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「個別最適な学び」と「協働的な学び」の意味を考えるためには、そもそも「何のために行うものなのか」という目的を捉えておく必要があります。そうでなければ、きっと「個別学習」「自由進度学習」「子どもが司会をする授業」といった、学習形態の話に終始してしまいます。学習形態の話も必要ですが、それは目的があってはじめて意味があるものです。
「個別最適な学び」と「協働的な学び」は、あくまで手段です。手段は目的を達成するためのものです。ですから、「何のために行うのか」という目的を理解しておく必要があるのです。
「個別最適な学び」と「協働的な学び」の目的
2021年に出された中央教育審議会答申「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して〜全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現〜(答申)」(以下、中教審答申)には、「個別最適な学び」と「協働的な学び」のどちらかが優先されるわけではなく、「一体的に充実」していくことが重要であることが述べられています。「個別最適な学び」と「協働的な学び」は切っても切れない関係であるということです。
よって、「協働的な学び」の目的を考えることは、「個別最適な学び」の目的を考えることでもあります。ですから、ここでは「個別最適な学び」と「協働的な学び」の目的について述べていきます。
まずは、中教審答申(2021)に書かれている以下の文章を参照ください。
学校における授業づくりに当たっては、「個別最適な学び」と「協働的な学び」の要素が組み合わさって実現されていくことが多いと考えられる。各学校においては、教科等の特質に応じ、地域・学校や児童生徒の実情を踏まえながら、授業の中で「個別最適な学び」の成果を「協働的な学び」に生かし、更にその成果を「個別最適な学び」に還元するなど「個別最適な学び」と「協働的な学び」を一体的に充実し、「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善につなげていくことが必要である。(下線は筆者)
下線部が重要です。「個別最適な学び」と「協働的な学び」は、「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善のために行うものなのです。よって、「個別最適な学び」と「協働的な学び」は、「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善を行うための手段ということになります。
では、「主体的・対話的で深い学び」とは何だったでしょうか。こちらも、いま一度振り返っておく必要があります。文部科学省(2017)『小学校学習指導要領解説 総則編』では、「主体的・対話的で深い学び」について、以下のように述べられています。
主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善の具体的な内容については、中央教育審議会答申において、以下の三つの視点に立った授業改善を行うことが示されている。教科等の特質を踏まえ、具体的な学習内容や児童の状況等に応じて、これらの視点の具体的な内容を手掛かりに、質の高い学びを実現し、学習内容を深く理解し、資質・能力を身に付け、生涯にわたって能動的(アクティブ)に学び続けるようにすることが求められている。
@ 学ぶことに興味や関心を持ち、自己のキャリア形成の方向性と関連付けながら、見通しをもって粘り強く取り組み、自己の学習活動を振り返って次につなげる「主体的な学び」が実現できているかという視点。
A 子供同士の協働、教職員や地域の人との対話、先哲の考え方を手掛かりに考えること等を通じ、自己の考えを広げ深める「対話的な学び」が実現できているかという視点。
B 習得・活用・探究という学びの過程の中で、各教科等の特質に応じた「見方・考え方」を働かせながら、知識を相互に関連付けてより深く理解したり、情報を精査して考えを形成したり、問題を見いだして解決策を考えたり、思いや考えを基に創造したりすることに向かう「深い学び」が実現できているかという視点。(下線は筆者)
ここでも、「主体的・対話的で深い学び」の目的が重要になります。「個別最適な学び」と「協働的な学び」の目的は、「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善ですから、「主体的・対話的で深い学び」の目的=「個別最適な学び」と「協働的な学び」の目的、となるからです。
「主体的・対話的で深い学び」の目的は下線部ですから、「個別最適な学び」と「協働的な学び」の目的は、以下のようにまとめることができるでしょう。
資質・能力を身に付け、生涯にわたって能動的(アクティブ)に学び続けるような人に育てること
見方・考え方を働かせる「学習の個性化」を目指す
教科教育において、「資質・能力を身に付け、生涯にわたって能動的(アクティブ)に学び続けるような人に育てること」という目的を達成するために必要なことは、見方・考え方を働かせることです。
