著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
「こんな風に面白くできる!」国語を実技教科に
京都橘大学発達教育学部教授池田 修
2017/3/6 掲載
 今回は池田 修先生に、新刊『スペシャリスト直伝! 中学校国語科授業成功の極意』について伺いました。

池田 修いけだ おさむ

京都橘大学発達教育学部教授。東京都の公立中学校教員を経て現職。「国語科を実技教科にしたい、学級を楽しくしたい」をキーワードに研究。 恐怖を刺激する学習ではなく、子どもの興味を刺激し、その結果を構成する学びに着目している。学習ゲーム、ことわざ学習、甲骨文字の再現なども詳しい。専門は、国語教育学、学級担任論、特別活動論。 特に学級担任の仕事を教える学級担任論は、全国の教員養成系大学で最初に開講された授業である。ブログは、「国語科・学級経営のページ」。

著書には、〔単著〕『中等教育におけるディベートの研究』(大学図書出版)、『こんな時どう言い返す』(学事出版)、『新版 教師になるということ』(学陽書房)。〔編著〕『伝説の教師』(学事出版)。〔監修〕『クイズにほん語の大冒険1〜3』(教育画劇)。〔部分執筆〕教科教育学シリーズ第1巻『国語科教育』「第6章 中学校 話すこと・聞くことの教育と授業」(一藝社)、『THE 教師力』『THE 新採用教員〜中学・高校教師編〜』『THE ユーモア力』『THE 教師力アップ』(以上明治図書)など多数ある。

また、PISAリーディングリテラシー問題作成委員、NHK教育テレビ「テストの花道」監修、中学校国語科教科書「新しい国語」(東京書籍)編集委員、全国教室ディベート連盟理事なども務め、京都で教育研究会「明日の教室」も主催する。
趣味は、料理とカメラとハンモック。

―本書はベストセラー「スペシャリスト直伝!」シリーズの最新刊として、テーマは「中学校国語科授業成功の極意」です。まず、本書のねらいと読み方について、教えてください。

 「国語科を実技教科にしたい」と思って、取り組んできた中学校での実践をみなさんに知っていただければという思いです。私は、大学の恩師から「授業は、子どもの事実から作るもんだ」と指導されてきました。子どもの事実とは、子どもの興味や要求や学力のレベルなどだと思っています。そこから、授業を作っていく問題解決型の授業づくりを見ていただければなあと思います。

―表紙には「国語科を実技教科に!」とあります。先生の国語授業づくりに対する考え方であり、本書の土台となっているものですが、先生がこの言葉に込められている想いをお聞かせください。

 国語は、私が現場にいた頃の学習指導要領では、「話す・聞く」「読む」「書く」の領域と、「伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項」の事項で構成されていました。つまり、言葉を土台にして言葉の活動がありますよってことですね。ところが、国語の授業では、文章を読む活動はさせても、それ以外の活動は教師が説明して終わりということが多くありました。
 水泳で、平泳ぎの泳ぎ方を教師が説明するだけで、子どもたちは泳げるようになるでしょうか? 調理実習でカレーライスの作り方を説明されただけで、作れてしまうでしょうか? そんなことはありませんよね。実際にやっていく中でできるようになるわけです。
 しかし、国語ではそれが行われているのではないでしょうか。そうだとしたら、生徒たちができるようになるとは思いにくいです。できるのは、教えなくても元々できる生徒でしょう。
 簡単にやり方を説明して、それをどんどんやる。そして、できるように育てる。中学校を卒業したら、「話す・聞く」「読む」「書く」ができるようになっている。そのためには、実際にやる「国語科を実技教科に」する授業というのが一番だと考えていました。

―先日発表された答申・新学習指導要領案で、キーワードとなっている「主体的・対話的で深い学び」は、先生が取り組まれてきた国語科授業づくりそのものとも思えますが、授業内見学者を許さない、アクティブな授業づくりのポイントは何でしょうか?

 教師が説明を続けて、生徒はその内容を暗記して、それをテストで思い出して書くといい成績がとれるというのも、確かに国語の授業の一つかもしれませんが、それは知識や正解を教師の側が独占できていた時代のこと。今は違うでしょう。自分たちで現状から問題点を見つけ、それを課題にして解決していく学び方が必要になります。しかし、まあ、それを正面からやっても面白くない。
 日本の国語、というか、文学には伝統的にみんなで遊ぶというものがあります。松尾芭蕉さんの「座の文学」ですね。みんなでワイワイやりながら、一つの作品を作っていくというものです。本書では、句会ディベート、さらには「書き込み回覧作文」などの実践を載せていますが、これらのルーツは「座の文学」にあると思っています。「座の文学」で、遊びながら面白がりながら、国語の力をつけていく学習ゲームという概念もここで活用しています。
 せっかく、学校には集団で学ぶ環境が用意されています。遊ぶことは主体的ですし、ワイワイやるってのは対話的(^^)。そういうのでいいんじゃないかなあと思っています。

―先生は年間の授業を安定させる3つの形態として、「連載」「定番」「新規開拓」を挙げられています。本書でも詳しく紹介されていますが、この点について教えてください。

 「連載」とは、帯単元のことです。まあ、今風に言うとモジュールですかねえ。私は授業の導入でほとんど毎回、詩、短歌、俳句や名言を黒板に書いて、「アンソロジーノート」というノートに書き写させていました。まあ、硬筆の書写ですね。細切れにして膨大な知識を与えたいことがあるといいですね。
 「定番」とは、その教師がやりたいこと、得意なこと。生徒にとって必要なことの授業です。教師になったからには、生徒たちに教えたいというものがあると思います。それをしっかりやりましょうってことです。教師の深い専門性に基づいた授業をすることは、子どもたちにはとても幸せなことです。
 「新規開拓」とは、やったことのない授業を作るということです。まあ、正直言うと、同じことを何回もやっていると飽きてくることがあります(^^)。それを乗り越えるために、毎年1つ、今までにやったことのない授業に挑戦していました。ディベート指導もそうでした。これは、結果的に飽きないだけでなく、自分の「定番」を増やすことにもつながりましたし、教師が新しいことに挑戦している姿を子どもたちが見ることは、国語の授業づくりということだけでなく、教育的な価値もあると思います。

―本書の第4章では、監修されていたNHK教育テレビ「テストの花道」でも使われていたゲームなども含め、魅力的な授業モデルが数多く紹介されています。このような生徒が熱中する教材づくりのポイントについて教えてください。

 最初に戻るのですが、「授業は、子どもの事実から作るもんだ」ですね。彼らの興味と要求を大事にします。そして、それは学習指導要領のどこにリンクしているのかを調べます。その上で、生徒たちが好きなゲームの力を借りて、そうです、ゲーミフィケーションを活用して作っていくということが多かったですね。
 極論ですが、人間は自分が必要と思ったものと興味があることしかやらない。勉強で必要性を感じさせるのは、なかなか難しい。だとすれば、あとは興味に頼るしかないですねえ。
 あ、そのためにはもう一つ、教師がたくさんの知識や情報を体に仕込んでおくことが大事です。入っているものを生徒の興味の視点で見つめてみて、それを組み合わせていくってことです。入っていないものは、組み合わせることはできませんからね。

―最後に、読者の先生方へメッセージをお願いいたします。

 「へー、国語ってこんな風にもできるんだ。面白いなあ」
 「全部は無理でも、ここは私もやってみたいなあ」
 「これは、明日の授業でやっていたい」
という感想を読後に持ってもらえるといいなあと思いながら、19年間分の実践をすべて書きました。お手にとって読んでいただけると嬉しいです。

(構成:及川)

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