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本書は私のライフワークに位置付いたものです。
新学習指導要領で重視されている「資質・能力」の要素には、「知識・技能」と「思考力・判断力・表現力等」と「学びに向かう力・人間性等」があります。
私はこれまで 『「関心・態度」を育てる社会科の指導と評価』(1983年)、「『一匹の魚』よりも『魚のとり法』を」をサブテーマにした 『「社会科の授業」はどう変わらなければならないか』(1997年)、 『社会科学力をつくる”知識の構造図”』(2011年)をとりまとめ、いずれも明治図書出版から出版してきました。残るテーマは「思考力・判断力・表現力」でした。
本書はこの部分に焦点を当てて、社会科における指導と評価のあり方について実践的に論及することを目的にとりまとめたものです。各学校における社会科授業が一層充実し、子どもたちに社会科の学力が形成されることを願っています。
子どもたちに思考力・判断力・表現力がいまなお十分に育っていない主要な原因の一つは、「知識・技能」を身につける指導と比べて、思考力・判断力・表現力を育てる指導が十分に行われていないからだと考えます。それは育て方がまだ研究開発されていないためでしょう。
思考力・判断力・表現力を育てるためには、まず思考力・判断力・表現力とは何かを明らかにし、子どもたちにそのために必要な活動を促すことが授業改善のポイントです。実際に思考する行為を行うことなく、思考力は育たないからです。
本書では、新学習指導要領の趣旨も踏まえつつ、思考力・判断力・表現力を育てるための基本的な考え方や具体的な方策を提案しています。
主体的な学びとは、子どもたちが目的意識をもって取り組む問題解決的な学習をさらに重視することです。
対話的な学びとは、単に対話に留まらせず、協働的な学び合い活動を充実させ互いに高め合う授業を展開することです。
こうした学びによって、一人一人の学びが深まりのあるものになっていきます。その際重要なことは、学習の深まりを子ども自身が自覚するとともに、その姿を教師が評価することです。
このように考えると、「主体的・対話的で深い学び」を実現するという課題は、けっして目新しいことを求めているものではないことがわかります。これまでの社会科授業で重視してきたことをさらに押し進めることがポイントです。
従来のペーパーテストに対する考え方は、身につけた「知識・技能」の習得状況を評価することを基本に据えたものです。「思考力・判断力・表現力」は「育てる学力」ですから、これまでの伝統的なペーパーテスト観で評価することは馴染みません。思考力・判断力・表現力をペーパーテストという手段で評価するためには、これまでのペーパーテストに対する発想を根本から変える必要があります。
社会科は社会を対象に学ぶ教科です。よりよい社会の形成に参画する人間を育てるためには、社会について深く理解・認識することが不可欠です。子どもたちが社会科を好きになり、社会によりよく関わろうとする意欲と態度と能力を育てるため、社会科の授業をさらに充実させてほしいと思います。
そのためには、すべての教師が社会科の教科としての役割を理解し、大切な教科であると受けとめることが重要です。