著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
いじめとの戦いをくぐった子がいじめを抑止できる
上越教育大学教職大学院教授赤坂 真二
2015/7/9 掲載

赤坂 真二あかさか しんじ

1965年新潟県生まれ。上越教育大学教職大学院准教授。学校心理士。「現場の教師を元気にしたい」と願い、年間約100回の講演を実施して全国行脚。19年間の小学校勤務では、アドラー心理学的アプローチの学級経営に取り組み、子どものやる気と自信を高める学級づくりについて実証的な研究を進めてきた。2008年4月から、より多くの子どもたちがやる気と元気を持てるようにと、情熱と意欲あふれる教員を育てるために現職に就任する。主な著書に『自ら向上する子どもを育てる学級づくり 成功する自治的集団へのアプローチ』『クラス会議入門』『スペシャリスト直伝!学級を最高のチームにする極意』『一人残らず笑顔にする学級開き 小学校〜中学校の完全シナリオ』『最高のチームを育てる学級目標 作成マニュアル&活用アイデア』『スペシャリスト直伝!学級づくり成功の極意』『赤坂真二―エピソードで語る教師力の極意』(以上、明治図書)などがある。

―本書は「学級を最高のチームにする極意」シリーズの第4弾として、テーマは「いじめに強いクラスづくり」です。本書のねらいと読み方について、教えて下さい。

 いじめの指導には時間がかかります。つまり、継続的な指導が必要です。
 継続的な指導には、自分に合ったやり方が求められます。小学校編、中学校編それぞれ8人ずつの多様な実践が連なっています。まずは、自分が最も取り組めそうな実践を探してみてください。次は、それぞれの実践に共通することを探してみてください。それが、いじめ指導にはずしてはならないポイントです。そして、できましたら、小学校編、中学校編どちらもご覧いただきたく思います。いじめ指導には、個人技、チームプレーどちらも必要です。
 小中の実践家がそれぞれの校種の強みで、効果的な指導の在り方を紹介しています。

―いじめ問題については、これまで対策も幾度となく講じられて来ましたが、一進一退の状況で、学校現場の大きな課題となっています。また、ネットいじめなど新しい要素も加わってきています。いじめ指導・対策を考える上で大切なことは何でしょうか。

 いじめの指導・対策が、なかなか効果を発揮しないのは、そのほとんどが、大人や制度が「子どもたちに与える」構造になっているからです。大人や制度が、いくらいじめをしないように、あれこれ手を施そうと、心の子どもたちが育っていなくては、それらはうまく機能しません。
 しかし、だからといって、それぞれの子ども個人に、「いじめに立ち向かいなさい」と言っても荷が重すぎます。いじめに対して、集団で立ち上がれるように子ども集団を育てるのです。

―本書の中で先生は、「いじめのない教室」を志向するのではなく、「いじめに強い集団」をつくることの大切さを述べられています。本書でも詳しく紹介されていますが、この点について教えて下さい。

 いじめは、いつ、誰がするのでしょうか。それは、大人のいないところで子どもたちがするのです。子どもたちの生活は、大人には見えない部分がたくさんあります。ネットの世界になってしまうと、ほぼお手上げです。
 だからこそ、子どもたち自身が、いじめに対して抑止の行動をする「いじめに強い集団」を組織することが大切なのです。いじめ指導のゴールは、いじめをなくすことではありません。いじめに対して適切な判断と行動ができる子どもたちを育てることです。
 そうした子どもたちは、いじめに強い集団の中で育ちます。

―本書に収められている実践は、「予防編」と「治療編」に分けられています。様々なアプローチが紹介されていますが、まず「予防」をする上で大切なことは何でしょうか?

 予防の原則は、まずは、教師と子どもとの一対一の個人的信頼関係をつくるためにどれくらい本気になれるかと言うことです。これは集団づくりの鉄則とも言えます。教師との信頼関係を構築することは、教師の指導性を高め、いざ、いじめが起こったときの指導の可能性を高めます。
 また、教師との安定した人間関係は、子どもたちのストレスを軽減します。逆に言うと、教師との希薄な関係は子どもたちにとってストレスになりますから、いじめなどの問題行動の発生確率を高めます。子どもたちとの個人的信頼関係の形成は、集団づくりの鉄則であり、いじめ予防の要です。

―いじめを発見することができず、「治療」から取り組む場合も少なからずあると思います。おさえておくべきポイントがあれば教えて下さい。

 教師がどんなに予防を一生懸命にやっていても、いじめは起こるときには起こります。だからこそ、早期発見、早期対応です。傷が浅いうちならば治りも早いわけです。深刻ないじめにおいて、それを教育のチャンスにするといった悠長なことは言ってられません。
 しかし、早期のいじめならば、子どもたちの力で対応可能です。教師がやらねばならないことをした後には、加害者と被害者だけの問題にしないで、集団の問題として子どもたちに投げかけ、同様のことが起こらないように次のアクションを考えさせるようにしたいものです。

―いじめに強いクラス、自力解決できる集団づくりは、人間関係づくりが基盤になっているとも言えそうですが、様々な個性をもつ子ども達に「人間関係力」とも言える力をつけていくために大切なことはなんでしょうか?

 人の自己実現には、人間関係の中で起こる課題にうまく対応していく力が必要です。なぜならば、私たちは、私たちの喜びや悩みは人間関係を無縁でいることはできないからです。そのためには、他者を信頼する能力他者に貢献する能力そして、自分を信頼する能力が大切だと考えています。この三つの能力をまとめて言えば「共感性」です。
 人の痛みや喜びがわかる子どもに育てることが、最も大切だと考えています。

―最後に、読者の先生方にメッセージをお願いします。

 残念ながら、また、悲しい事件が起こってしまいました。学校教育において、もっとも優先しなくてならないことはなんでしょうか。
 まず、子どもたちの生命の安全を守ることではないでしょうか。
 いじめ指導は、学校教育において最優先で取り組まなくてはならないことだと思いませんか。
 本気で、いじめをなくそう、減らそうと思うならば、子どもたちにいじめに立ち向かう力を育てなくてはなりません。いじめに立ち向かう力を育てることが出来るのは、いじめを教育の機会として子どもたちを向き合わせることができる教師です。本書は、いじめに強いクラスをつくるいじめに強い教師になるための一冊です。

(構成:及川)

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