著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
通常の学級担任が知っておきたい特別支援の秘訣はすべてここに!
関西国際大学教育学部教育福祉学科教授中尾 繁樹
2019/3/15 掲載
今回は中尾繁樹先生に新刊『小学校特別支援 指導スキル大全』について伺いました。

中尾 繁樹 なかお しげき

関西国際大学教育学部教育福祉学科教授・同大学大学院人間学行動科臨床教育学専攻教授
同志社女子大学非常勤講師
神戸総合医療専門学校非常勤講師他
前文部科学省「学習指導要領改善のための調査研究」委員
前日本小児科学会「学校保健と心の問題委員会」専門委員
日本LD学会特別支援教育士S.V.
神戸市,兵庫県,豊岡市,長浜市,朝来市,小野市,尼崎市他専門巡回指導員

―本書は『大全』と題していますが…どんな支援の極意がギュッとつまっているのでしょうか?

 最先端で活躍されておられる先生から長年にわたって現場の授業を大切にしてこられた先生の実践を凝縮した内容にしました。単に方法論に頼ってうわべの指導方法を実践するのではなく、しっかり子どもを理解したうえで、基本の学習環境から各教科の配慮までをまとめた本です。提示した内容のとおり実践するのではなく、目の前の子どもたちに合わせた形でアレンジし、実践していただきたいと考えています。

―特別支援教育では「ユニバーサルデザイン(UD)」という語をよく耳にしますが、これはどのようなものなのでしょうか。

 ユニバーサルデザインは、 “すべての人が人生のある時点で何らかの問題・困り感をもつ”ということを、発想の起点としている点で、それまでのバリアフリーとは大きく異なっています。このUDはすべての子どもたちを対象にしているということです。多様な学び方に対し柔軟に対応できる、視覚や触覚に訴える教材・教具や環境設定が準備されている、欲しい情報がわかりやすく提供される、間違いや失敗が許容され、試行錯誤をしながら学べる、現実的に発揮することが可能な力で達成感が得られる、必要な学習活動に十分に取り組める課題設定がなされている等が必要になってきます。

―同様に、「合理的配慮」という語も耳にします。通常の学級担任にも関係する事でしょうか。

 「合理的配慮」は施設設備だけではありません。子どもの障害の状態や特性等を踏まえた指導法の工夫、意思疎通のための支援も含まれます。特に通常の学級での授業をする場合、障害だけに着目するではなく、子どもの認知特性や家庭背景、心の問題等を踏まえた授業の在り方や教材の整備等が必要になります。子どもの実態を把握し、それに合った準備をすることそのものが「合理的配慮」と言えます。

―中尾先生は特別支援教育がご専門でおられ、多くの市の専門巡回指導もされておられるかと思います。学校現場をご覧になって、「UD」「合理的配慮」の浸透具合をどのようにご覧になっていますか?先生方にぜひ身に付けてもらえたら…と思われることがありましたらどうぞ教えてください。

 UDについての専門的知識を持たない教員が安易にUDの発想を用いることによって、教員が勝手に想定した「児童・生徒像」に目の前の子どもたちをあてはめて形だけをまねている場面をよく見ます。本来は一人ひとりの児童・生徒を見つめて、それぞれに合った指導を行うことが求められているにもかかわらず、実際の学校現場においては表層的なメソッドだけが独り歩きして、UDの「誤用」をさらに拡散する原因にもなっています。授業が成立し、学級がうまく機能するためには子どもの実態がわかっていないとできません。子どもの実態を見る目をもっと増やす必要があります。

―最後にこの春から苦手さのある子への支援を頑張ってみたい!と思われる先生に向けてエールのメッセージをお願いします。

 子どもがどこで困っているか、何が得意か、なぜこんな行動をするのかのように「なぜ、どうして」という疑問を持つことが大切です。例えば「字が書けない」⇒「なぜ?」⇒「形が理解できない」⇒「なぜ?」⇒「線の交差しているところがわからない」⇒「なぜ?」⇒「正中線交差の問題」・・・という具合になぜを繰り返していくと、原因がわかります。そうすると対処療法だけでなく、原因解決の手段につながっていき、指導の手段が広がっていきます。失敗を繰り返してきた原因がわかり、自信を持たせるような指導の工夫につながっていきます。

(構成:佐藤)

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