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本書で示す70の指導スキルは、単に指導のノウハウを示しているのではなく、社会科教師としての力量形成のための課題群を示していると捉えてください。読者の先生方が、それぞれのキャリアステージに応じて「今、自分に必要だと考えられる指導スキル」を引き出し課題化して、「自分ならばどうする」という問いをもって本書執筆者の提案を読み吟味していく中で、社会科の指導場面で生きて働く自分なりの指導スキルを培っていただきたいと思います。
今あらためて「指導」の意味とスタイルを問い直す必要があるでしょう。すなわち、教師が主導し効率的に子どもに知識を教授し理解を促すことが「指導」であるとの捉え方の問い直しです。教師が個々の子どもの背景や学びの状況を踏まえ、相互の対話を通じて子どもにとっての個別最適な学びをデザインしていくような「指導」のスタイルへの転換が求められていると思います。
特に中1生について、社会科に対する興味・関心の傾向や小学校における学習の内容や方法に関する情報を、アンケート調査等を活用して適切につかんでおくことが大切です。教師の視点からすると、社会科の指導は、小学校では学級担任制で、中学校では教科担任制で行われます。自ずと小・中学校教師間で教科観や目標観、指導観に違いが生まれます。違いがあることを前提に、小中相互の授業研究を実施するなど連携体制を構築し、社会科指導のあり方について対話を重ねることも有効ではないでしょうか。
子どもが社会的事象の意味・意義・特色や相互の関連を考察したり、社会に見られる課題の解決を構想したりする授業づくりのために、教師には、「見方・考え方」を、
(1)単元の学習問題の設定に活かす
(2)学習内容の構造化に活かす
(3)子どもの思考・判断過程として学習過程を組むために活かす
スキルが求められます。また、学習の主体は子どもですから、
(4)子どもに自らが用いている「見方・考え方」を常に意識させ言葉で表現させることを促す
指導スキルも大切になるでしょう。
タブレット端末と学習支援アプリの活用は、子どもと教師による協働的・対話的な学習の展開を通じて、子どもの深い学びを実現する有力な手段になると考えます。例えば、資料・教材の提示と活用が一層豊かになると期待できます。写真や音声・動画などの貼り付け、資料の拡大縮小が容易にできますし、資料への書き込み機能や付箋機能を活用すれば、同期・双方向での意見交換が可能になります。また、教師は、モニタリング機能を通じて子どもの思考のプロセスや学習の進捗をリアルタイムで把握しやすくなります。
今日、学校現場が抱える課題、例えば教師が授業の準備や研修等の職能開発に割く時間を十分に取れないことや、教員構成において研修推進の柱となるべき40代を中心とするミドルリーダー層の比率が少ないことなどについては、編者が身近でよく見聞きするところです。こうした現状なればこそ、本書が授業改善と指導スキルの向上を目指す先生方にとってのひとつの支え手になれますことを願っております。