著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
社会で活躍できる主権者を育てるために
岡山大学大学院教育学研究科教授桑原 敏典
2017/3/11 掲載
今回は桑原敏典先生に、新刊『高校生のための主権者教育実践ハンドブック』について伺いました。

桑原 敏典くわばら としのり

岡山大学大学院教育学研究科教授。博士(教育学)。専門は社会科教育学。広島大学大学院教育学研究科修了。神奈川県立豊田高等学校教諭、広島大学附属中学校・高等学校教諭を経て岡山大学教育学部助手。講師、助教授を経て、現職。
著書に『中等公民的教科目内容編成の研究』風間書房(単著)、『中学校新教育課程 社会科の指導計画作成と授業づくり』明治図書(単著)、『社会科教育学研究法ハンドブック』(明治図書(共編著)など。
高校生用主権者教育副教材『私たちが拓く日本の未来』作成協力者。

―本書のタイトルは『高校生のための主権者教育実践ハンドブック』です。17の実践事例もついて、まさに実践する際に役立つ1冊だと思います。はじめに、どのような実践事例が掲載されているのか教えていただけますか。

 実践事例の執筆は、私が2011年から取り組んでいる主権者教育プログラム開発研究のメンバーや、その研究を通して知り合った先生方にお願いをしました。総務省と文部科学省によって作成された主権者教育副教材の作成に関わられた方にも、執筆をお願いしています。掲載されている事例は、長年の教育現場での経験や社会科教育研究の成果に基づくものであることはもちろんのこと、実践を経てその効果が実証されているものです。

―17の実践事例は、4つのSTEP別に分けられています。この4つのSTEPについてご解説をいただけますか。

 4つのSTEPは、生徒や学校の実態に応じて最も取り組み易い実践を各学校が選択できるように設定しました。基本的な知識を重視しつつ教科の授業をよりアクティブなものに改善していきたいという場合はSTEP1や2の実践を、教科と教科以外の特別活動等との連携や、地域社会や学校外の団体とのつながりを活かして主権者教育を展開していこうという場合はSTEP3や4の実践を参考にされるとよいと思います。各学校が負担感なく主権者教育に取り組めるようになることがねらいです。

―3章では、「クラスに有権者と有権者でない生徒がいる場合の指導のポイントは?」といった、まさに現場の先生が困りそうな話題について、QA形式で解説していただいております。様々な留意事項があると思うのですが、特に気を付けるべきポイントがあれば教えてください。

 政治的中立性の確保をはじめ、主権者教育の実施に関してはいろいろと制約が多いと感じている先生も多いと思います。しかし、主権者教育においてどのような教材を、いかに取り上げるかといったこと等は、すべて多様な見方・考え方を育てるという目標に基づいて判断されるべきもので、この点は従来の社会科や公民科と変わりはありません。主権者教育は教育改善に向けた視点であり、学校教育を見直すきっかけなのです。3章の回答を参考にして、ぜひ新しい取り組みにチャレンジしてもらいたいと思っています。

―ところで先日、新学習指導要領案が発表されました。小中学校段階でも、主権者教育が求められているように感じますが、これからどのような点を意識して授業づくりに取り組んでいけばよいのでしょうか。

 育成すべき資質・能力をふまえて教育目標や内容、そして評価のあり方を検討することが求められています。主権者教育を実施するうえでも、それぞれの学校段階において主権者としてどのような資質・能力を身に付けさせるか、そして、最終的には18歳で選挙権を得たときに、どのような資質・能力が身に付いていればよいかということについて、見通もつことが必要です。これらは、地域社会と連携して進める必要がありますので、主権者教育にとって開かれた教育課程の実現は欠かせません。

―最後に読者の先生方にメッセージをお願いします。

 主権者育成は、従来から学校教育に求められていたものです。主権者教育の推進とは、主権者を育成するという視点から教科やそれ以外の学校の教育活動のあり方を見直して改善していくということで、決して子どもや先生に新たな負担を求めるものではありません。試験や進学といった目標だけではなく、社会で活躍できる主権者になるためには何が必要かというところから、日々の教育活動を点検する際の手掛かりとして本書をぜひ活用してください。

(構成:茅野)
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