- きょういくじん会議
東京・六本木。この街は今、ここ数年の間に相次いで開館した森美術館、国立新美術館、サントリー美術館の影響により、一大アートエリアとしての盛り上がりを見せています。そのうちの一つ、森美術館で現在開催されている「英国美術の現代史:ターナー賞の歩み」展。こちらは会期終了も間近なのですが、ぜひとも駆け込み鑑賞していただきたい! とオススメできる展覧会なのです。
今日の現代美術界で最も権威ある賞といわれるイギリスのターナー賞。絵画や彫刻、写真といった型通りの表現媒体にとらわれることなく、多岐にわたる現代的な「アート」を取り上げるユニークな賞として知られています。50歳未満の者が賞の対象となることから、英国若手アーティストの登竜門として世界中の注目を集めるとともに、世界の現代美術をリードしてきました。
今回の展覧会はその歴代受賞作品を一同に集めてしまおう! という初の試みによって、賞を回顧することはもちろん、賞が創設された1984年から今日までの現代美術の流れを時系列で追っていくことができます。
ダミアン・ハースト【母と子、分断されて】
何かと話題にのぼる、世界で最も有名(悪名?)な現代美術家の一人。1995年のターナー賞に輝いた彼の作品は、牛の親子をそれぞれ頭から尾まで真っ二つに「分断」し、更に別々のケースに「分断」してホルマリン漬けにしてあるというもの。誰もが息を飲むこの衝撃的な作品は当時、動物愛護団体なども交えて大論争になったそう。ちなみに実物は、グロテスクな印象はあまり受けず、どこか静謐な空気さえ持っています。博物館に置かれればただの標本となり、決してアートとは呼ばれないであろうこの作品、観る人によってさまざまな解釈がされることでしょう。
ジリアン・ウェアリング【60分間の沈黙】
壁にかかったプロジェクターに映るのは警官たちの集合写真。かと思いきや、よく見るとかすかに動いてる! 実はこれは、60分間話すことも動くことも禁じてじっと静止する姿をただ記録しただけの映像作品。彼らはじっと待つ。無言で待つ。ひたすら待つ。すると、時間が経つにつれ徐々に変化が…。60分間、映像の中の人々と同じようにじっと辛抱して観た人には最高のクライマックスが待っています! ちなみに、他の映像作品の前には大体置いてある椅子が、この作品の前にはありません。これも作者の狙いなのかも?
マーティン・クリード【ライトが点いたり消えたり】
その部屋に入ってみても、展示品も何もなく、ただ空っぽなだけ。でもなぜか部屋の電気が点いたり消えたりしている…。そう、これこそが「アート」として2000年度のターナー賞を勝ち取った作品。「これのどこがアートなんだ!」と、これまたかなりの賛否両論を巻き起こしたそうですが、いつの時代でも新しすぎて他人が考えつかないようなものは、最初のうちは叩かれるものですよね。非常にシンプルな作品ですが、そのぶん驚きと斬新さはピカ一。芸術とはなんぞや、とため息をつかされます。
上に挙げた3点以外にも、刺激的で斬新な作品が多数揃う「ターナー賞の歩み」展。古典的な絵画や彫刻を観るのとは全く違うパワーを感じられることでしょう! 鑑賞後はきっと誰か相手を見つけて「あの作品どう思った?」なんて感想を言い合いたくなるに違いありません。現代アート=奇抜なものと思わず、最後のチャンスにぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。
ちなみに森美術館の入館料は、六本木ヒルズの東京シティビューと共通になっています。そのため観覧者には家族連れやカップルが多いのが特徴。子どもたちが作品をみて、その素直な感性で大人に感想を言っているのを聞くのもなかなかおもしろいものです。(〜7/13まで)