著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
外国人児童生徒の成長は、学級担任の働きがけ次第!
大阪教育大学教育学部准教授臼井 智美
2014/2/25 掲載

臼井 智美うすい ともみ

大阪教育大学教育学部准教授。
筑波大学大学院博士課程教育学研究科単位取得満期退学。筑波大学教育学系、東京学芸大学国際教育センター(外国人児童生徒教育部門)を経て、2009年4月より現職。専門は学校経営学、外国人児童生徒教育、教師教育学。

―書名には「ことばが通じなくても大丈夫!」とありますが、外国人児童生徒を担任する際、本当に、その児童生徒の母語を話せなくても指導はできるものなのでしょうか?

 もちろん外国人児童生徒の母語を話せるに越したことはありませんが、必ずしも話せなくても指導は可能です。自治体や国際交流協会などには、外国語の通訳・翻訳ボランティアの派遣事業がありますし、ウェブサイトには主な学校文書の翻訳資料も多数掲載されています。外国旅行で使用する簡単な会話本も意外と役に立ちます。これらを活用すると、外国人児童生徒や保護者ともコミュニケーションをとることができます。
 本書では、随所で自治体や国際交流協会の作成している文書等を紹介していますので、ぜひ参考にしてみてください。

―外国人児童生徒を担任すると決まった時に、多くの先生方は、まず何から指導したらよいか悩むことと思います。これだけは忘れてはいけない!というポイントがあれば教えてください。

 具体的な内容は本書に記載していますが、指導を始める前には、外国人児童生徒の言語力(母語、日本語)、学校教育経験、将来の進路希望を確認する必要があります。それによって、日常会話に対応した日本語指導から始めるのか、教科学習に対応した日本語指導から始めるのかが違ってきます。
 また、高校進学を希望している場合は、「出口」を見据えての計画的な日本語指導と教科指導が必要になります。高校進学に必要な日本語力を身につけるためには、少なくとも4年はかかると言われています。そのため、早い段階から進路希望の確認をすることが大切なのです。

―本書では、外国人児童生徒に、教科の指導を通して日本語を指導することの大切さが随所に示されていますね。なぜ、日本語だけを取り出して指導することよりも、教科を通して指導することが大切なのでしょうか?

 日本語だけを取り出して指導しても、必ずしもその単語や言い回しがもつ教科学習上の意味が理解できるわけではありません。
 例えば、「グラフを読む」という言い回しが算数科には登場します。これは日本語が母語の人には、「グラフの数字を読み取って数・量の変化を理解する」という意味だとわかります。しかし、算数科の学習から切り離されて「読む」を学ぶと、「声に出して文字を追う」という意味だけしか理解できないからです。

―日本語を話せない保護者との関係づくりに悩む先生も多いと伺います。本書では、子どもだけでなく、保護者との関係づくりや家庭のサポートについてもたくさん紹介されていますが、なぜ保護者や家庭のサポートがそれほど重要視されるのでしょうか?

 外国人児童生徒に限ったことではありませんが、子どもの学習意欲や人間関係づくりのベースとして、安心して生活できる環境が整っていることが望まれます。愛情不足や家庭内暴力などは、子どもの心身に不調を与える大きな原因になります。
 外国人保護者も、慣れない日本語や日本文化の中でかなり大きなストレスを抱えて生活をしています。子どもにとって安心して過ごせる家庭環境のためには、保護者のストレス軽減に向けたサポートが不可欠になるのです。

―最後に、読者の先生方にメッセージをお願いします。

 現在では、言語面でも文化面でも先生方の指導をサポートするさまざまなサービスが多機関から提供されていますので、一人で丸抱えして悩むのではなく、積極的に外部機関の協力を得るようにしましょう。
 また、言語的・文化的に慣れない言動が見られるかもしれませんが、外国人児童生徒も一人の「子ども」です。今までの日本人児童生徒の指導で培ってきた指導法が十分に活用できますので、安心して指導にあたってください。

(構成:杉浦)
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