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これからの教育は学習者の主体性ややる気というものに向き合っていくことになります。もちろん、これまでの先人がやってこなかったわけではありません。しかし、それはどちらかというと高段の営みであり、名人教師だからこそできる域の仕事でした。しかし、これからはすべての教師がそれができることが前提となります。「主体的・対話的で深い学びの視点での授業づくり」をする時代に入るからです。
みなさんの周囲には、見た目がちっとも怖くなく、カリスマ的でもなく一見普通に見えるけど、とてつもなく指導力がある人がいると思います。本書は、そんな人たちが「なにをしているのか」を明らかにしようと試みました。
第1章は、主体性とやる気を引き出す環境づくりについて、第2章は、その中における教師のリーダーシップについてです。第3章には、それらの環境設定やリーダーシップが維持できるように点検リストを載せました。なかなか自分では振り返りにくいリーダーシップを自己評価できるようになっています。
子どもたちの学習意欲の低さについてはいろいろな指摘がなされています。例えば、たくさんのことを学び、知ってはいるが、それが自分の人生にどのように役立つかを知らないからだとか、知っている知識や技能をどう使っていいかを知らないからだ、などです。本書ではそれらの妥当性を認めつつ、不十分ではないかという認識を指摘しています。学習意欲は、子どもたちが身を置く学習環境によって大きく影響されます。その学習環境とは、学習における自己決定性の保証、有能感の育成、そして、関係性の育成です。そして、一番の問題は、多くの教師が子どもたちの学習意欲を高めたいと思っていても、その具体的方法を知らないということです。
1980年代、わが国は叱らない教育に大きく舵を切りました。私たちの成長には、ポジティブな感情が不可欠なのでそれはけっこうなことですが、ポジティブな感情を味わうためには、一定のネガティブな感情に触れなくてはならないのです。ポジティブな感情を味わわせる営みをほめる、また、ネガティブな感情を味わわせる営みを叱る、と象徴的に述べています。バランスよく、両者を味わわせるということで、ほめることと叱ることの望ましいバランスを示しました。
自分の学んだことを活用しながら積極的に社会に貢献し、よりよい人生をつくっていくことができる子どもたちを育てたいというのが「学びに向かう力・人間性」の涵養の趣旨だととらえています。社会に貢献しようとする積極的な生き方を育てるためには、他者に対する信頼や自分自身への信頼が必要です。単に仲がいいだけでは他者への信頼は育たず、また、自分のよいところ探しだけでは自分への信頼をもつことはできません。実際に他者と協力して問題を解決する機会を通して、誰かの役に立つことによって他者や自分への信頼を深めるのです。問題解決の過程では、意見の対立もあるでしょう。そのときに、相手を言い負かしたり、言いなりになったりすることでは、その場はやり過ごせるかもしれませんが、本当の信頼を築くことはできません。そのときに必要なのが対話です。互いの違いを乗り越えて納得する解を見つけるような時間の連続が、信頼を育てます。
指導力を高めるということは、相手を言いなりにすることではありません。影響力を高めることです。指導力のある人は、あれこれ口を出しません。一見、何もしていないように見えます。しかし,共にいるメンバーは、とても活動的です。主体性ややる気を引き出す原理はとてもシンプルです。リーダーが動いたら、メンバーは動きません。リーダーが決めたら、メンバーは決めません。それだけです。しかし、本当になにもしなかったら、メンバーは動かないし、決めません。そこには、やはり、然るべき考え方や方法があるのです。本書がみなさんの影響力を高める一助となることを願っています。