- 著者インタビュー
- 特別支援教育
発達障がいにかかわらず、地域の中で困難さを抱えて生きている子どもたちや当事者、その保護者が困難さを隠すことなく、ありのままの姿を受け入れていける地域であることが大切だと思っています。当たり前の事ですが、それがなかなかできにくくなっているのが今の地域社会ではないでしょうか。
私は自身の娘のことも含め、学校や地域で隠すことなくありのままに「迷惑をかけることがあるかもしれないが、良いことも悪いことも隠さずに教えてほしい」とお願いしてきましたが、かえって助けてもらえることが多くなったように思います。
親も子どももありのままの姿で積極的に地域に溶け込む努力も必要です。そのためには、困難さがあることをマイナスと受けとめない価値観を持つことが大切だと考えます。
奈良教育大学の岩坂英巳先生がアメリカから導入された手法で、応用行動療法の考え方が基本になっている保護者向けのトレーニングです。
保護者はついつい子どもの問題行動を叱って修正しようとしがちです。しかし、問題行動の背景には必ずといっていいほど「できない・わからない」という原因があり、叱ることだけで対応していくと二次的な障がいを引き起こすこともあります。保護者が行動を冷静に観察し、問題行動を引き起こしている原因を分析して、適切な支援をしていけるようにするものです。
子どもの行動を「増やしたい行動」「減らしたい行動」「なくしたい(許しがたい)行動」の3つに分けてみることで、対応に一貫性を持つことができるようになると、保護者は随分子どもの支援に自信ができるようです。
ペアレントトレーニングに取り組み始めて8年位なりますが、10回のトレーニングを終えるころになると、参加者の皆さんがお互いにとても仲良くなられて、その後も悩みの相談や子ども同士の関わりを持ったりされていることが一番大きな効果と感じています。発達障がいの場合は周囲からは理解されにくい課題があるため本人も保護者も孤立してしまうことが多いようです。しかし、ペアトレ(ペアレントトレーニングのこと)を通して支え合う仲間ができるようです。
もう一つは、子育ての価値観が変化することで、ありのままの子どもの姿を受容し、適切な支援の方法を理解することで、子育てへの自信が生れてくるようです。
これまでに300人を超える保護者と共にペアレントトレーニングに取り組んできましたが、受講した保護者自身から以下のような報告を受けています。
- 子どもに対してマイナスの声かけが多く、叱ってばかりだったのが当たり前の行動を認めて褒めることで、子ども自身が落ち着いてきた。
- 子どもの行動を記録したり、3つに分けて見ることで親自身が冷静に対応できるようになってきた。
- 子どもの問題行動には必ず原因があるという見方ができるようになってきた。
- 褒めることを意識するようになると、子どもが愛おしく思えるようになってきた。
- 発達の課題のある子どもだけでなく、兄弟姉妹に対する声掛けも変わるようになってきた・
- 子どもの行動の原因がわかることで学校の先生方にお願いすることも具体的になり、先生との関係が良くなってきた。
- 叱ることで無駄なエネルギーを使っていたが、冷静に指示を出すだけで子どもが行動できるようになって子育てが楽になった。
などです。
私も含め発達障がいのある子ども達に関わる方々は「この子達と関わることが楽しい」と言います。独特な発想や人に対する真面目さを理解するととても愛おしい存在となってきます。他の人と異なる「特性」を特別視して、障がいにするのではなく、感じ方、考え方の違いを「個性」として受容し、より良い人とのかかわり方を修正していくことで本人も周囲もお互いに生きやすくなると思います。
ちょっと違う人たちとのかかわり合いを学ぶことは自分の人生をより豊かにしてくれるのだと感じています。