「協働的な学び」を実現する算数授業のつくり方
個別最適な学びと一体的に充実させていくために、協働的な学びを、その定義や効果、学習環境など、様々な視点から掘り下げていきます。
「協働的な学び」を実現する算数授業のつくり方(1)
「協働的な学び」って何?
東京学芸大学附属小金井小学校加固 希支男
2022/6/25 掲載

 2021年1月26日に出された中央教育審議会答申「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して〜全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現〜(答申)」(以下、中教審答申)において、「個別最適な学び」と「協働的な学び」という言葉が示されました。
 その際、「協働的な学び」という用語は、我々現場の教師にとってはイメージしやすいものであったため、「『個別最適な学び』とは何か」ということが盛んに議論されるようになりました。しかし、「協働的な学び」の意味が明確になっているわけではありません。
 そこで初回は、「協働的な学び」の意味を再考し、「協働的な学び」の意義について述べていきます。

「協働的な学び」について考える必要性

 「どういう子どもの姿が、『協働的な学び』をしている姿なのか?」と問われると、答えるのは難しいのではないでしょうか。
 もし、「協働的な学び」の意味が学習形態だけに留まってしまうと、「これまでもペア学習は取り入れてきた」「これまでも、子ども同士で話し合わせてきた」と考え、何も変わらない危険性があります。
 いま一度、「協働的な学び」の意味や意義について再考することが、これからの教育のあり方を考えていくことにつながるはずです。

「個別最適な学び」と「協働的な学び」の関連

 中教審答申において、「個別最適な学び」と「協働的な学び」の関連については、次のように説明されています。

 学校における授業づくりに当たっては、「個別最適な学び」と「協働的な学び」の要素が組み合わさって実現されていくことが多いと考えられる。各学校においては、教科等の特質に応じ、地域・学校や児童生徒の実情を踏まえながら、授業の中で「個別最適な学び」の成果を「協働的な学び」に生かし、更にその成果を「個別最適な学び」に還元するなど、「個別最適な学び」と「協働的な学び」を一体的に充実し、「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善につなげていくことが必要である。
(下線は筆者)

 大切なことは、「『個別最適な学び』と『協働的な学び』を一体的に充実」するという部分です。 
 拙著『「個別最適な学び」を実現する算数授業のつくり方』(2022)では、「個別最適な学び」と「協働的な学び」の関係について、以下のような図を示しました。

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 「個別最適な学び」を目指そうとする際、「個別学習」という学習形態を取ることが考えられます。自分なりに問題を解決する過程で見方・考え方を成長させ、解決した問題を発展させる学習を行っていくのです。しかし、学習の途中で、1人では解決できない問題が出てきたり、問題を発展させることが困難な場面が出てきたりします。また、問題を解決できたとしても、解法に自信がなかったり、見方・考え方を働かせることができなかったりする子どももいます。そういったとき、いつでもまわりの人とかかわれる学習環境があれば、1人では考えられなかったこと、気づけなかったことに触れることができ、「孤立した学び」になることを避けることができるのです。

「協働的な学び」の意味

@学習形態からの視点

 「協働的な学び」を考える際、真っ先に頭に浮かぶことは、ペア学習やグループ学習といった学習形態ではないでしょうか。このような学習形態については、様々な用語が使われています。「協働学習」「協同学習」「協調学習」などです。
 これらの用語に関しては、様々な定義がされています。例えば、日本協同教育学会では、「互いに協力して学び合うとともに、その意義に気付き、他者と協力する技能を磨き価値観を内面化する教育活動が協同学習であり、協調学習については、より広く、協同作業が組み込まれた学習活動の総称であると見なしている。さらに、協働学習はともに力を合わせて協同作業を行う状態ないし実態を指すもの」とされています(石田・梅原、2010)。学習科学の立場では、「協同(協働)学習」と示し、協同学習と協働学習を区別せず、ディレンボーグ(Dillenbourg、1999)を引用し、「協同学習は課題が個人に割り当てられ、個々に解決した結果を集積して最終成果とするものであり、協調学習は一緒になって課題に取り組むものである」と示しています(望月、2019)。
 それぞれの立場によって呼び名は異なっていますが、共通しているのは、「他者と一緒に問題に取り組む学習活動」という点です。

