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タイの子供たちを描いた問題作―「闇の子供たち」がヒット
kyoikujin #93
2008/9/8 掲載
闇の子供たち

 8月2日から、ミニシアターを中心に全国各地で公開されている映画「闇の子供たち」が、関係者も驚きの興行成績をあげているとのこと。本作品は幼児売買春や臓器売買などの深刻なテーマを扱っているのにも関わらず、年齢や性別を問わず幅広く支持され、このところ満員御礼の大ヒットと言っていい状態が続いているそうです。

 「闇の子供たち」の原作となったのは、「夜を賭けて」「血と骨」などで知られる梁石日(ヤンソギル)の同名小説。あまりにも衝撃的であり、読み進めるのを躊躇してしまうほどの内容ゆえに、映画化は難しいと言われていたこの作品のメガホンを取ったのは、「KT」「亡国のイージス」などの社会派作品で知られる阪本順治監督です。

 作品中に描かれるのは、タイの裏社会で実際におきているすさまじい現実。10歳にも満たない子供たちがわずかな金額で実の親から売春組織に売り飛ばされ、狭い格子付きの部屋に監禁され、自分の欲望を満たすことしか考えてない先進国の大人たちに心身ともに踏みにじられていきます。中にはバイアグラなどのホルモン剤を大量に打たれてショック死する子供や、エイズにかかっているとわかりゴミ袋に入れられて捨てられる子供、健康体であれば、臓器提供を待つ日本の裕福な子供のために、生きたまま臓器を摘出される子供もいるのです。
 何度も出てくる子供たちへの虐待シーンは、誰もが目を背けたくなるほど残酷なもの。阪本監督はそれを演じる子役たちの心のケアを一番に考え、大人と子供を別々に撮影し、子供には醜い大人の裸を見せないようにしたそうです。同じフレームに映っているシーンでは大人に背を向けさせて子供を映したり、大人の方を向いている子供を背中から撮る場合には、目をつぶらせて大人の姿を見せないようにするという徹底ぶり。しかしそれらの神経質なまでの心遣いが、逆に監督を追い込み、一時はストレスからくる失声症に陥ってしまったのだとか。
 作品には値札のついた命というサブタイトルが付けられています。「人の命はお金で買えない」とは言いますが、子供たちが使い捨ての商品のごとく売買されるこの世界では、それも偽善のように聞こえてしまいます。

 この極めて重い社会派ドラマが予想外のヒットを飛ばしているのには、誰もが知る有名俳優が多く出演していたり、人気歌手が主題歌を歌っているという表面的な部分も影響しているのかもしれません。しかしそういった理由だけでなく、この平和な日本にいる限りは目の当たりにすることのない、世界で起きている真実というものを、多くの人が知りたがっているということなのではないでしょうか。

この記事は、『きょういくじん会議』の記事を移転して掲載しているため、文中に『きょういくじん会議』への掲載を前提とした表現が含まれている場合があります。あらかじめご了承ください。
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