著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
アクティブ・ラーニングは命に関わる教育改革
上越教育大学教職大学院教授西川 純
2016/1/18 掲載

西川 純にしかわ じゅん

1959年東京生まれ。筑波大学生物学類卒業、同大学院(理科教育学)修了。博士(学校教育学)。臨床教科教育学会会長。上越教育大学教職大学院教授。『学び合い』(二重括弧の学び合い)を提唱。『クラスと学校が幸せになる『学び合い』入門』『気になる子への言葉がけ入門』『子どもたちのことが奥の奥までわかる見取り入門』『子どもが夢中になる課題づくり入門』『簡単で確実に伸びる学力向上テクニック入門』『子どもによる子どものためのICT活用入門<会話形式でわかる『学び合い』テクニック>』『アクティブ・ラーニング入門<会話形式でわかる『学び合い』活用術>』(明治図書)など著書・編著書多数。

―本書は、アクティブ・ラーニングの入門書として大好評をいただいている『アクティブ・ラーニング入門』の続編、第2弾となります。まず、本書のねらいと読み方について、教えて下さい。

 前著は入試改革との関係でアクティブ・ラーニングの意味を説明しました。このことがあるから高校でアクティブ・ラーニング対策が盛んなのです。しかし、入試改革に伴って大きく変化するのは東大を始めとするトップ校ぐらいでしょう。多くの大学は「そこそこの改革」で終わらせようとします。したがって、トップ校に進学する5%ぐらいの子どもには関係ありますが、95%の子どもには関係ありません(その半数はそもそも大学に進学しません)。
 では、95%の子どもにはアクティブ・ラーニングは関係ないのでしょうか?
 違います。むしろ95%の子どもの方が切実なのです。生きるか死ぬかに関わります。それを本書で説明しました。

―先生は本書のまえがきで「やったふりアクティブ・ラーニング」が広がることについて「子どもの生死にかかわる」とおっしゃられています。本書で詳しく述べられていますが、この点について教えて下さい。

 多くの先生方が誤解されていることは、今回のアクティブ・ラーニングの導入が、総合的な学習の時間の導入、道徳の教科化と同様に文部科学省や学校関係者発の改革だと思っている点です。今回の改革は、文部科学省ではなく、総務省、財務省、経済産業省発であり、経済産業界発の改革です。
 学校関係者相手であれば、理念や言葉でなんとでもなります。しかし、経済産業界はそれを許しません。具体的には採用しません。つまり、職を得られないのです。その厳しさが、今回の改革の大きな特徴なのです。

―「アクティブ・ラーニング」がキーワードとして出されてから、疑問としてよくあがるものの1つに「アクティブ・ラーニングと知識量を問う従来型の学力は矛盾するのか?」というものがあります。この点について、先生のお考えをお聞かせ下さい。

 おそらく、多くのアクティブ・ラーニングの場合は、それは正しいと思います。なぜならば、多くのアクティブ・ラーニングは従来型の授業をしつつ、一部にアクティブ・ラーニングを取り入れることになります。結果として、従来型の授業の時間数を減らすからです。
 しかし本書で紹介している『学び合い』(二重カッコの学び合い)によるアクティブ・ラーニングの場合は、矛盾しません。その姿は受験勉強を必死にやっている子どもの姿だからです。課題自体は従来型の授業でやっていたものそのものです。しかし、その解決の仕方がアクティブ・ラーニングになるので矛盾が生じません。

―大学の入試改革が取りざたされていますが、アクティブ・ラーニングの導入に伴い、雇用社会も変化し、企業が求める能力、それに伴った採用面接の形態なども変化していくと述べられています。具体的にはどのような変化が起きるのでしょうか?

 具体的には採用したその日から給料分働けるかを見られます。今までだったら、部活の経験やバイトの経験が評価されました。しかし、仕事に一対一対応する能力が問われます。例えば、居酒屋でのバイトは酒造メーカーや食品企業の就職する場合は評価されるかもしれません(おそらく、評価されませんが)。そしてその他の業種の場合は全く評価されません。
 例えば、教員免許状があることは一般企業の就職にはマイナスになるにせよ、プラスには働かないでしょう。なぜなら、教職と両天秤にかける学生とみられるからです。
 就職先の業種におけるインターン経験、また、英語や中国語などの資格が必要になるでしょう。それらは具体的にエビデンスとして提供しなければならないのです。

―先生は本書の中で、企業が求めるような、「答えを創造できる能力」「社会的能力」としての基礎は、学校教育、教科教育の中で身につけられると述べられています。具体的にはどのような取り組み・視点が大切でしょうか。

 今までもそのような力量は企業で必要とされていました。そして今までは企業内教育の中で育てていました。しかし、終身雇用制が崩壊し有期雇用になるとき、それを育てるのは企業内教育ではなく、学校教育の役割になります。それも、大学教育、高校教育だけではなく、義務教育も役割を担うのです。
 では、どのように育てたらいいか?それは企業内教育でやっていたように育てるのです。みなさんが何も知らずに就職した1年目を思い出して下さい。掲示物の張り方、保健指導……何から何まで分からぬことばかりでした。しかし、とにかく仕事の中で失敗しながら学んだと思います。そして、先輩教師から学んだと思います。それが大人になるための唯一の教育です。
 つまり、子どもを大人として扱う教育が必要なのです。

―最後に、読者の先生方へメッセージをお願い致します。

 私は「基礎的・基本的な知識技能を獲得して欲しい」とか「授業が楽しくあって欲しい」ということを思って本書を書いたわけではありません。「主体的な学習を実現したい」とか「コミュニケーション能力を上げたい」と思って書いたわけではありません。
 「就職出来なくて呆然としている高校3年生、大学4年生」、「四十代後半でリストラされ、ハローワークに通う中年」、「路上生活している老人」、その様な姿を思い浮かべながら書きました。今の教育を続けるならば、子ども達の半数はそのような人生が待っています。皆さんのお子さんやお孫さんの未来がそうなのです。だから何とかしたいと思っています。
 おそらく、大げさすぎるとお思いになるでしょう。たしかに我々が過ごした時代は、その様な人は少数でした。しかし、今後はドンドン増えるのです。その様な社会を変えられるのは我々教師なのです。是非、本書をお読みになって、上記が大げさなのか否かを判断して欲しいと思います。

(構成:及川)

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