「協働的な学び」をすることには、様々な効果があることが実証されています。過去の研究を参考にしなくとも、我々教師は、日々の子どもの様子を見ていて、子ども同士が関わることの重要さを感じているはずです。
学習においては、1人では解けなかった問題が解けたり、様々な考え方を出し合うことで、よりよいアイデアが生まれたりする場面をたくさん見ているはずです。だから、教師が一方的に講義をして、後はひたすら問題を解かせるような学習をすることはあまりないのではないでしょうか。
「協働的な学び」の効果は、教師が感じているものだけではありません。もっと大切なことは、子ども自身が感じている効果です。教師が感じているように、子どもも「協働的な学び」について効果を感じているはずです。
「協働的な学び」の効果
「協働的な学び」の効果は多岐に渡ります。子ども同士が関わりながら学習している様子を思い出してみても、「学習意欲」「多様な考え方への理解」「学び合い」「認知的葛藤」「知識・技能の定着」等、その効果をあげ始めれば、きりがないのではないでしょうか。
波多野他(1980)は、小学校の理科の実験の前に集団討論することで、実験への興味が著しく高まったということを明らかにしています。「協働的な学び」が、知的好奇心を増幅し、主体的な学びを持続的なものにする効果があるということを述べています。また、仲間とのやりとりは、不安や恐れを鎮め、心理的安定を与えるため、好奇心を働きやすくするとも述べています。
杉江(2011)は、競争に比べて協同が効果的である理由として、お互いの成長意欲を認め、応援し、手助けすることができるため、学習意欲が高まるとともに、多様な情報を得ることで課題解決の可能性が高まることを述べています。また、仲間との関わりの中で、コミュニケーション能力や、対人への感受性を学ぶとともに、自分が集団に対する役割を果たす経験ができることも述べています。
その他にも、町・中谷(2014)は、小学校5年生の算数において相互教授法を取り入れることで、能動的に学習するようになったり,学習における他者への援助が他の学習場面でも表れるようになったりしたことを示すなど、まだまだ多くの先行研究がされていますが、これらの先行研究の共通点を参考にしてみると、「協働的な学び」の主な効果としては、以下のことが考えられるのではないでしょうか。
@学習意欲の高まり
A自信(自己肯定感や安心感)の高まり
B相互理解の高まり
言葉の選び方はいろいろあると思いますが、「学習意欲」「自信(自己肯定感や安心感)」「相互理解」が高まっていくことが、「協働的な学び」の主たる効果だと考えることができると思います。もちろん、3つがそれぞれ別々に高まるのではなく、相乗効果で高まっていくのです。上記の3つの効果が高まれば、「個別最適な学び」の効果も高まることは容易に想像ができます。
[「協働的な学び」を効果的にするために子どもが意識すべきこと;2;heading2] 奈田・堀・丸野(2012)は、問題解決過程に対する他者からの反応の影響について検討し、協働学習における学習者どうしのポジティブな声かけが学習者のパフォーマンスを向上させることを示しています。また、他者と学び会う学習活動において、他者から得た考えを学習者のものとするには、学習者の言語の外化が必要であることも明らかになっています(住田・森2019)。
以上の先行研究を踏まえると、「協働的な学び」において子どもが特に意識すべきことは、以下のように集約できるのではないでしょうか。
@積極的にお互いの考え方を取り入れること
A話しやすい雰囲気をつくること
B自分の考えを話すこと
上記の3つについて、子どもの様子を踏まえながら、以下に述べていきます。
@積極的にお互いの考え方を取り入れること
