- きょういくじん会議
各地で硫化水素による自殺が相次いでいるという痛ましいニュースが、連日報じられている。4月30日の産経新聞の報道によると、学校現場にもこの問題は波及してきているそうだ。
産経新聞の報道によると、学校には硫化水素の材料となる洗浄剤がトイレ等の掃除のために常備されており、また、理科の教科書には硫化水素を発生させる実験が掲載されていることから、学校現場は子どもたちに危険性を伝える必要がある一方で、必要以上には興味を喚起したくはない、というジレンマに悩んでいるという。
たしかに、材料と知識が学校でそろってしまうならば、メディアやネットの情報に刺激された子どもたちが、いたずらの延長で有毒ガスを発生させてしまう可能性もあるだろう。また、自殺を考えている子どもに対しては、自殺の知識を与えることになってしまう。
理科の教科書に「硫化水素」記載―内容の削除も?
該当する教科書の内容は、中学校理科の「物質の変化」を扱った単元で、「硫黄と鉄の混合物」が熱せられると「硫化鉄」という別の物質に変わることを確認するものだ。その確認作業の1つに、「硫化鉄」を反応させることで発生する「硫化水素」の腐卵臭を利用する実験がある。「硫黄と鉄の混合物」からは無臭の水素が発生するだけなので、においの違いで物質の変化を確認する。
もちろん学校の実験では、換気や成分量の調整、正しい嗅ぎ方の指導などで子どもの安全に配慮はされているが、自殺報道の影響で、硫化水素の実験は取り扱いの難しいものになりそうだ。次回の教科書改訂でこの実験が削除されるのではないかという声も聞かれる。
以前にもコハク酸水溶液を加熱し結晶をつくる実験で、加熱のし過ぎから有毒ガスが発生する事件が続き、その実験を掲載していた啓林館の理科教科書が記述内容を変更したことがあったが、それに限らずとも、もともと火や薬品を用いる理科の実験は危険なものである。今回はそれに加え、実験の内容が多感な子どもたちに刺激を与えやすく、事故や自殺を誘引しかねない点が事態を複雑にしているのだろう。
「命」に向き合う難しさ―自殺予防教育への期待高まる
子どもへの刺激を懸念する背景として、学校現場で自殺を取り扱うことが難しく、依然としてタブー視されていることも挙げられるだろう。「寝た子をおこすのでは」という不安から、今まで自殺予防教育は行われづらかったが、平成18年の自殺対策基本法の成立で、教育現場で「自分の命の大切さ」を教えて欲しいという期待は高まっている。今回のような懸念をしなくてもすむよう、学校現場から自殺の防止に取り組み、子どもたちが命に対する正しい認識を持てる教育が実現することに期待したい。
- 文部科学省における自殺対策に資する主な施策について
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/046/shiryo/08032502/003.htm - 自殺予防総合対策センター
http://www.ncnp.go.jp/ikiru-hp/