- きょういくじん会議
野口芳宏先生・高橋俊三先生・向山洋一先生による模擬授業で幕を開けた日本言語技術教育学会の第19回千葉大会。「伝統的な言語文化」を深める授業力とは―あなたの言語力で子どもが育つ!をテーマに、今月6日開催されました。
会場のステージで行われた模擬授業。3人の先生方がそれぞれ30分ずつ授業されたのですが、壇上に立たれた瞬間からそれぞれ独特の授業空間になるのはさすがです。
午後には、学会会長の市毛勝雄先生の司会進行で、模擬授業の検討と討議が行われました。パネラーとなった先生方やフロアから忌憚のない発言もあり、改めて、「伝統的な言語文化」を授業で扱う際に固有の授業力・言語技術とは何か、教師の言語力として意識すべきことは何か、などが熱心に議論されました。各先生の授業の概要と、主な論点は以下の通りです。
野口芳宏先生「神話」
古事記より「天の岩戸」を原文(注釈つき)のまま教材として使用。授業は教師の範読と語りを中心にしたもの。子ども役の音読と内容理解を引き出し、日本の民族や伝統に誇りと親しみを持たせる野口ワールド全開の授業でした。「教師の言語力」としては、語りの技術、たしかな教材研究力等を中心に提案されました。
しかし、神話では天照大神が現在の皇室の祖先神とされていること等に語りが及んだことについては、「授業としては飛躍がある」との批判も出されました。
高橋俊三先生「民話」
徒然草より「猫また」を原文のまま教材として使用。教師の朗読と、それぞれ役割を担った子ども役の音読で授業が進みます。音読を重ねていくうちに「猫また」の面白さに気づき、30分間で群読にまで見事にスムーズに発展させていきました。「教師の言語力」としては、教師の朗読力と群読指導力を身をもって示されました。
しかし、子ども役の中には「(猫またの)どこが面白いのかわからないとおっしゃる先生もいて、個々の感じ方の違いをどう生かすかも一つの課題となったように思います。
向山洋一先生「いろは歌」
七音五音を中心とした文語のリズムに親しむことができ、現代の生活にも溶け込んでいる文化の一つでもあり、1000年以上の教育文化ともなっている点で傑出した教材性をもつ「いろは歌」。小学生相手の授業はその一端しか披露されませんでしたが、その教材研究の深さと広さから、日本の伝統文化に親しみと敬意を持たせる授業構成の仕方は多くの参会者をうならせました。
実際の子ども相手にどう授業するかという点についての疑問が提出されました。
大会を振り返って
後半は模擬授業を離れて、「伝統的な言語文化」を深める授業、今、何が問題か?と題したシンポジウム。現職調査官の水戸部修治先生と前回改訂時の調査官・小森茂先生とのやりとりをはじめ、条件整備面での課題や多くの授業実態から見た課題が、様々な立場から出されました。なかでも強調されたのは、「伝統的な言語文化」は歴史遺産のようなものではなく、現代生活にも息づいていることや、未来の文化を創造していくことに、授業をつなげる発想です。多くの参会者の今後の宿題となったことと思います。
さらに印象的だったのは、会場の半数以上が小・中学校の若い先生方で占められていたことです。大会後の懇親会にも100名以上の参加があったことも、同学会の熱気を感じました。
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