著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
学校現場で苦悩し頑張る先生たちへ送るエール
兵庫教育大学大学院教授新井 肇
2016/9/20 掲載
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  • 教師力・仕事術
 今回は新井 肇先生に、新刊『「教師を辞めようかな」と思ったら読む本』について伺いました。

新井 肇 あらい はじめ

1951年生まれ。兵庫教育大学大学院教授。京都大学文学部哲学科社会学専攻卒業後、1976年より埼玉県公立高等学校教諭。その間、長期派遣研修にて兵庫教育大学大学院生徒指導コースで学ぶ。2006年より現職。カウンセリング心理学を基盤とした生徒指導実践の理論化、学校内外の連携による協働的生徒指導体制の構築、教師のストレスとメンタルサポートに関する研究を中心テーマとする。

―まず、本書のねらいと読み方について教えてください。

 子どもと教師が共に生きている学校という場において、「教師自身が意欲をもって生き生きと働くためにはどうしたらよいのか」と問うことから、本書の構想はスタートしました。「教師の離職」という、いわば教育の「負の部分」についての議論を掘り下げていくことによって、逆説的に、教育の未来を拓くための方向性や課題が見えてくるのではないかと考えています。

―近年、先生方の体調不良による休職や、離職率の高さが指摘されるようになりました。教職受難の時代とも表現されますが、今現在の学校現場の実情は、以前と比べてどのように変わってきているのでしょうか。

 いじめ・不登校・暴力行為・児童虐待・ネット犯罪・薬物乱用・自殺など、子どもの問題行動の多様化・深刻化にともない、教師を取り巻く状況は、ますます困難なものとなっています。また、成果主義の導入、教師バッシングともいえるマスコミ報道、サービス化社会を背景とした保護者・地域からの過大な要求の存在なども、困難さの度合いを一層強めているように思います。すべての課題や要求に妥当する答えなど見いだせぬまま、しかし何らかの具体的応答をそれぞれに向けて発しなければならないという綱渡りのなかで、日々の教育活動を続けているというのが学校現場の実情です。

―「教師を辞めよう」と思われる背景の一つとして、バーンアウト(燃え尽き症候群)に陥っているケースが挙げられます。若い先生方に限らず、中堅・ベテラン教師にも起こっているものですが、バーンアウトを防ぐために大切なことは何でしょうか。

 バーンアウトは仕事場面での対人ストレスの蓄積によるものです。したがって、その予防・軽減のためには、現実的な人間関係を基盤に、課題解決に向けての日常的な対話を活性化することが大切だと思われます。困ったことや悩み事があるとき、周囲の人たちと話し合うことではじめて、それまでの思いこみから解放されて気持ちが楽になったり、力んで自分を見失っている状況から脱出することが可能になったりするのではないでしょうか。問題を一人で抱え込まずに周囲に助けを求めることができるかどうかが、教師のバーンアウトを防ぐとともに、子どもたちへの支援の鍵にもなると考えています。

―「辞めたい」という状況のきっかけとして挙げられるものに、「生徒指導」「保護者対応」のつまずきがあります。先生は本書の中で「悪い状況」を想定しておくことの大切さについて述べられていますが、この点について教えてください。

 教師の仕事は人を相手にするものですから、相手から常に期待通りの反応が返ってくるとは限りません。予期せぬ反応が返ってきたり、いくら頑張っても解決の見通しが立たないような仕事上の「危機」に遭遇したりしたとき、それまで自分でも気づいていなかった精神的な脆弱さに直面してしまうことも少なくないと思われます。その脆さを受け入れることができないまま、不安や焦りから自分を見失ってしまうことにならないように、ある意味で負の事柄も視野におさめて、その対処方法を学んでおくことの必要性を強く感じています。

―自分のことだけではなく、同僚の先生が困難な状況にあるときに、周りができるサポートとしてはどのようなことがあるでしょうか。

 一つ問題を解決すればまた次の新しい問題が出てくるというように現実対応に追われ、雑談する時間すら容易にもてない現在の学校現場にあっては、意図的に自分たちを支え合う体制をつくりあげていくことが必要だと思われます。問題を抱えて不安そうにしている同僚がいたら、一人にしておかないでさりげなく声をかけ、そっと話を聴き、状況によっては一緒に対応する。そんな関係が職員室のなかに生まれれば、お互いに気持ちが楽になり、困難な仕事にも向かっていくことができるようになるのではないかと考えています。

―最後に、読者の先生方へメッセージをお願いいたします。

 教師が「学校で仕事をすることが楽しくない」と感じていたら、おそらく子どもにとっても、学校は楽しい場ではなくなってしまいます。教師にとっての仕事の場である学校を、「教師自身が意欲をもって生き生きと働ける場にするにはどうしたらよいのか」と、教師同士で、また、子どもや保護者、地域や関係機関の人々と共に問うことこそが、教育危機の一つの突破口になるのではないでしょうか。

(構成:及川)

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