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本書はこれからの英語授業についてミドル教師の4人(奥住、上山、宮崎、山岡)が総力を挙げて書きあげたものです。それぞれの内容を簡単にご紹介します。
奥住桂先生はChapter 1で、学習指導要領の「スキマ」について書かれています。注目はそれほど当たってはいなくても見落としてはならない大事なポイントをワクワクしながら学べます。
Chapter 2は私、上山晋平です。これからは、教科書の内容を教えるだけではいけないとよく言われますが、どうしたらよいのでしょうか。生徒が「持続可能な社会の創り手」(学習指導要領前文)に育つことを願って、どう課題発見・解決力をつける教育活動に取り組めばよいのか、具体的に提案します。
Chapter 3担当の宮崎貴弘先生は、授業づくりのポイントに切り込みます。「学習規律」や授業をどう「デザイン」し、テストをどうしているのか、その秘訣を具体的に明かしてくれます。
Chapter 4の担当は山岡大基先生です。得意のライティングに加えて、スピーキングの活動アイデアを提供してくれます。ことばに向き合い、地道な学習を大切にするとはどういうことかがわかると思います。
生徒が熱中する授業やテストには、多くのポイントがあります。生徒が長期にわたって力をつけるためには、表面的な楽しさだけでなく本質的な指導の充実が必要です。それぞれの先生方や生徒の目標や実態、性格等に応じて、次のような要素を授業に少しずつ組み込んでいくとよいかもという点をいくつか挙げてみます(詳細は、本の中でじっくりとご覧ください)。
・目先のテストの為だけでなく、今後の自分や社会のためにも必要な取組だと分かり、生徒が主体的に臨む。
・チャレンジングな課題や社会のリアルな課題により、生徒が取り組む意義を理解し、それを乗り越え、自らの変容に自信をつける。
・生徒が「自己選択」する場面を取り入れ、「自己決定」し、生徒が「自己責任」で取り組む。
・先生が教え込むのではなく、生徒が気づくような指導を取り入れ、やらされている気にならない。
Chapter 1は最初から「変化球」という感じがして奥住先生らしいです。そのような中で「群読」や「スキット」など、昔から取り組まれてきた活動に再注目している05の項目に励まされるベテランの先生も多いのではないかと思います。
続いて、宮崎先生のChapter 3では、10の「テストデザイン」のページで、緻密なテスト計画を学べます。どのようなテストデザインが、生徒の力を高めるのかは必見です。また、実際のテスト問題も参考になります。
最後に山岡先生のChapter 4。「教材研究」を扱った01が、いかにも山岡先生らしいです。教材研究のノウハウは英語教育書でも語られることが少ないので、特に若い先生方に参考にしていただけるのではと思います。
ここはさらに熱意を込めて語りたいと思います(笑)。
礒津政明著『2040 教育のミライ』によると、上記OECDでは、20年もかけてこれからの時代に教育者が目指すべき世界共通のゴールを設定したとされています。それが本書にも出てくる「ラーニングフレームワーク2030」です。
これによると、教育の最終目標は「個人・集団・社会のウェルビーイング(心身ともに健康で幸福で良い状態)とされています。この教育目標には多くの方が賛同されると思いますが、これを達成するためには、個人にどのような資質・能力をつけていく必要があるでしょうか。OECDで提案されているのは次の3つです(以下略称。正式名称は本書をご覧ください)。
・物事に主体的に関わる力
・クリエイティブな力
・対立を解消する力
こうした力は、世界全体で求められている力であり、海外ではこうした資質・能力を学校だけでなく、社会全体で育てるにはどうしたらよいかを真剣に議論し、教育改革が長年継続されていると言います(上掲書)。
日本では、上記のことをしっかりと個々の教員が意識し取り組めているでしょうか。これらを意識しておかないと、忙しい現場では、どうしても教科書の内容を理解し、「テストを解く力」などの狭義の学力をつけるだけでいっぱいいっぱいになりがちになるのではないでしょうか。
教育基本法の第二条(教育の目標)を読み直してみると、教育の目標として、「真理を求める態度」「創造性」「自主及び自律の精神」「職業及び生活との関連を重視」「主体的に社会の形成に参画し、その発展に寄与する態度」「環境の保全に寄与する態度」「国際社会の平和と発展に寄与する態度」を養うなど、本当に大切なことが書いてあります。これらはまさに今、特に求められていることと言えるのかもしれません。
英語科を含めて各教科は、教科書の内容を理解するだめだけではなく、こうした「資質・能力を育てるために各教科がある」ということを理解し、真にそうした資質・能力を学校内外でつけていこうと、多くの教員ではっきりと再認識し、それに向けて学校全体で協働することが求められているのだと思います(これが、カリキュラム・マネジメントが求められる所以です)。
英語科は、教科横断的な内容やグローバルな視点などで、学校内で教育改革のリーダーと成り得る教科だと思っています。英語科の先生方の教育に対する見方・考え方・行動が変わることで、学校全体が変わり、ひいては社会全体に大きな変容が生まれると信じています。
知識がある・知能が高い人が求められる時代から、社会全体のウェルビーイングに向けて、エージェンシーを発揮し、創造性やICTなどを駆使して他者と協働的に課題を解決していく人が求められる時代へと変わっていくような気がしています。我々がそうした方向性を志向しつつ、生徒が持続可能な社会の創り手に育つ支援ができたらと考えています。
我々は、「変化の激しい不確実な時代」に生きていると言われています。当然本書もその例外ではありません。つまり、本書の誰か一人の意見が教育界の「唯一の正解」という画一的なものではありません。
そうではなく、注目する視点や生徒の違いにより、多様な考え方があり、そうした多様な考え方を理解し合うことで、互いの強みや弱みの強化にもつながるということです。本書をお読みいただくと、1つのことにも多様な見方があるときっと気づかれるはずです。
ただし、唯一の正解がない、と言われる教育においても、解決策やヒントはきっと多くあるはずです。我々4人は、本書で現在の精いっぱいをぶつけたつもりです。ぜひ本書の具体的な記述に進んでいただけたらと思います。この中の誰かの一言でも、読者の方の教育に対する見方・考え方を形づくったり、背中を後押しできたりするきっかけになれたら幸いです。