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若い世代にもおすすめ! ポップな文芸誌
kyoikujin
2011/2/21 掲載

 先日芥川賞を受賞した西村賢太氏「苦役列車」と朝吹真理子氏「きことわ」の両作が掲載された「文芸春秋」3月号が、5万部増刷されることに決まったそうです。文芸春秋の増刷は、綿矢りさ氏、金原ひとみ氏が芥川賞を同時受賞した2004年以来、実に7年ぶりのこと。いつもは文芸誌を読まないけれども、話題の2作が気になって買ったという方も多いのではないでしょうか。作風も著者経歴も対照的といわれる2作、たしかに一度に読んでみたいな、という気になります。

若者に受け入れられているかも?最近の文芸誌

 今回のように、受賞作が載る号は比較的売れるようですが、文芸誌はどれも不況続きという印象があるかもしれません。しかしながら、最近の文芸誌界は一昔前のそれとは少し違っています。装丁がおしゃれで楽しげなものや、文芸誌ならではの企画が光っているもの、CDやDVDがついたものなど、思わず手にとりたくなるような魅力的な文芸誌がたくさんあり、そういった文芸誌は、若い世代にも受け入れられているように感じます。昨年秋に、若者に人気のアパレル会社「BEAMS」が文芸誌「In The City」を創刊したのも、若い人たちに文芸誌が読まれていることを表しているでしょう。どんな形にせよ、活字離れを嘆かれている世代が意外にも文学に関心をもっているというのは嬉しいことに思えます。今日は若い世代の方にもおすすめの文芸誌をいくつかご紹介します。

新潮

 まずは、王道の文芸誌から。今回の芥川賞2作「きことわ」と「苦役列車」も初出は新潮でした。芥川賞受賞作のような話題の新作が読めることも、もちろん文芸誌の大きな魅力ですが、編集者の力が感じられる特集も醍醐味のひとつです。昨年の特集でもっとも面白いなと感じたのは、3月号の「100年保存大特集 小説家52人の2009年日記リレー」です。2009年の365日を、52人の小説家が1週間交代のリレー形式で日記に書くというもの。1月1日の大江健三郎に始まり、島田雅彦、川上弘美、よしもとばなな、筒井康隆、堀江敏幸、川上未映子、高橋源一郎、江國香織、金井美恵子など錚々たる作家が続いて、大晦日は古井由吉が締めくくりました。アメリカの大統領が変わり、日本でも民主党政権が誕生して「Change」という言葉がもてはやされた2009年の日々が、純文学の作家たちによって淡々とつづられていく。作家によって、それぞれがまったく違う時間をすごしているようにも見えますが、そこに流れている時間は2009年というたしかに限定された1年間。読みながら、自分自身の一年間も振り返ってしまいました。編集長の矢野優氏が、

「100年保存大特集」と銘打つのは、一世紀後、文学を愛する2110年の読者にも本号を届けたいからだ。

と言うとおり、長くとっておきたい1冊になりました。

早稲田文学

 次に紹介するのは、早稲田大学文学部が中心になって発行している「早稲田文学」です。坪内逍遥によって1891年に創刊された日本でもっとも歴史の長い文芸誌ですが、これまでに休刊と復刊を繰り返し、現在不定期で発行されているものは第十次にあたるそう。2007年の0号で掲載された、川上未映子の「わたくし率イン歯ー、または世界」は、大手文芸誌以外からはめずらしく芥川賞候補作にもなりました。毎回写真を使った表紙が印象的です。最新号は、2010年12月に発行された「増刊π」。3号と4号の間だから「π」という茶目っ気のある増刊号には、朝吹真理子と町田康の対談も載っています。また、文芸誌への橋渡しとして大判で薄いフリーペーパーの「WB」も発行しており、日本全国の大学や本屋さんカフェなどに設置されています。荒波にもまれながらも生き長らえてきた大学発信の文芸誌、応援したい気持ちになります。

真夜中

 最後にご紹介するのは、とてもポップな文芸誌、「真夜中」です。文学だけでなく、漫画や写真なども掲載されているので、文学以外の入り口から手にとる人も多いかと思います。とてもおしゃれな装丁で、サイズも大判なので、一見するとファッション誌のよう。眺めているだけでも、楽しい気持ちになります。真夜中のような、特定のジャンルにとらわれないタイプの文芸誌も、今後増えていくかもしれません。文学を敬遠してきた若者たちが、こういったところから文学に出会うとしたら、それも幸せな出会いですよね。

 もちろん、今回ご紹介した3誌以外にも面白い文芸誌はたくさんあります。分厚い文芸誌をすみからすみまで読む必要はないと思います。ただ、ちょっと手にとって見ると、新しい作家やこれまで知らなかったジャンルとの出会いがあったり、自分とは違った読み方に気づかされたり、意外な収穫があります。毎月とは言わないまでも、少しでも興味が湧いたものを買ってみると、ちょっといいことがあるかもしれません。本来だったら新しい時代を切り開く若者にこそ、読んでもらいたい文芸誌。これからもどんどん盛り上がって、よい文学との出会いがうまれていってほしいなと思います。

この記事は、『きょういくじん会議』の記事を移転して掲載しているため、文中に『きょういくじん会議』への掲載を前提とした表現が含まれている場合があります。あらかじめご了承ください。
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