著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
たしかな教材研究があればこそ、深く学ぶことができる
福井大学名誉教授三好 修一郎
2017/9/30 掲載

三好 修一郎みよし しゅういちろう

1950年、福井県生まれ。福井大学教育学部卒業。東京学芸大学大学院教育学研究科(修士課程)修了。同大学附属高等学校大泉校舎教諭、仁愛女子短期大学助教授を経て、福井大学教授。その間、附属小学校長、附属教育実践総合センター長を兼任。福井大学名誉教授。現在、越前市武生公会堂記念館(博物館)長。

―まず、本書のねらいを教えてください。

 定食を三ツ星レストランの看板メニューに変えるみたいに、定番教材のありふれた授業を極上の授業に変えるコツをお伝えすることです。「極上の授業」とは、子どもたちが、夢中になって読みをつむぎ、最後は思いもしなかった読みの地平にまで達してしまう授業のこと。本書では、そのための教材との出会い方、教材研究の仕方、授業デザインの方法を具体的に解き明かしています。

―ステップ1「教材と新しく出会う」というのが新鮮でした。本書で取り上げてくださっているのは「お手紙」「ちいちゃんのかげおくり」「白いぼうし」「ごんぎつね」「やまなし」の五作品ですが、こうした定番教材は、ある程度定まった“読み”があって、なかなか“新しく出会う”というのが難しいように思います。どうしたら“新しく”読むことができるでしょうか?

 定番教材といえども、実はまだまだ読み切れていません。「お手紙」に、「かなしい気分」と「しあわせな気もち」というように、「気分」と「気もち」という似たもの言葉が出てきます。それらの違いは? 「気分(→紀文)」は「かまぼこ」になるけれど、「気もち」はならない、というのは冗談ですが(笑)、こうした些細な所にこだわって、頭をひねってみると、文章に亀裂が走り、そこから新しい読みの世界が顔をのぞかせることがあります。細部にこだわる、その実例を本書でお確かめください。

―本書では、それぞれの教材にそった「トライアングル・セッション」「知識構成型ジクソー法」などといった新しい学習方法と言語活動を提案くださっていますが、その教材にもっともふさわしく、子どもたちに力がつく言語活動というのは、どうやって見つけ、設定したらよいのでしょうか。

 宮沢賢治が、「わたくしのおはなしは、みんな林や野はらや鉄道線路やらで、虹や月あかりからもらってきたのです。」 と、『注文の多い料理店』の序に書いています。本書で提案した学習方法や言語活動も、小学校の教室の片隅にたたずんで、子どもたちと先生とが奏でる授業シンフォニーに耳を澄まし、目を凝らしているとき、「ああ、いいねえ」「いや、こうするともっと響き合うぞ」といったふうに感応したことに、少々アレンジを加えたものです。教室での試行錯誤、その積み重ねだと思います。

―書名には、「深く読む」という語が含まれています。子どもを“深い学び”に導くためにはどうしたらいいでしょうか。

 まずは自身の読みの力を鍛えることです。読みの深さのバロメーターを、私は「深い指数」と呼んでいます。不快指数が、気温と湿度で決まるように、「深い指数」も、教材への思いの熱さと、言葉や表現に対するこだわりのしつこさによって決まります。自身が深い読みの地点まで降りていくことができたなら、今度は、子どもたちの目線に立って、彼らに寄り添いつつ、彼らが背伸びやジャンプをして読みたくなる「仕かけ」を工夫することです。ちょっぴり悪戯っ子になった気分で。

―最後に、読者の先生方に向けてメッセージをお願いします!

 今、先生方に一番足りないもの、それは「暇」です。しかし、school の語源は、「余暇」なんだとか。それは大いなる矛盾ですが、実のところ授業の深さは、仕込みの手間暇に比例しますから困ったものです。私は、声を大にして、先生方に仕込みにかける暇(時間)をちゃんと確保してください、と訴えたいと思います。だから暇つぶしに本書を、とは言えません。せめて、「ステップ1 教材と出会う」だけでも。きっと定番教材をおおっている固い殻が、一枚はがれるはずです。

(構成:林)
コメントの受付は終了しました。