著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
子どもの行動変容を促す「ほめる」アプローチ
筑波大学附属大塚特別支援学校津 梓
2022/7/14 掲載
今回は津梓先生に、新刊『叱らずほめて伸ばす ポジティブな特別支援教育』について伺いました。

津 梓たかつ あづさ

上越教育大学大学院学校教育研究科修士課程を修了後、福祉事業所での成人の生活支援や子どもの発達支援に携わる。その後、公立特別支援学校を経て、筑波大学附属大塚特別支援学校の教諭として現在に至る。筑波大学大学院人間総合科学研究科博士後期課程に在籍中。知的障害や発達障害のある子どもたちに対する、応用行動分析学に基づく支援や、願いや夢を育む授業づくりについて実践と研究をしている。

―本書ではほめて子どもの行動変容を促す仕組みをまとめてくださいましたが…このご本の研究のもとは、筑波大学附属大塚特別支援学校で行われていたグッドポイント・グリーンポイントの実践ですね?

 そうです。中学部の先生たちと学部研究として取り組んでいた、主体的な活動参加と仲間関係を育む「グッドポイント・グリーンポイント」の実践がもとになっています。
 子どもたちが、仲間とのあたたかな関係の中で自ら活動に参加すること、さらに自分の興味関心を深め広げることを目指し、授業づくりとその中での様々な仕掛けを考えました。「見えるほめ方」はそのうちの一つです。
 ほめることは大切ですが、それが子どもの育ちにつながるためには、その「ほめ」が子どもにとって好ましいものであることが前提です。グッド・グリーンポイントは、子どもたちにも先生たちにもわかりやすく、互いに楽しみながら取り組める仕組みでした。

―「行動変容」などと伺うと何となく背景にある理論がもあもあっと浮かんだりするのですが、先生のこのポジティブなご実践を支えておられるお考え(理論)にはどのようなものがありますか?

 人の行動の理由は、本人とそれを取り巻く環境(行動の前後の事象)にあります。これは応用行動分析学に基づく考え方です。さらに、その考え方を適用して前向きな支援を考えるポジティブ行動支援(PBS)という枠組みがあります。これらをもとに、実践をしています。

 行動のきっかけ→ 行動 →うれしい

 この「きっかけ」と「うれしい」のセットが、行動が増える理由です。つまり…
 子どものすてきな行動を増やすためには、子どもにとってうれしい「ほめ方」と「ほめチャンス」を。先生たちが子どもをほめる行動を増やすためには、先生たちにとってもうれしい「結果」と「ほめ行動のきっかけ」を。これがポイントです。
 応用行動分析学は、本人と周りを取り巻く人々の生活を豊かにするための、とても優しい学問です。

―そのほかに、特別支援教育に関わる子どもたちへのアプローチで気をつけることはどんなことですか?

 本書では大きく触れていませんが、特別支援の現場では本人や他人にとって危険を及ぼす、行動上の問題を起こす子どもも少なくありません。「すてきなところを見つけてほめよう」と思っても、くじけてしまいそうになります。
 それでも、基本的には一緒なのです。望ましくない行動の「きっかけ」と「うれしい」をなくし、その代わりのすてきな行動の「きっかけ」と「うれしい」を設定します。
 もしも友達に対する望ましくない行動が起こっているのならば、思い切って「きっかけ」への対応を変え、集団と切り分けた学習場面をつくります。その行動が一切起こらないように設定した場所で、望ましい行動を個別にたくさん学習してから、改めて集団に参加することは有効な方法だと考えています。

―先生は「ほめることは教師の大切な仕事(教師の仕事の9割)」と、書かれていますが、先生は子どもをほめるためにどんな工夫をされていますか?

 もちろんほめる以外にも大事なことはたくさんあると思いますが、9割の「ほめる」は子どものすてきな行動が見られた時に「いいね!」と言葉かけをすることだけではありません。
 例えば、すてきな行動を起こすためのきっかけをつくること、場合によっては、その行動の仕方を教えること、そして子どもにとってうれしい「ほめ」を見つけて、その方法でほめることなど。子どもをほめるためには、やることがたくさんあります。
 でもそれってよく考えると、「授業」だったり、「個別の指導計画」だったりしますよね。
 子どもが「できた!」「やりたい!」「好き!」と言ってくれる授業って何だろう、支援の手立てをこうしたら「できた」につながるかな、そんな当たり前だけど大切なことを日々考えています。

―最後に…おなじく「子どもをほめて伸ばしたい」と考えておられる先生方にメッセージをお願いします。

 毎日やることがたくさんある中で、一人一人の子どもの姿を丁寧に見ていくのって、大切だけれど難しいですよね。
 「ほめて伸ばす」の極意は「子どもの好きなもの探し」だと思っています。食べ物、乗り物、音楽、ぶるぶる震えるおもちゃ、キラキラのライト、先生の笑顔…。いろいろな体験を子どもと一緒にして、なるべくたくさん見つけて増やしていきたいです。
 そのために、一緒に取り組む「仲間」をつくっていきましょう。同僚の先生たちだけでなく、保護者さん、職場外の先生たち、先生以外の人たち、…仲間候補はたくさんいます。理論や理屈はとりあえず置いといて、「○○さんの好きなもの探しチーム」もよいかもしれません。
 まずは先生が元気にポジティブに、毎日を楽しめますように!

(構成:佐藤)

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