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拡大教科書推進普及会議―ボランティア頼みからの脱却へ
kyoikujin
2008/5/23 掲載

 文部科学省は、先月25日に「拡大教科書普及推進会議」を立ち上げるなど、弱視者向けの拡大教科書の普及に本腰を入れ始めた。ボランティア団体の努力に頼っている現状から、教科書会社が拡大教科書の作成に注力するように仕向けるのがねらいだ。

拡大教科書とは? 現状と問題点

 拡大教科書とは矯正視力が0.3程度の弱視者に向けて作成される教科書を指し、文字や図版を拡大したり、レイアウトを弱視者にも見やすいものにしたりと、通常の教科書の内容のまま加工をしたものである。単に拡大コピーしたものとは違い、フォントの種類や字間・行間の調整、図の見せ方の変更など、弱視者への配慮が行き届いている。「『拡大教科書』作成マニュアル」の内容を見ても配慮するべきポイントの多さに驚かされる。また、弱視者の状態によって見やすい文字のサイズなどは違うので、利用者の個性に合わせ「オーダーメード」で作られるのも特徴だ。教科書の内容への深い理解も求められる。
 このように手間のかかる拡大教科書の作成だが、今のところ各地のボランティア団体の作成に頼っているのが現状だ。文科省の資料によると、契約冊数の約8割をボランティア団体が作成している。教科書会社や民間出版社からも発行されてはいるが、教科や学年が限られており、多様なニーズには応えられていない。もちろん、副読本や参考書・ドリルなどの拡大版はほとんど手つかずのままだ。

 また、拡大教科書の絶対数も足りていない。18年度に拡大教科書が給与されたのは634人だが、17年度の調査では、小中学校の通常学級に通う弱視の子どもは1739人いる。盲学校に通う弱視の子どもも含めると2000人近くになると考えられるので、拡大教科書が行き届いているのは全体の3分の1に満たないことになる。

 文部科学省は数年前から拡大教科書の普及に取り組んでおり、無償化や効率化の実施、給与冊数の3倍増などの実績をあげてきた。今後は「拡大教科書普及推進会議」で議論を重ね、教科書会社自身の拡大教科書作成の推進や、より効率的な教科書データの受け渡し方法などを検討していく予定だ。教科書会社が標準的な拡大教科書を作成し、その規格に合わないオーダーに対してボランティアが対応するという体制をつくり、ボランティアの負担を軽減することにねらいがあるようだ。

今後の課題―拡大教科書普及推進会議を受けて

 だが、議論すべき課題はまだまだ残されている。会議では、特に標準規格をどうするかが問題となりそうだ。子どもの状態によって読みやすいフォントサイズは変わってくるし、色の認識なども違ってくる。視覚障碍者読書支援協会(BBA)の調査では、見やすい字体や色についてのアンケートが掲載されており、その多様さが見て取れる。「標準」と呼べる規格を設定するのは難しそうだ。
 その他の検討事項案を見ると、教科書会社への普及啓発方法、教科書会社からボランティア団体に渡されるデータの種類の検討や、データを管理する組織のあり方、高校生向け拡大教科書の検討など、考えねばならない課題が残されていることがわかる。
 今後の会議の行方に注目したいが、現在拡大教科書が行き渡っていない子どもたちに、一日でも早く適切な教科書が届くよう、会議、文科省、各教科書会社の努力に期待したい。

この記事は、『きょういくじん会議』の記事を移転して掲載しているため、文中に『きょういくじん会議』への掲載を前提とした表現が含まれている場合があります。あらかじめご了承ください。
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