A本連載における「協働的な学び」の捉え

 「他者と一緒に問題に取り組む学習活動」が、「協働的な学び」において行われると考えられますが、闇雲に集まって話しているだけでは、あまり意味はありません。「他者と一緒に問題に取り組む学習活動」をするときに大切なものは、問題です。
 加固(2022)は、「協働的な学び」のイメージを以下の図で示しました。この図は、「協働的な学び」を実現する際の子どもと問題のかかわりについて示したものです。

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 真ん中に問題があり、一人ひとりの子どもが問題と向き合っています。そして、共通の問題を解決するという目的に向かって、お互い協力し合っているのです。
 「協働的な学び」は、一人ひとりの子どもが問題を自分事にすることから始まるのです。問題を自分事にすることができない子どもがいれば、その子どもは、まわりの人と解法について話し合ったとしても、自分の解法との共通点や相違点を見つけ、新たな解法やよりよい解法を見つけようとはしないでしょう。そうなれば、いつもだれかの解法を鵜呑みにするだけ、だれかに与えられた問題を解くだけの受け身の学習者になってしまいます。
 以上のことを踏まえ、本連載においては、「協働的な学び」を「問題を自分事と捉え、その問題を解決するために、柔軟にまわりの人とかかわる学び」と捉えることにします。

「協働的な学び」の意義

@「協働的な学び」は自立した学習者を育てるため

 「協働的な学び」は、いったい何のために行うものでしょうか。「問題を解けるようになるため」だけでないことは確かでしょう。
 ジョンソン、D.W.他(2010)は、「協同学習の究極の目的は、メンバーひとりひとりを自立した強い個人として育てあげることにある」と述べています。また「個人の役割責任を自覚させることによって、グループのメンバーは、他の仲間の努力に便乗したり、タダ乗りを謀ったり、ぼうっと無為に過ごすわけにはいかないということを理解するのである」とも述べています。
 「協働的な学び」を通して、子どもを自立した学習者に育てるためには、自分に対する厳しさと他人に対する優しさを身につけさせることも必要だということです

A「協働的な学び」を実現するために養うべき力

 自立した学習者になるためには、問題を自分事として捉える力が必要です。
 子どもが問題を自分事として捉えるためには、子どもが興味・関心をもてるような問題を教師が提示することも大切でしょう。しかし、それを続けていても、いつまでも子どもは受け身のままです。そうではなく、どんな問題に対しても、「どうやって考えればいいのかな?」「この問題を発展させたら、どんなことがわかるかな?」というように、知的好奇心をもてるような子どもに育てる必要があるということです。それが、子どもを自立した学習者に育てるための第一歩となるのです。
 そのうえで、他者と一緒に問題解決を行う力を養うのです。1人ですべてを解決しようとせず、お互いの個性や特徴を生かしながら、協力して問題解決をする力を養うのです。

【参考・引用文献】
・中央教育審議会(2021)「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して〜全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現〜(答申)」pp.18-19
・加固希支男(2022)『「個別最適な学び」を実現する算数授業のつくり方』(明治図書)pp.109-124
・ジョンソン、D.W./ジョンソン、R.T./ホルベック、E.J.著、石田裕久・梅原巳代子訳(2010)『学習の輪 学び合いの協同教育入門 改訂新版』(二瓶社)pp.42、224-225
・望月俊男(2019)大島純・千代西尾祐司編『主体的・対話的で深い学びに導く学習科学ガイドブック』(北大路書房)p.68

加固 希支男かこ きしお

1978年生まれ。立教大学経済学部経済学科を卒業し、2007年まで一般企業での勤務を経験。2008年より杉並区立堀之内小学校教諭、墨田区立第一寺島小学校教諭を経て、2013年より東京学芸大学附属小金井小学校教諭。

(構成:矢口)
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