著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
深い学びを実現する質の高い言語活動の授業づくり
―学力調査に学ぶ書き換え学習
千葉大学教育学部教授寺井 正憲
2017/3/2 掲載

寺井 正憲てらい まさのり

1959年、徳島県生まれ。筑波大学大学院博士課程単位取得満期退学。文教大学講師、筑波大学附属小学校教諭を経て、現在、千葉大学教育学部教授。平成20年版小学校学習指導要領解説国語編作成協力者。全国的な学力調査に関する専門家会議委員、読むことの学習指導、コミュニケーション教育など、国語教育の実践的理論的な研究を行っている。

―本書では「書き換え学習」の授業づくりが紹介されています。「書き換え学習」とはどのような学習法なのでしょうか。

 既にあるテキストを別のテキストに書き換える言語活動を行う学習指導を書き換え学習と言います。主に読むことの学習指導や書くことの学習指導で行われるもので、読むことと書くことを連動させ、読むこと、書くこと、国語の知識、そして認識の方法などを学ぶことのできる効果的な学習指導の方法です。新学習指導要領では、主体的学び、対話的学び、深い学びが重視されていますが、書き換え学習は、学習を主体的、能動的なものにし、子どもたちにとって楽しく意味のある深い学びを成立させることができます。

―本書では「書き換え学習」の授業で全国学力・学習状況調査B問題に対応する学習方法であることが述べられています。学力調査では、どのような書き換えの問題が出題されていますか。また、そのような問題に対応する授業づくりのポイントとはどのようなものでしょうか。

 新学習指導要領では、国語科における改善の課題として、全国学力・学習状況調査等の結果から、小学校では、「表現の工夫を捉えたりすること、目的に応じて文章を要約したり複数の情報を関連付けて理解を深めたりすることなど」に課題があるとされています。これらは学力調査の問題から明らかになった課題であり、これらの課題を解決することがこれからの国語科の授業づくりのポイントになってきますので、学力調査の問題を検討し、授業づくりに役立てることが大切になります。
 学力調査では、明らかに書き換えと見なされる問題が、これまで何度も出題されています。例えば、平成19年度小学校国語A問題8では、「べっこうあめ作り」の感想文を説明書きに書き換えさせる学習の場が使われています。この問題では、元のテキストと書き換え後のテキストのそれぞれの表現の様式や文体の特質が考慮され、また元のテキストを書き換え後のテキストに書き換えた例を示して書き換えるルールを学ばせているなどの特徴が認められます。これらの特徴が授業づくりの重要なヒントとなってきます。
 本書では、学力調査から学んだヒントをふんだんに盛り込んだ授業づくりをしていますので、学力向上に直結する授業づくりの方法を学んでいただけるものと思います。

―本書に掲載されている授業づくりの過程で、教師が書き換えモデルを示すようになっていました。なぜモデルが必要なのでしょうか。

 書き換えという言語活動を効果的な学習にするためには、書き換える活動自体を十分に教材研究しておくことが大切です。それを、私は「言語活動の教材研究」と呼んでいますが、その作業はそれほど難しいことではなく、教師自らが子どもたちに指導する書き換えを実際に行うということです。自分の学級の子どもたちを思い浮かべながら自分で書き換えてみることで、その書き換えの言語活動の特質や難易度が具体的によく理解され、指導や支援の方法も具体的になってきます。
 また、言語活動の教材研究で教師が作成したテキストは、学習者に示す書き換えのモデルとしても機能します。モデルとなる見本は、学習のプロセスに即して、学習の見通し、読み方、書き方、評価規準などの学習材として役立ちます。見本を見れば、その授業で何を目指し、どういう能力を身に付けさせようとするかが一目瞭然となります。
 本書では、教師のモデルとなる見本に加えて、その見本によって作成された子どもたちの作品を、授業づくりのポイントとともに見やすく掲載していますので、見本の作り方や授業の工夫のしどころが学びやすくなっています。

―「書き換え学習」はアクティブ・ラーニング型授業であると紹介されていますが、主体的・対話的で深い学びを実現するポイントを教えてください。

 書き換え学習は、プロジェクト・メソッドの考え方により、課題解決的な学習として主体的な学びが実現するように組織されています。ゴールが明確で、学習プロセスがわかりやすいので、学ぶ意味を実感でき、達成感を持ちやすい学習といえます。その達成感こそが自己肯定感につながってきます。
 また、学力調査がそうであるように、相手、場面や状況、表現の方法や様式、情報量、メディア、字数などを細やかに考えるようになるので、深い学びを実現しやすくなります。先にお答えしたように、書き換え学習では教師の見本を分析、検討する学習を行いますが、その際複数の見本を示して比較することで、表現の方法や読む方法をつかみやすくすることができます。
 そして、この段階で多くの場合、話し合いを通して見本における書き換えるルール、表現の方法や読む方法などをメタ認知させるような学習を行います。それが対話的な学びを実現することになっていきます。
 本書では、新学習指導要領で求められる学習指導の在り方を、書き換えという易しい言語活動によって実現しています。

―最後に、国語科授業づくりに取り組む読者の先生方に向け、メッセージをお願いします。

 一番最初にお答えしたように、新学習指導要領は、学力調査における課題を解決するために改訂されたといってもよいでしょう。言語活動の授業づくりが普及してきたので、今後は言語活動の内実を向上させるために、主体的学び、対話的な学び、深い学びというスローガンが掲げられたのだと思います。それらのスローガンを実現するには、言語活動の授業を細やかにつくる必要がありますが、そのことを学ぶには書き換えの授業づくりが最適です。ぜひ本書を参考にして、書き換えの授業に取り組んでみてください。子どもたちにも先生方にも、この学習の確かさや豊かさが実感できるはずです。

(構成:林)
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