例えば、算数の教科目標には「数学的な見方・考え方を働かせ、数学的活動を通して、数学的に考える資質・能力を次のとおり育成することを目指す」と書かれ、(1)知識及び技能、(2)思考力、判断力、表現力等、(3)学びに向かう力、人間性等の三つの柱に基づいて、育成すべき資質・能力が示されています。「見方・考え方を働かせ、資質・能力を育成する」というのは、各教科で共通しています。ですから、各教科で働かせるべき見方・考え方を働かせながら、教科特性に応じた資質・能力を育てることが大切になるのです。
「個別最適な学び」は「指導の個別化」と「学習の個性化」の2つで成り立っていますが、「学習の個性化」というと、子どもが教科書の内容を飛び越え、自由に問題に取り組む姿を想像するかもしれません。確かに、そういった姿は望ましいものの1つではあるのですが、「見方・考え方を働かせているか」という視点をもって、子どもの姿を見取る必要があります。
例えば、算数の「学習の個性化」において、インターネットで検索したり、参考書を持ってきたりして、ただ難しい問題を解くだけでは、見方・考え方を働かせているとは言えません。
次のノートをご覧ください。このノートは、3年生の長い長さのたし算・ひき算を個別学習で行った際に子どもが書いたものです。
私から提示したのは、「1km780m+2km250m」という問題です。「着目ポイント」と書いてあるところが、この問題を解くときに働かせた大切な見方・考え方(この場合は、問題を解くときの着眼点なので、数学的な見方)です。「たんいをそろえて計算するとやりやすい」と書いてあります。
また、この子どもは、解決した問題を発展させ、「4km30m−1km780m」という問題をつくっています。そのうえで、ノート中央部に「同じところ」と書き、「たんいをそろえて計算したほうがやりやすいこと」と書いています。まさに、統合的な考え方(数学的な考え方)を働かせている姿です。
算数で問題を発展させる際、最初、子どもは難しい問題をつくろうとしますが、そうではなく、数学的な見方・考え方に着目させていくのです。
数学的な見方・考え方に着目することで、子どもは学習のつながりを意識することができるようになります。なぜなら、いろいろな問題を解いてみると、「これも同じ考え方を使っている」と気づきやすくなるからです。その結果、「じゃあ、他の問題も同じように解けるのかな?」と考えやすくなり、数値を大きくしたり、たし算をひき算やかけ算に変えたりと、自ら学習を発展させられるようになるのです。そうなると、だれかに提示された問題を解くのではなく、自ら学習を進める方法を身につけていきます。まさに「学び方を学ぶ」ことができるのです。そして、このことが、「資質・能力を身に付け、生涯にわたって能動的(アクティブ)に学び続けるような人に育てること」という目的につながるのです。
学習観について再考する
「個別最適な学び」と「協働的な学び」が、「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善のための手段であり、その先に、「資質・能力を身に付け、生涯にわたって能動的(アクティブ)に学び続けるような人に育てること」という目的があるのであれば、まず我々教師がやらなければならないことは、学習観を再考することだと考えます。
稲垣・波多野(1989)は「学校の教師たちの多くは、多かれ少なかれ伝統的な学習観をもっており、そうした彼らの学習観を暗に支えているのが、受動的でしかも有能でないという学び手のイメージである」と述べています。さらに、「教師の期待通りの知識をみずから構成する子どもは、ごく少数にすぎない。そこで教師は、ますます教えこみと確認情報による学習の管理へと傾斜し、それがさらに学習者の意欲の減退をもたらす、という悪循環をうみ出すことにもなっている」と述べています。この言葉は、私自身もとても耳が痛いものですが、読者の先生方はいかがでしょうか。
すべてのことを子どもが決めるというのではなく、少しずつでよいので、子どもが自分で考え、決めていく学習に変えることを、勇気をもって始める。それが、「個別最適な学び」と「協働的な学び」を実現するための、大きな一歩となるのです。
【参考・引用文献】
・中央教育審議会(2021)「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して〜全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現〜(答申)」pp.18-19
・文部科学省(2017)『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 総則編』(東洋館出版社)p.77
・文部科学省(2017)『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 算数編』(日本文教出版)p.21
・稲垣佳世子・波多野誼余夫(1989)『人はいかに学ぶか 日常的認知の世界』(中公新書)p.177