著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
社会科授業の成否は教材の良し悪しにかかっている
大正大学人間学部特命教授館 潤二
2013/7/2 掲載
 今回は館潤二先生に、新刊『中学校社会科 重要学習事項100の指導事典』について伺いました。

館 潤二たち じゅんじ

大正大学人間学部教育人間学科特命教授
公立中学校に15年間、筑波大学附属中学校に22年間勤務。2009年より4年間、筑波大学附属中学校副校長を務める。2002年より筑波大学非常勤講師兼任。文部科学省学習指導要領改善に関する調査研究協力者、法務省法教育研究会委員や法務省法教育推進協議会教材改訂検討部会委員を歴任。日本公民教育学会常任幹事、法と教育学会理事などを務める。

―本書の冒頭では、生徒が学習内容を理解できるようにするためには、まず教師がその内容を「構造化」できなければならないことが指摘されています。この「構造化」とは具体的にどのようなことなのか教えてください。

 教師が教科書に記載されている知識や概念などを相互の関連なしにバラバラに説明したとします。生徒は一つひとつの知識を用語として最低限理解できるかもしれませんが、いくつかの知識を総合的に理解することはできません。
 ここでいう「構造化」とは、学習指導要領にある単元ごとの目標やねらいを達成するために必要となる知識や概念を、教師がひとまとまりのものとして、知識の相互関連を明確にしながら整理することです。この「構造化」は、一単元内だけではなく、大単元における単元間のつながりについても言えることです。「構造化」された内容を学習することにより、生徒は学習課題を追究し、課題を解決していく中で、個々の知識をつなげ、意味あるものとして総合的に理解できるようになっていきます。

―中学校社会科の学習事項は、例えば、公民的分野における「対立と合意」「効率と公正」のように、抽象的で難解と感じられるようなものが少なくありません。こういった内容を生徒が実感を伴って理解できるようにするための指導のポイントを教えてください。

 「対立と合意」「効率と公正」の考え方を言葉通りに説明するならば、次のようになります。
 個人のもつ利害や価値観、考え方などが異なる人々からなる集団や社会には、多くの場面で「対立」がみられる。一方、集団や社会における対立を一定の「合意」に至らしめる必要が生じた場合、話し合いや採決がなされる。合意がどのようになされたのか、合意内容は適切であったのかなど、その妥当性について判断しなければならない。その際、合意内容が「効率」(社会全体で無駄を省くこと)や「公正」(合意の手続き・機会・結果の公正さ)の視点から妥当であったかが問われることになる。
 この説明を聞いたとき、大人であればこれまでに経験してきた具体的事象と結び付けながら何とか理解しようとするでしょう。しかし、生徒にとってはそう簡単なことではありません。そこで、本書で紹介しているような身近で具体的な事例を基に、シミュレーション的な手法なども取り入れながら考えさせることが必要になります。

―本書に収録されているワークシート例の中には、判断した理由や自分の考えを述べさせるような問題が少なくありません。このような問いを実際の授業の中で生徒に投げかける際、どのような点に気を付ければよいのでしょうか。

 生徒に自らの考えを述べさせる場面は、大きく2通りあります。1つは授業の始まり部分で、生徒の経験や第一次的な感想や意見を言わせる場面。もう1つは、授業の終盤部分で、これまで学習してきた内容を踏まえて、自分の考えや判断を述べさせる場面です。
 どちらの場面においても、学級に、そしてもちろん教師にも、他人の意見を受容し認め合う雰囲気が必要です。これは、学級内での日常的なコミュニケーションづくり、学校生活や授業での教師と生徒との関係づくりにしっかりと取り組まなくてはならないということです。そして、後者の場面では、生徒に考えさせたり、判断させたりする「材料」がそこまでの授業展開の中で提示されていなくてはなりません。またその土台には、教師が問いを投げかけ生徒が応える、生徒が疑問をぶつけ教師が応えるといった、日ごろの授業形式があることを忘れてはいけません。

―最後に、読者の先生方へメッセージをお願いします。

 社会科授業の成否は、教材の良し悪しにかかっているといっても過言ではありません。生徒の興味を引き出し、関心を高める教材、具体的でわかりやすい教材であれば、自然と授業に活気が出ます。また、じっと考えさせ、判断に迷うような教材であれば、授業に深みが出ます。
 生徒の「食欲」をそそり、“食べやすい”“おいしい”と感じさせ、それでいて噛みごたえのある「料理」を生徒の前に並べたい。そのためには、よい「食材」を探し、どのような「スパイス」を入れるか、「火加減」をどうするか…など、様々なことに気を配る必要があります。本書に収録された100の「レシピ」が、料理=社会科授業の質の向上に寄与することを願っています。

(構成:矢口)
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