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授業のねらい―社会的な見方・考え方を鍛えるポイント
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私が実践している「株式売買ゲーム」とは、新聞等に掲載されている「株価」を参考に10万円以内で3銘柄程度の株式を購入し、株価変動を注視しつつ、後日(約1か月後)、「損得」を競う授業である。子どもは、興味津々のようで、廊下に週1回程度貼り出す「株価」を見て“歓声”が聞こえることも度々である。「オイルショック期」や「バブル期」の株式を購入し、「倒産」や「暴落」を体験させたこともある。
今回は、“コロナ禍”という経済の激動期での「株式売買ゲーム」を通して、コロナ禍における経済の動向について学ぶ。
1 株価はなぜ変動するのか?
『株価は企業の経営状態により変動する、○×△?』と問う。当該企業の状況、新製品の開発などで上昇するケースもあるが、株価は投資者が「購入しよう」と考えると上がるので「△」である。
〈考えよう〉
コロナ禍で、醤油等を生産している「キッコーマン」の株価は上がったか?下がったか?
「レストランが閉店すると、売れ行きが悪くなり株価は下がる」
「食品関係はたいてい下がるのでは?」
「逆に自宅で食事するので家庭の消費が増える?」
教師『コロナによる自宅調理を背景に、最高の利益をあげた』
「へえ!チリも積もれば山となるんだ」
教師『でも株価は5300円(1月24日)から4970円(4月30日)へと下落している』
Check▶株価は投資家の心理に安定感を与えるか不安定感を与えるかにより変動する。具体的には、当該企業の状況、新製品の開発、日本の政局や経済状況、アメリカの動向、金利、為替レート、政治不安、戦争等である。
2 コロナ禍で下落した株式
1月24日(コロナ感染の初期)の「東証1部」の株価を配布する(ある新聞では225社)。
コロナ禍、需要の停滞で、多くの会社で厳しい状態が続いている。それは、株価の変動にも影響し、東京証券取引所で取引される株式もコロナ禍で下落している。
〈クイズ〉
コロナ感染の初期1月24日と、コロナ感染蔓延期4月30日の株価を比較した。株価が上がったのは225社のうち何社か?
「20」「30」「10」など……。
答えは「11」社。「へっ! 少ない」の声。
〈ペア学習〉
株価が下落した会社は、214社ってことだ。コロナ禍の約3か月間で、下落したと考えられる3社を選び、その理由を考えよう。
A:ANA・JR東海・トヨタ……旅行もできなくなったし、車が売れない
B:東宝・高島屋・パナソニック……映画を見ない、買い物をしない、電気製品が売れない
C:資生堂・アサヒ・セコム……家にいるから化粧をしない、居酒屋が営業していない、家にいるからセキュリティは必要ない
いくつかのグループに発表させる。
3 株式売買ゲームをしよう―株式を買おう―
〈ゲーム〉
1月24日付の新聞の株式欄から、10万円以内で3社の株式を購入しよう。約3か月後の4月30日の株価と比較します。また、購入した理由を書こう。上昇しているのはわずか11社です。
〈回答例〉
A:
日本ハム……在宅で食事をするから(4755円×10株=47550円)
楽天……IT関係はコロナで追い風になる(898円×40株=35920円)
NTTドコモ……在宅で携帯によるコミュニケーションが増える(3136円×5株=15680円)
【計99150円】
B:
ヤマトHD……在宅で宅配が増えた(1854円×50株=92700円)
大阪ガス……家にいるとガス代が増える(1957円×2株=3914円)
ファミリーマート……コンビニは営業停止されなかった(2466円×1株=2466円)
【計99080円】
いきなり4月30日付の株価ではなく、その1か月前、3月31日付の株価を提示する。
日本ハム:3845円 楽天:838円 NTTドコモ:3440円
ヤマトHD:1728円 大阪ガス:2073円 ファミリーマート:1937円
など
「えっ! なんでヤマトHDが下がるの?」
「大阪ガスは在宅だからかな?」
4 株式売買ゲームをしよう―株価上昇の銘柄―
株価が上昇した銘柄を発表する。
味の素:1807円→1924.5円 ニチレイ:2595円→2712円
中外製薬:10640円→13040円 第一三共:7446円→7479円
ヤマトHD:1854円→1888円 NTTドコモ:3136円→3196円
中部電力:1458.5円→1490.5円 大阪ガス:1957円→2021円
エムスリー:3165円→3910円 楽天:898円→928円
サイバーエージェント:3775円→4585円
〈発問〉
なぜ、コロナ禍で株価が上昇したのか?
「味の素は自宅で食事をする人が増え、購入する家庭が増えるだろうと考えたから」
「製薬会社はコロナ関係薬がつくられるかなと予想したから」
教師『中外製薬は、新型コロナに対する抗体医薬品の開発をしているとネットに書かれていました』
「へっ!すごい! 株を買う人って、敏感」
「なぜ塩野義は上がってないの?」
教師『塩野義は花粉症の薬が有名なんだが、手洗いやうがいをしたことで、花粉症が流行らなかった』(笑)
「エムスリーってどんな会社?」
教師『医療ポータルサイトを運営している会社で、コロナ禍でその取組が評価されたってことかな』
「サイバーエージェントは?」
教師『インターネットの広告配給事業などをしています』
「そりゃ! コロナ禍では無関係というより、みんなネットを見る機会が増加すると思うから上昇する」
4月30日付株価を配布する。
「早く! 早く!」「配って!」などの声。授業プリントを配布し「早く」と言われるのは、この時くらいである。(笑)
「損得」計算をする。
〈Aの事例〉
日本ハム:3825円−4755円=−930円×10株=−9300円
楽天:928円−898円=30円×60株=1800円
NTTドコモ:3196円−3136円=60円×5株=300円
→7200円の損
クラスベスト10を発表。もちろんワースト5も……。(笑)生徒の“歓声”“ため息”があがる。
本授業の教材研究は、図書館で行った。新聞閲覧やコピーが禁止されている状況で、「縮刷版」を借り、225社の株価の変化をくまなくチェック。株価が上下する要因とコロナ禍の経済状況との関連の分析である。本授業では株価の変動による「損得」を軸に学習したが、「投資」の本来の意味は「企業を応援する」ことであり、CSRや財やサービスの社会的意味等から株式を購入する「株式売買ゲーム」も大切だ。
【参考文献】
伊藤洋一「ではどんな産業と企業が良いのか〜With coronaの世界〜」『三井住友信託ファンドラップ通信2020・6』
岩田年浩「大学が学校の教育実践から学べること」大阪教育大学経済教育研究会編『経済教育実践論序説』(大学教育出版)
(イラスト及び文章作成協力:山本松澤友里)