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定食を三ツ星レストランの看板メニューに変えるみたいに、定番教材のありふれた授業を極上の授業に変えるコツをお伝えすることです。「極上の授業」とは、子どもたちが、夢中になって読みをつむぎ、最後は思いもしなかった読みの地平にまで達してしまう授業のこと。本書では、そのための教材との出会い方、教材研究の仕方、授業デザインの方法を具体的に解き明かしています。
定番教材といえども、実はまだまだ読み切れていません。「お手紙」に、「かなしい気分」と「しあわせな気もち」というように、「気分」と「気もち」という似たもの言葉が出てきます。それらの違いは? 「気分(→紀文)」は「かまぼこ」になるけれど、「気もち」はならない、というのは冗談ですが(笑)、こうした些細な所にこだわって、頭をひねってみると、文章に亀裂が走り、そこから新しい読みの世界が顔をのぞかせることがあります。細部にこだわる、その実例を本書でお確かめください。
宮沢賢治が、「わたくしのおはなしは、みんな林や野はらや鉄道線路やらで、虹や月あかりからもらってきたのです。」 と、『注文の多い料理店』の序に書いています。本書で提案した学習方法や言語活動も、小学校の教室の片隅にたたずんで、子どもたちと先生とが奏でる授業シンフォニーに耳を澄まし、目を凝らしているとき、「ああ、いいねえ」「いや、こうするともっと響き合うぞ」といったふうに感応したことに、少々アレンジを加えたものです。教室での試行錯誤、その積み重ねだと思います。
まずは自身の読みの力を鍛えることです。読みの深さのバロメーターを、私は「深い指数」と呼んでいます。不快指数が、気温と湿度で決まるように、「深い指数」も、教材への思いの熱さと、言葉や表現に対するこだわりのしつこさによって決まります。自身が深い読みの地点まで降りていくことができたなら、今度は、子どもたちの目線に立って、彼らに寄り添いつつ、彼らが背伸びやジャンプをして読みたくなる「仕かけ」を工夫することです。ちょっぴり悪戯っ子になった気分で。
今、先生方に一番足りないもの、それは「暇」です。しかし、school の語源は、「余暇」なんだとか。それは大いなる矛盾ですが、実のところ授業の深さは、仕込みの手間暇に比例しますから困ったものです。私は、声を大にして、先生方に仕込みにかける暇(時間)をちゃんと確保してください、と訴えたいと思います。だから暇つぶしに本書を、とは言えません。せめて、「ステップ1 教材と出会う」だけでも。きっと定番教材をおおっている固い殻が、一枚はがれるはずです。