写能力のことです。
以上は、これまでも授業で取り上げてこられましたが、低調でした。というのも、毛筆を使用した書写のみで止まっていると、これら三つの能力を育成する段階にまで到達できないのです。
本書では、実践を「コラボ型」と「スキル型」の二つのタイプに分けてご紹介しました。
作文や壁新聞を書く際には文字を手書きする能力が必要ですが、そういう場面で書写能力を発揮できるように仕組んでいくのが「コラボ型」の授業です。
目標に向かって走っていると、必要なものがわかってくる。それが、今の自分に身に付いていないとしたら、訓練して身につけようと思う。その訓練は系統立っていたほうが効率がよいですから、そういう授業を「スキル型」授業と呼んでいます。
始業時などの10分間程度、ある一定のテーマに基づいて学習することは、これまで、帯単元学習と呼ばれてきました。このことが、平成20年版学習指導要領のもとでは、年間指導計画に適切に位置づけて行われるのであるなら、授業時数にカウントできることになりました。書写能力を身に付けるには、一定程度の反復練習が必要です。そのために、モジュール単位の学習を活用することは、とても都合がよいのです。
これまで「書写」は、正しく認識されていない面があったように感じます。まずは、先入観を捨てて、どんどん取り組んでみてください。
最近、「文字を手書きする行為は、心身脳と密着しているなぁ」と感じることがあります。私は、パソコンの作業なら多少疲れていても続けられるのですが、手書きは疲れてくるとできなくなります。また、パソコンの操作に手間取っていると、頭に浮かんでいた考えが消えてしまいますし、あるいは書き味の悪い筆記具で書いていると考えが停滞してしまいます。みなさんは、そういうことはありませんか。だから、「書写」は、知的生産の最も根源的なところに触れている行為だと感じるのです。みなさんは、どう思いますか。