著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
子供の目線に立ち、わくわくしながら図工授業をつくろう!
東京都公立小学校図画工作専科教諭南 育子
2018/9/6 掲載
今回は南育子先生に、新刊『小学校図工の授業づくり はじめの一歩』について伺いました。

南 育子みなみ いくこ

女子美術大学芸術学部卒業後、インテリアデザイン事務所に勤務。その後、東京都公立小学校に図画工作専科教諭として勤務。現在は図画工作科指導教諭。東京都図画工作研究会に所属し、研究局長、副会長、参与とし研究を推進。
共著書籍に、『くるくるアート』(東京都図画工作研究会編、PARCO出版、1995年)、『子ども主義宣言 子どもたちのリアルと図工の時間』(東京都図画工作研究会編、三晃書房、2007)、『子どもとミュージアム 学校で使えるミュージアム活用ガイド』(日本博物館協会編、ぎょうせい、2013)など。

―本書では、図工授業のつくり方を、一からかみ砕いてご解説いただいております。これからはじめの一歩を踏み出す先生方に、まず知っておいてほしいことは何ですか?

 何より大切なのは、子供が学ぶ環境を、教師がしっかりと整えるということです。実際の授業で見られた子供の姿の例を挙げて説明します。

 机上でいろいろな紙をつかって道をつくったり、絵を描いたり、貼り付けたりしながら、みんなで楽しそうに造形活動をしていたときのことです(本書p.38写真参照)。
 Aさんは、「みてみて」と自分がつくったものを目の前にいるBさんに伝えましたが、気付いてもらえません。もう一度「ねえ、みてみて」と声をかけたのですがBさんも夢中になっているようで気付きません。ところが隣にいたCくんが気付いてくれました。Cくんはだまってうなずくと、はさみで手元にあった紙を切り始めました。その姿をみてAさんも思い付いたようで、色鉛筆で色を塗り始めました。2人はものすごいスピードでつくりました。そしてうれしそうに合体しました。それは「踏切」でした。その様子に気付いたBさんも、うれしそうに、「ここにつけようよ」と声をかけてくれました。
 ささいなことですが、造形を介して自分の資質・能力を発揮している姿です。

 上記の姿は、一緒に遊びながらつくりたくなる題材がもつ力によるものもありますが、私が「周りの子と協力してつくりなさい」と指示をしたから生まれたのではありません。私がしたことは、子供の交流が生まれるように向かい合わせの座席配置にしたことと、子供同士の「おしゃべり」を邪魔せずに静かに見守ったことです。つまり、環境をつくるということです。
 このような、子供の学びが生まれる環境をつくることが、図工の授業づくりではとても大切なのです。

―本書には、「図工の授業は準備で決まる」という章があります。ドキッとしました…、図工って、材料や用具の準備などもあって、大変ですよね。読者の皆さんが明日からすぐに意識できるような、授業準備の心得を、1つ教えていただけますでしょうか。

 まずは、準備の前に、材料や用具などを自分で使って試してみましょう。きっと先生ご自身も初めて触る材料や初めて使う用具もあるはずです。
 子供の手は先生の手よりもずっと小さく身長も違います。「子供だったらどうするのか?」「子供の目線は?」と考えるようになり、環境設定への手立てもみえてきます。

―図工の指導で、しばしば「難しい!」と言われがちなのが、評価だと思います。南先生は本書の中で、「これを知っておけば図工の評価も怖くない!」というポイントを挙げてくださっていますが、 それについて少し教えていただけますでしょうか。

 本文にも書いているのですが、評価は日頃の子供の具体的な活動をもとに行います。子供の活動を読み取り、そのよさを見付け後押しすることができます。困っている子供がいれば、その子供に対する手立てを講じることができます。つまり評価は子供の資質・能力を発揮させることに直結しています。まずはこれを押さえておくことが、図工の評価に自信をもつための第一歩です。
 具体的にどのように評価をすればいいのかについては、ぜひ本書の第7章をご覧ください。

―本書には、南先生の開発した具体的な題材例が多数掲載されています。どれも発想豊かでとても驚きました。このような、子供がわくわくして取り組むことのできる題材を開発するときに、最も意識していることは何でしょうか?

 一つは、勤務している学校の環境や空間を意識しています。
 自分の身体をものさしにして、大きさ、量、高さ、長さはもちろん目や耳、鼻をつかって日光の動きや給食の香り、空気の流れなど…。それを私自身が存分に感じるようにしています。
 もう一つは、その環境で、子供がどのような関わり方をしているのか、興味の動きをキャッチするようにしています。
 そのようなことを繰り返していると、自然の変化と同じように学校や子供の一年の変化がみえてきます。自然や、学校・子供の変化に寄り添って、題材を開発するようにしています。

―最後に、読者の先生方へメッセージをお願いいたします!

 教師になったはじめの頃は「…しなくては」「…これを教えなくては」といった自分への課題で、心の中がいっぱいいっぱいになり、授業が終わると息切れしていました。また、何度も材料の数を数えたり、用具の置き場を決めたものの納得できず別の場所に動かしたり右往左往していました。
 今になると、すべてのことが「はじめて」で授業のシミュレーションができていなかったのだとわかります。経験を積んでいくうちに、指導すべきことと、子供の活動を見取り子供にとって今何が必要なのか気付くようになります。ただし、子供の活動に寄り添い、子供の真のつぶやきに耳を傾け知ろうとする姿勢があってのことです。

(構成:小松)

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