きょういくじん会議
まじめなニュースからやわらかネタまで、教育のことならなんでも取り上げる読者参加型サイト
紫式部に近づける? 源氏物語の写本を発見
kyoikujin
2008/7/27 掲載
新源氏物語 (上) (新潮文庫)

 源氏物語の写本が今年、東京、奈良でそれぞれ発見されました。源氏物語千年紀である今年、各地で関連イベントが多く開催されています。そんな記念の年に、今後の研究次第では、私たちが読む源氏物語の表記が変わってくるかも…という可能性も秘めた写本の発見です。

 12日の読売新聞記事によると、東京の旧家で発見されたのは、「源氏物語」の全54帖がそろい、室町時代に書写されたのではないかと考えられる写本。一部は、東京・六本木の国立新美術館で来月3日まで展示されているとのこと。
 21日の時事通信の記事では、こちらもまた、全54帖がそろった写本が奈良県の旧家で見つかったと報じています。鎌倉時代中期のものと見られるこちらの写本は新発見ではなく、1940年ごろま大沢家が所蔵していたことがわかっていたもので、その後約70年間所在不明となっていました。

 写本とは、本を手書きで書き写したもの。印刷技術のない時代は、写本によって作品が広まっていきました。借りて読んだ本を自分の手元に置いておきたいと思ったとき、昔は自分で書き写していたのです。手書きで書き写していたので、当然書き間違いや写し間違いも多くなります。また、書き写す人が、「ここはこっちの表現のほうがいい」などと思えば意図的に書き換えたり、漢文で読み方がわかりづらいものは書き下したり、振り仮名を振っていたりしました。一度誰かが書き換えると、次に写す人も原本とは違ったものを書き写すことになります。誰がどこで書き換えたかわからないので、写本は古ければ正しいというわけではありません。
 現在私たちが読んでいる古典のほとんどは「本物」ではありません。平安時代以前の古典の原本はほとんど残っておらず、鎌倉時代から室町時代のころの写本が多く、印刷されている本は、その写本をさらに翻刻・校訂したものなのです。

 源氏物語の写本は現在、藤原定家が校訂した青表紙本系と、源光行・親行(ちかゆき)父子が校訂した河内本系、このどちらにも属さない別本という三つの系統があります。違う写本でも青表紙本系、河内本系に属する写本は、それぞれほんとど同じ内容であるということです。今回発見されたものには、別本系が多く混じっており、原本に近い記述があるのではないかと期待されています。

 今回の発見により、劇的にストーリーが変化するということはないのでしょうが、少しでも紫式部の書いた源氏物語に近いものが読めるようになるのか、今後の研究に期待が高まります。

この記事は、『きょういくじん会議』の記事を移転して掲載しているため、文中に『きょういくじん会議』への掲載を前提とした表現が含まれている場合があります。あらかじめご了承ください。
コメントの受付は終了しました。