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@これまでの経験をくつがえす事実、A数量に対する驚きを呼び起こす事実、B怒りなどの心情に訴える事実、C多様な見方・考え方を生み出す事実、D価値の対立を引き起こす事実という5つの事実とのインパクトのある出会いを演出することが大切です。つまり、「おかしいよ!」「えっ、そんなに?」「ひどい!」「僕ならこう考えるよ」「私はこっちの立場なんだけど…」というような声がわき出る教材づくりや発問の工夫によって、学習問題をきちんと成立させ、子どもたち一人ひとりの追究力を高める授業が、今、求められていると思います。
60事例+10事例もあるので、選ぶのは本当に難しいのですが…。例えば、6年の「武士の世の中」で、打倒平氏を掲げて挙兵した源氏が、石橋山で敗戦した後、わずか2カ月で挙兵時の300人から一体どれくらいの兵力にふくれあがったのか。一人ひとりに予想させた後に資料をじらしながら提示すると…、なんとその数20万人。子どもたちの驚きの声が聞こえてきませんか。しかし、初戦で負け戦だった源氏に味方する武士がどうしてこんなに増えたのでしょうか。しかも、こんな短期間で…。このような「なぜ〜?」という学習問題を子どもたちとともにつくり、問題を追究していくことにより、「ご恩と奉公」の関係で武士たちを従えた鎌倉幕府の支配体制について実感的に理解していくのです。
やはり、子どもたち一人ひとりに、事実をじっくりと見つめさせ、「なんとしても追究していきたい」という問いをもたせることでしょう。ただ、学習問題を成立させることは決して容易なことではありません。学習問題をきちんと成立させるためには、先ほど述べた@〜Dのような事実とのインパクトのある出会いを演出するための教材づくりや発問の工夫が必要です。本書では、「教材とは、子どもたち一人ひとりに問いをもたせるものであり、子どもたちの固定観念を揺さぶり、社会に対する目を開かせるものでなければならない。発問とは、子どもたち一人ひとりの問いを鮮明にさせるものであり、子どもたち自らの力で、教材に立ち向かっていけるようなものにしなければならない」と述べています。
1つ目は、自分で調べること(知識・技能)。知識は与えるものではなく自ら獲得するものであるべきです。2つ目は、自分の考えをつくること(思考力・判断力・表現力)。アクティブにすべき要は思考、頭の汗をかくということではないでしょうか。3つ目は、自分で調べ、考え、「どうすればよいのか」問い続けること(学びに向かう力・人間性)。社会科は、問題解決的な学習を通して社会認識を深め、みんなが幸せになるために「どうすればよいのか」問い続けていく教科だからです。本書では、「小河内ダム」や「水俣」など、3つ目のことを意識した事例もたくさん載せています。
自らの力で調べ、考えてきた子どもの目って本当に輝いていませんか。そして、その言動には勢いがある。そんな子に出会うとき、社会科の授業をしていて、本当に嬉しい瞬間です。教材づくりや発問の工夫によって、学習問題が変わり、授業が変わる。そして、子どもも変わっていきます。本書の実践モデルを参考に、先生の目の前の子どもたちに合わせて、ぜひ、追試したり、アレンジしたりしていただきたいと思います。本書によって、たとえ「劇的」ではなくても、子どもたちの追究力を高めるための着実な一歩を先生方が踏み出すことができれば本当にうれしいですね。