著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
子どもの多様な発言を引き出すために、授業を「構造的に」とらえよう!
筑波大学附属小学校教諭山下 真一
2016/3/28 掲載

山下 真一やました しんいち

1959年生まれ、福岡県北九州市出身
東京学芸大学教育学部卒業
東京都内公立小学校を経て、現在筑波大学附属小学校教諭
筑波大学、武蔵野大学 非常勤講師
教科書『小学社会』(教育出版)執筆者

―本書では、日ごろ授業をどうしたらよいかと悩んでいる先生に対して、一からわかりやすく問題解決学習の授業のつくり方をご紹介いただいていますが、社会科において、問題解決学習を学習指導の柱におくことのよさとそのポイントについて、改めてご解説をお願いいたします。

 授業には、教師が子どもに知識を伝えて身に付けさせる授業と、子どもたちが自ら問いをもち、知識を獲得していく授業があります。社会科の授業は、その後者の学習スタイルを重視しています。それは、社会科が子どもの主体性を引き出し、問題解決能力を身に付けさせることを重視しているからです。
 問題解決学習の中で大切にしたいことは、たくさんあります。しかし、その中でも小学校で大事にしたいのは、子どもが問題に気付くこと、すなわち、一人ひとりが問いをもつこと(問題発見)だと考えます。問題を解決する技能や方法も、もちろん大切です。しかし、これらは、これから将来いくらでも学ぶことはできます。
 でも、この問いをもつ力は、子どもが大きくなってからでは、なかなか身に付きません。この子どもが問題を解決するための原動力こそ、小学校のうちにしっかり養っておきたいものです。

―本書の中で、子ども一人ひとりが同じ方向性の問題意識をもてるようにすることが教師の腕の見せどころであり、一番難しいところであると述べられていますが、子ども全員が主体的に授業に参加できるためには、教師はどのようなところに気を付ければよいのでしょうか。

 子ども全員が主体的に授業に参加するためには、まず、何よりも、子ども一人ひとりが問いをもつこと、そして、授業に参画することが大切です。そのためには、教師がどのような学習問題を設定するかが鍵になります。学習問題の「内容」「文言」「問いの種類」を子どもの側に立ち、よく吟味しておくことが必要です。
 具体的には、学習問題をつくるまでの学習の流れを、子どもの意識に沿って組み立てることや、子どもを学習に引き込むための仕掛けを、いかに教師が工夫するかなどが考えられます。そして、大事なことは、大人目線ではなく、子ども目線で、すなわち、子どもの立場に立って教材や活動を組み立てることです。

―本書では、学習指導案に加えて、目標、「学習問題」、押さえるべき知識、子どもの反応などを関連付けながら整理した「授業構造図」を作成することを提案されていますが、どのようなきっかけから、山下先生は「授業構造図」を作成されるようになったのでしょうか。

 授業は生き物だとよく言われてきました。この言葉は、どんなに上手い指導案を用意していても、教師が計画した通りに授業を行うことが難しいということを意味しています。私自身、今振り返っても、自分が計画した指導案通りに授業が進んだことはほとんどありません。それが簡単にできるのならば、だれでもプロの教師になれます。日々授業について悩むことはありません。
 実際の授業で、いくら子どもの反応を想定していても、予想外の発言は必ず出ます。特に話し合いが活発なクラスでは、日常茶飯事です。時には、ある子どもの意外な発言のために、教師がとまどってしまうこともあります。
 しかし、一方で、教師があまりにも緻密に本時の流れを考えていると、多くの場合、その教師は自分が考えた指導案通りに授業を進めようと必死になります。すると、その授業は決まって教師主導の授業になってしまいます。
 子どもの多様な発言を引き出しながら、授業の目標に迫っていくためには、教師はそれなりの深い教材研究と、あらゆる発言に対して柔軟な対応ができるようにしておかなければなりません。そのためには、授業を指導案に示された1つの流れとして考えるのではなく、構造的にとらえておくことが大切だと考えました。

―しっかり授業準備を進めたはずなのに、それでも、予想外の子どもの反応が出たり、授業が思わぬ方向に向かってしまったとき、山下先生ならどのような対応をされるのでしょうか。

 多分、新人の先生の悩みの多くはここにあると思います。でも、新人の先生が上手くいかないのは当然です。ベテランの先生が上手く対処できるのは、何度も失敗を乗り越えながら培った教育技術があるからです。この予想外の反応を上手に交通整理ができるようになると、教師の力はぐっとレベルアップします。

 ここでは、私がこれまで培ってきた対応の仕方の一例を紹介しましょう。
 まず、子どもの目を見て、一人ひとりの話をよく聞くようにします。予想外の反応が出たときも、とまどうことなく、「すばらしい」「よく気付いたね」と褒めてやります。
 そして、次が大事です。その発言が今話し合っている内容とずれていないかを、瞬時に見極めるようにします。しかし、だからと言って、ある子どもの予想外の発言を、授業の流れに関係ないからといって、ばっさり切る(取り上げない)のもよくはありません。
 教師は、その子どもの発言をきちんと価値付けてやることが大切です。「〇〇君の言っていたことは、こういうことなのですね」「今話し合っていることとは違いますね」…などです。子どもの発言を教師がきちんと評価してあげます。もしくは、他の子どもに聞いてみたりするのも1つの方法です。「○○さんは、どういうことを言っているのだろう?」「〇〇さんの意見について、どう思いますか?」など、子ども同士で評価させる方法も考えられます。

―最後に、読者の先生方へメッセージをお願いいたします。

 社会科は、本当は楽しい教科です。だれもが社会の中で生きています。社会のことに関心がないはずがありません。同様に、教師にとっても社会科の授業は、指導の仕方がわかると、一番楽しい教科だと思います。社会科の授業では、教科書だけでなく、教師が考えた教材や資料を大いに使うことができます。また、表現活動も工夫次第で無限にあります。
 また、答えが1つではないという点においては、子どもの様々な意見を受け入れることができます(見当違い・的外れ以外)。自分の思いや願いがある教師にとっては、やりがいがある教科とも言えます。
 しかし、問題解決学習の理論はわかっていても、実際に指導するとなると難しいと感じている教師は多いようです。しかし、一度その指導をマスターすると、その力は、社会科の授業だけにとどまらず、理科や総合的な学習など、他の教科でも大いに活用できます。

 「社会科は楽しい」という子どもが増えると、きっと、日本の未来は明るくなると思います。そのための早道は、教師が社会科が好きになること他ありません。

(構成:赤木)
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