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「伝え合う」というキーワードが入った平成10年の学習指導要領の改訂から十数年たちました。
ところが、「伝え合い」の「合い」の意味についての共通認識は、まだあまりなされていないのが現状です。「合い」の力は対話能力そのものなのですが、「伝え合う」ということは、自分はこう思う、それに対して他の人はこう思うというように、考えを羅列的に言い合うことだと捉えられているからです。
本当は、Aという言葉に対して、Bという言葉で受けとめて返す指導が重要となります。
しかし、実際にそのような対話の指導をすることは容易ではありません。「伝え合い」を成立させるためにはどんな要素、あるいはどんな言葉の力が必要なのかなど熟知しておかなければ、「合い」の指導は難しいのです。それは、音声は消えてなくなり、評価が難しい、という音声言語特有の問題も含んでいるからです。本書では、困難とされている指導法や評価について、具体例を通して紹介しています。
特に「受けて返す」を大切にして頂きたいと思います。そのために、まずは4つのポイントの一つである「受けとめる」を重視してほしいです。この受けとめるということはとても大事で、相手そのものを受けとめること、相手の話を理解すること、しっかりとキャッチすることなのです。キャッチしない限りリリースすることは不可能です。
指導方法として、ある考えに対して、「相づちをうつ」「復唱する」「要約をする」「自分の言葉で言い換えをする」「相手の話をさらに詳しくする」「足りない箇所を補う」など、理解したことを確かめる活動を積極的に取り入れたいものです。繰り返し活動する中で、「相手の意見を理解するとはどのようなことなのか」といったコツのようなものが導き出されます。その導き出したコツを様々な場面において活用できれば、より確実に相手の考えを理解する力につながっていくと思います。
「対話を学ぶ」授業では、学習指導要領の示すつけたい力を踏まえ対話の成立要素などを重視します。また、「対話で学ぶ」授業は、目標に迫るために対話を生かす学習です。他教科などで目標に迫る手段として対話をさせるといったことがこれにあたります。
前者にとって、対話は目的で、後者にとって、対話は手段となります。
「対話を学ぶ」授業では、授業の中での対話を見つめ、対話の意義や意味、対話の仕方や留意点を導き出し、活用する礎を築くことを重視しています。さらに、意図的・計画的に対話のポイント(系統的な対話能力)の習得や活用、さらにそれらを生かした授業の在り方についても紹介しています。
「対話を学ぶ」授業をしっかりと実践することは、国語科や他教科の中で活用できる対話(言語活動)につながっていくと考えます。
本書では、対話のポイントの習得や活用させる授業として、下のような流れを考えています。
- 事例(※)を提示する
- 事例を通して対話のポイントの使い方や効果を考える
- (2を生かして)対話をする
- 振り返り・学びの自覚(学びを言語化)
2.の活動で、対話のポイントを拠り所とし、事例に伴って変化する言葉と向き合って、思考・判断し、言葉の働きやよりよい使い方を考えることが、様々な場面においても活用できる力につながると考えます。
まずは、対話のポイントを使った言葉を吟味することを大切にします。
その上で、「理由を入れて」「相手の考えを入れて」「感想を伝えてから質問」などの条件設定の中で、思考し判断した表現をさせることが必要です。また、その際に、一人の子どもだけではなく、すべての子どもを「あなたならどう伝えますか」と立場に立たせ、言葉を生み出せることを大切にしたいものです。
※事例は、「教科書の事例」「教科書の事例をアレンジしたもの」「実際の子どものやりとりを参考に、言葉の力に迫ることができるように教材としてアレンジしたもの」です。
伝え合うことにより、考えが深まったり、広がったり、さらに相手のよさも見えてきます。伝え合うことは、自分の学びにとっても考えをよりよいものにするためにも相手を知る上でも必要なものであるというよい思い出を一人でも多くの子どもたちに持ってもらいたいと願っています。「伝え合うこと」「人と関わること」「考えを重ね合わせること」に積極的になってほしいと願っています。
また、指導者も対話を通して、言葉の力はもとより、子どもの考え方などにふれ、子どもと近づくチャンスにしてほしいです。
言葉に着目することは、その人の感じ方、考え方、人間性にふれることなのです。