きょういくじん会議
まじめなニュースからやわらかネタまで、教育のことならなんでも取り上げる読者参加型サイト
必要のない人なんていない―小さい“つ”が教えてくれること
kyoikujin #93
2009/2/24 掲載
小さい“つ”が消えた日

 三修社から出版されている「小さい“つ”が消えた日」という書籍が話題になっています。日本語の五十音をテーマにして書かれた、大人も子どもも楽しめるファンタジー…という触れ込みですが、驚きなのは著者が外国人だということ。日本語を母国語としないからこその新しい視点で書かれた、大変興味深い1冊です。

 「小さい“つ”が消えた日」の舞台は、日本のどこかにひそかに存在する、いろいろな文字が住む五十音村です。“あ”さんはいばりんぼ、“か”さんは優柔不断、“ふ”さんは笑うのが好き…そんな個性豊かな住人たちの中には、音のない小さい“つ”もいました。しかしある日、小さい“つ”は「音がないなんて文字じゃない」と他のみんなからバカにされてしまいます。悲しみに沈んだ小さい“つ”は家出をし、小さい“つ”の消えた日本語はその日から大混乱に陥ってしまいます。「訴えますか」が「歌えますか」に、「根っこを食べる」が「ネコを食べる」に…。会話の通じなくなった日本は、果たして一体どうなってしまうのでしょうか?

 「小さい“つ”が消えた日」の著者は、ドイツ人であるステファノ・ファン・ロー氏。20歳の時に来日してから日本語を学び始めた氏が、習得するのに大変苦労したのが促音の「っ」だったそうで、その思い出が本著を生み出したきっかけになっているのだとか。
 私たちが普段何気なく話している日本語ですが、この本を読むと日本語に対しての新鮮な発想に何度も驚かされます。「っ」に発音がないなんて、考えたこともなかった人もいるのでは!?

 そして、この本を通して語られているのは「必要のない人なんていない」ということです。小さい“つ”が村を出る時に残した置き手紙には次のように記されていました。「僕はあまり大切ではないので、消えることにしました。さようなら」。子どもたちに小さい“つ”のような想いをさせないためにはどうしたらいいのか、ということを深く考えさせられる本です。

この記事は、『きょういくじん会議』の記事を移転して掲載しているため、文中に『きょういくじん会議』への掲載を前提とした表現が含まれている場合があります。あらかじめご了承ください。
コメントの受付は終了しました。