- 著者インタビュー
- 道徳
皆さんもご存じのように、法律(学校教育法等)において、学校においては教科書(教科用図書)を教科の主たる教材として使用しなければなりません。そうした法的な使用義務もさることながら、各地域で採択されたどの教科書も、道徳が教科化された趣旨や学習指導要領に規定されている道徳科の目標・内容等を適切に具現化するための厳しい「教科書検定基準」を踏まえたものです。そのよさや工夫されている具体的な内容をしっかりと把握して、目の前の生徒の実態に即したより効果的な活用を図ることが求められています。したがって、時には教科書の指導事例とは異なる発問の方が、より効果的なものとなることもあるでしょう。
この点についても、法令上は、教科書以外の図書その他の教材で有益適切なものは、これを教育委員会に届け出て承認を受けるなどして使用することが認められています。学習指導要領においても、「生徒の発達の段階や特性、地域の実情等を考慮し、多様な教材の活用に努めること」「生徒が問題意識をもって多面的・多角的に考えたり、感動を覚えたりするような充実した教材の開発や活用を行うこと」を求めています。あくまでも、目の前の生徒にとって「一層効果が期待できるという判断を前提」として、教科書以外の教材を補助教材として活用することはできますし、中心的な教材として位置づけることも可能です。ただし、「指導者の恣意による不用意な変更や修正」「安易に変更すること」を、学習指導要領解説においては厳に戒めています。著作権等について十分に留意することも忘れてはなりません。
生徒の学習を支え、思考を深めることのできる板書を工夫したいものです。課題や問いが順序性や関係性をもって明示され、発言等のポイントがわかりやすく文字化され、比較検討されるべき内容や関係性ある内容が構造的に示されることによって、より深い思考が可能となります。色チョークの効果的な使用や場面絵・ホワイトボード等の活用も工夫したいものです。また、本時の「振り返り」がより重要とされる道徳科の授業において、板書内容は「振り返り」の重要な手がかりとなるものです。なお、学習指導案と板書内容は、小・中学校間で共有化されることも大切にしたいものです。
通知表等への記述評価は、前提として生徒や保護者に理解できる内容であるとともに、道徳科における評価の趣旨を実現できる評価でなくてはなりません。すなわち、他の生徒との比較による評価ではなく、生徒がいかに成長したかを積極的に受け止めて認め、励ます個人内評価を、年間や学期といった一定のまとまりの中での、生徒の学習状況や道徳性に係る成長の具体的な様子として示すことが求められています。その際、その具体的な「評価語」や「評価記述文」は、学習指導要領解説に示されている「道徳科における学習状況等に関する評価の視点例」の7項目(本書参照)から導き出されることになります。なお、通知表等への記述評価もさることながら、授業中の発言やワークシート等への記述内容に対する、「評価の視点」を踏まえた「評価語」が日常的に生徒に発せられることの方が、その成長を認め励まし、学びの方法知を意識させる機会としては多いことも忘れたくはないものです。
道徳科の授業においては、教師も生徒と共に、あらためて自己を深く見つめ、考え、聴き合い、語り合い、そして大いに楽しみ、ちょっぴり成長したいものです。「なんと気楽な……」と受け止められそうですが、そうした意識も大切にされることが、実はよりよい道徳科の授業づくりにつながるのではないかと思っています。そのためにも、学習指導要領解説に示されている道徳科における「学習指導過程や指導方法に関する評価の観点例」と「学習状況等に関する評価の視点例」(共に本書参照)を意識され、教材活用や発問の工夫等による質の高い学習活動・授業づくりへの取組に期待しています。我が国の道徳教育の真の実質化をめざして、共々に取り組んでまいりましょう。