学年のはじめのころ、自力解決と呼ばれる時間や、個別学習において、自分のノートを隣の人が見ると「見ないで」と言う子どもが多いのが、とても気になります。また、ある子どもが発言すると、隣の子どもが「それは私が考えたことです」と言う子どももいます。確かに、だれかの考え方を取り入れたのであれば、「○○さんの考え方を取り入れて考えたんですけれど」といった枕詞はあった方がよいと思います。しかし、自分の考え方を他人が参考にしたことについて、否定的な感情や態度を示していては、「協働的な学び」を効果的なものにすることはできません。ですから、教師から「学校というところは、自分1人では考えたり気づいたりすることができないことを、多くの人から学ぶ場だよ」という声かけをして、「まわりの人の考え方を取り入れることはよいこと」「自分の考え方をまわりの人に取り入れてもらうことは、認めてもらっていること」、そして「学校は、みんなで問題解決をする場である」という価値観を伝えていくことが大切です。
A話しやすい雰囲気をつくること
算数の時間における他者と関わることについてアンケートをとり、「協働的な学び」が効果的だと捉えている子どもにインタビューをしてみました。そうすると、「協働的な学び」が効果的だと捉えている子どもの多くは、「友だちが話しやすいように声かけをする」や「友だちが話しやすくするために相づちを打つ」などの行動をしていることがわかりました。これは、子どもにインタビューをしてはじめて気がついたのですが、子どもは「協働的な学び」を効果的なものとするために、他の人が「協働的な学び」に参加しやすくする行動を意識的にしているのです。この行動は、直接的には他者ためのものです。しかし、間接的に自分のためになっています。他の人が「協働的な学び」に参加しやすくなることで、議論が深まり、自分では考えられなかったこと、気づけなかったことを知ることができ、自分が得をするのです。
下の写真の子どもをご覧ください。立っている子どもが、座っている子どもに声をかけて、どうやって問題を解いたのかを聞いています。聞かれた子どもが、自分の解き方を説明しているのがわかると思います。
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立っている子どもは、個別学習のとき、よく教室を歩き回って、いろいろな子どもに声をかけて、たくさんの人の考え方を聞いています。自分から声をかけることで、たくさんの人の考え方に触れることができます。ですから、いつもこの子どものノートには、すばらしい考え方が詰まっています。
B自分の考えを話すこと
人と関わる際、ただ聞いているだけでは学習の理解は深まりません。先述の住田・森(2019)の研究でも明らかになっているように、いくら他の人と関わったとしても、自分の考えを言語化しなければ、「協働的な学び」を効果的にすることはできないのです。また、自分の考えを表出することで、能動的に学習に取り組むようになります。
これは、日々の学習においても感じることだと思います。学習が理解できている子どもは、よく自分の考えについて話します。個性もあるので、「発言量=学習の理解度」ではありませんが、自分の考えについて話す子どもは、それだけ考える時間も多くなるので、自然と学習の理解が深まっていく傾向があると感じています。
自分の考えをしっかりともてれば、他者と関わる際にも、一方的に教わるだけでなく、他者の考えと比較しながら話ができるので、自分の考えを批判的に見つめ直すこともできるようになります。そうすれば、「協働的な学び」が効果的なものとなることは言うまでもありません。
【参考文献】
・波多野誼余夫編,波多野誼余夫・稲垣佳世子・久原恵子・無藤隆著(1980)『自己学習能力を育てる 学校の新しい役割』(東京大学出版会)pp.60-62
・杉江修治(2011)『協働学習入門 基本の理解と51の工夫』(ナカニシヤ出版)pp.23-25
・町岳・中谷素之(2014)「算数グループ学習における相互教授法の介入効果(4) 学習場面における援助提供行動の促進効果」、日本教育心理学会総会発表論文集56巻、p.37
・米国学術研究推進会議,森・秋田監訳(2002)『授業を変える 認知心理学のさらなる挑戦』(北大路書房)p.286
・奈田哲也・堀憲一郎・丸野俊一(2012)「他者とのコラボレーションによる課題解決にたいするポジテシブ感情が知の協同構成過程に与える影響」、教育心理学研究第60巻第3号、pp.324-334
・住田裕子・森敏昭(2019)「算数の協同的問題解決場面において児童の深い概念理解を促す効果的な相互作用プロセスの検討」、教育心理学研究第67巻第1号