著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
発達障がいの子どもを元気に育てよう!
子ども発達相談センター・リソース「和」所長米田 和子
2014/7/29 掲載

米田 和子よねだ かずこ

大阪教育大学卒業後34年間堺市内小学校教員として、通常の学級担任、特別支援学級担任、通級指導教室担当を経験。その間堺LD研究会を立ち上げ、堺市周辺の特別支援教育に携わる教職員と共に実践・研修活動を展開した。また親の会を立ち上げ、当事者の保護者としても活動を続けてきた。退職後、堺市教育センター専門指導員、プール学院大学講師を経て、現在NPO法人ラヴィータ研究所 子ども発達相談センター・リソース「和」所長として各市の巡回相談やペアレントトレーニング指導者として活躍。
日本LD学会特別支援教育士SV・学校心理士・臨床発達心理士として特別支援教育士やペアレントトレーニングトレーナー養成指導にもあたる。

―先生が発達障がいのある子を地域の中で育てていく上で大切だとお考えになっているのはどんなことですか?

 発達障がいにかかわらず、地域の中で困難さを抱えて生きている子どもたちや当事者、その保護者が困難さを隠すことなく、ありのままの姿を受け入れていける地域であることが大切だと思っています。当たり前の事ですが、それがなかなかできにくくなっているのが今の地域社会ではないでしょうか。
 私は自身の娘のことも含め、学校や地域で隠すことなくありのままに「迷惑をかけることがあるかもしれないが、良いことも悪いことも隠さずに教えてほしい」とお願いしてきましたが、かえって助けてもらえることが多くなったように思います。
 親も子どももありのままの姿で積極的に地域に溶け込む努力も必要です。そのためには、困難さがあることをマイナスと受けとめない価値観を持つことが大切だと考えます。

―本書では取り上げている「ペアレントトレーニング」とはどんなものなのですか?

 奈良教育大学の岩坂英巳先生がアメリカから導入された手法で、応用行動療法の考え方が基本になっている保護者向けのトレーニングです。
 保護者はついつい子どもの問題行動を叱って修正しようとしがちです。しかし、問題行動の背景には必ずといっていいほど「できない・わからない」という原因があり、叱ることだけで対応していくと二次的な障がいを引き起こすこともあります。保護者が行動を冷静に観察し、問題行動を引き起こしている原因を分析して、適切な支援をしていけるようにするものです。
 子どもの行動を「増やしたい行動」「減らしたい行動」「なくしたい(許しがたい)行動」の3つに分けてみることで、対応に一貫性を持つことができるようになると、保護者は随分子どもの支援に自信ができるようです。

―「ペアレントトレーニング」にはどんな効果があるのでしょうか?

 ペアレントトレーニングに取り組み始めて8年位なりますが、10回のトレーニングを終えるころになると、参加者の皆さんがお互いにとても仲良くなられて、その後も悩みの相談や子ども同士の関わりを持ったりされていることが一番大きな効果と感じています。発達障がいの場合は周囲からは理解されにくい課題があるため本人も保護者も孤立してしまうことが多いようです。しかし、ペアトレ(ペアレントトレーニングのこと)を通して支え合う仲間ができるようです。
 もう一つは、子育ての価値観が変化することで、ありのままの子どもの姿を受容し、適切な支援の方法を理解することで、子育てへの自信が生れてくるようです。

―ペアレントトレーニングを受講された保護者の方はどんな感想を持たれるのでしょうか?

 これまでに300人を超える保護者と共にペアレントトレーニングに取り組んできましたが、受講した保護者自身から以下のような報告を受けています。

  • 子どもに対してマイナスの声かけが多く、叱ってばかりだったのが当たり前の行動を認めて褒めることで、子ども自身が落ち着いてきた。
  • 子どもの行動を記録したり、3つに分けて見ることで親自身が冷静に対応できるようになってきた。
  • 子どもの問題行動には必ず原因があるという見方ができるようになってきた。
  • 褒めることを意識するようになると、子どもが愛おしく思えるようになってきた。
  • 発達の課題のある子どもだけでなく、兄弟姉妹に対する声掛けも変わるようになってきた・
  • 子どもの行動の原因がわかることで学校の先生方にお願いすることも具体的になり、先生との関係が良くなってきた。
  • 叱ることで無駄なエネルギーを使っていたが、冷静に指示を出すだけで子どもが行動できるようになって子育てが楽になった。

などです。

―最後に本書を手に取ってくださる発達障がいのある子の支援に関わられる方々にエールのメッセージをお願いいたします。

 私も含め発達障がいのある子ども達に関わる方々は「この子達と関わることが楽しい」と言います。独特な発想や人に対する真面目さを理解するととても愛おしい存在となってきます。他の人と異なる「特性」を特別視して、障がいにするのではなく、感じ方、考え方の違いを「個性」として受容し、より良い人とのかかわり方を修正していくことで本人も周囲もお互いに生きやすくなると思います。
 ちょっと違う人たちとのかかわり合いを学ぶことは自分の人生をより豊かにしてくれるのだと感じています。

(構成:佐藤)

コメントの受付は終了しました。