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社会科を教えるのが難しい、どう教えてよいかわからないといった声をよく耳にします。それは社会科が「問い」を生み出さなければ、学びが進んでいかない教科だからです。教科書を読めば事実が記されていますが、それはただの読解であり、「問い」をもって事実を読み取ることで、その意味を見いだす教科なのです。その意味が学習指導要領に書いてあるのですが、それをつなげるのが教材化です。本書は教えるのに一手間かかる社会科を専門ではない先生でも全時間教えられるように問いと事象の意味、教材化をまとめた一冊と言えます。
新学習指導要領第6学年の内容では、政治単元を先に扱うことが示され、驚いた先生も多いのではないでしょうか? 6年生といえば「歴史学習」というイメージがありますが、その内容は国づくりの歴史であり、いわば政治の歴史でした。こう考えるとゴールが現代の政治という方が通史的にもあっているような気もしますが、社会科では3年生から市の役割が登場してきます。そうなると、まずは現代の政治を学習することで、現代の国づくりを学び、歴史的事象と比較し、民主政治の発展を実感することができます。将来を担う国民としての自覚や、平和を願う日本人としての資質・能力を育てることができると考えています。
みなさんもご承知のようにアクティブ・ラーニングは「主体的・対話的で深い学び」とわかりやすく改められました。もちろん、アクティブ・ラーニングは子供たちの学びの姿であって型があるものではないのですが…あえて、この主体的な学び、対話的な学び、深い学びを1時間の授業の中に位置付けたのが本書の最大の特徴です。まず子供たちの学びが深い問題解決にならなければいけません。そのような道筋をたどるためには「問い」を醸成させることが必要になってきます。社会的な見方・考え方で事象に「かかわる」場を授業の導入でしっかりと行うことが必要だと考えています。学習問題ができたところで、その解決のために他者とつながり、多面的・多角的な考えを広げる、「つながる場」(展開)となります。社会科の場合、このつながりが密になることで事象の構造をとらえることができます。そして、学んだことをアウトプットしていくためには、主体的でなければいけません。自分自身の学びをふりかえり、次のつなげていくことこそ「創り出す場」(終末)であると考えています。
現在の教育環境を考えるとICTを利活用することは必要不可欠だと考えます。社会科は社会的事象を取り上げる教科です。実際に見に行くことは不可能なものが多いのですが、写真や動画を提示したり、現代と過去を比較したり、人の言葉を聞くことができたりとICTには教科書だけでは実現できない学びを子供たちに提示することができます。さらに、答えのない課題に対して多様な他者と協働しながら目的に応じた納得解を生み出すためには、教科書とノートだけで…というわけにはいきません。例えば、タブレット端末を使って、調べたり、分析したり、撮影したり、提示したりといった多様で、能動的な学びが必要となってきます。これからの授業ではICTの機能を教材化して授業を構成していく必要があると考えています。
板書はあくまでも板書例なので、まったくそのまま同じようにということではありません。読者の先生たちが参考にしていただければよいと思います。ただ私自身は、協働的な学習やICTの活用が盛んになっても、板書の重要性は変わらないと思っています。明治から始まる黒板文化は日本の教育の優れた部分です。そこに教師としてのプロの技もあり、それは継承していきたいものです。特に社会科は子供たちの考えを位置付けたり、事象の意味を構造化したり、何より板書を考えることで教師自身の教材構成が構造化されることが大切です。
社会科こそアクティブ・ラーニングの展開が重要です。そのために社会科は授業を構築する力が必要となってきます。国語や算数は「用具教科」であり、読み書き計算のスキルを身につけることで学びの基礎をつくることが重要です。一方、社会科は「内容教科」であることから、どのように学習内容を教えるかといった授業展開を教師自身が組み立てる必要があります。教科書だけではうまく教えられないのはこの点が問題なのだと思います。若い先生たちには、ぜひ社会科を通して、授業を構築する力を身につけて欲しいと思います。社会科授業を実践することで、他教科の授業も上達すると考えています。