- 「特別の教科 道徳」の授業づくり
- 道徳
B先生
加藤先生が考える理想の道徳授業像について教えてください。
加藤先生からのアドバイス
この連載も、今回が最後になります。教科化を目前に控え、いろいろ話題となるキーワードを中心に展開してきましたが、最後は理想の道徳授業像について話をしましょう。
解説
みなさんは、たった45分の授業時間の中で、子どもたちが自分の問題意識を自覚し、その解決のために真剣に議論したり発見したりし、新たな観点のもとに価値観を再構築し、読み物教材の登場人物の心情に深く寄り添い、自らの生き方につなげていく力を得ることができる。そんな授業ができたら素敵だと思いませんか。素敵だけれど、できるわけがないと思いますか。
私はできると思っています。仮に今はできないとしても、すぐできることがあります。それは、「今はできないけれど、いつかできるように子どもと一緒にがんばって授業をつくろうとする」ことです。結果的にできないのであれば同じと思われるかもしれませんが、そうではありません。
宝くじが買わなければ当たらないのと同じで、夢(理想)の実現のために階段を昇り進めているのと、昇ること自体をやめてしまうのとの違いです。階段で立ち止まることがあってもいいのです。上を向いて少しでも歩みを進めようとすることです。ただ、がむしゃらに駆け上っても、路頭に迷い、疲れるだけです。では、どうすればいいのでしょう。
そのために、まず必要なことは、価値の本質的意味理解です。内容項目のもつ本当の意味をまずは指導者が理解し、あるいは深く理解しようと考え続けることです。それなくして、どうして子どもたちに深く考えなさいと要求できるでしょうか。もちろん、これで完璧というような「答え」はありませんし、悟りの境地に至る必要もありません。ただ、子どもたちと考えることを楽しむ、これはできるはずです。
道徳の授業を受けるたびに、まだ欠けているジグソーパズルのピースがつながっていくような気がします。そして、そのパズルは、心の気持ちのパズルです。
まだ8ピースしかつながっていないパズルですが、これからの道徳で一つの絵にすることができるといいなと思っています。
そして、その絵によって、悪い心に立ち向かう武器ができると思います。(K)
これは、Kさんが4年生の6月に書いたものです。まだ8回しか道徳の授業をしていないけれど、その一つ一つに意味があると自覚しているのです。
授業の後、このようなことを書いた子もいます。
このような生き方に本当にあこがれます。今日の授業は、自分を理想に少しでも近づかせてくれるような45分でした。
理想は非現実、非現実は実生活にそぐわない、意味がないという論式は間違っています。理想を掲げ、それに向かって努力を続けるのが人間です。そのように、理想に向かう授業をしていると、たった一時間の授業で子どもの何かが変わったと実感することがあります。もちろん、人間をそっくり入れかえることなどできませんし、すべきでもありません。けれど、明らかに今までとは違う構えなり、視点なりをもち、そのことによって自らの生活・生き方がゆたかになる、できるというスイッチが入る瞬間はあるようです。
4年生の時、内気で意見をもたず、みんなに考えも合わせていました。でも、自分の意見をもつことの大切さやたくさんのことを学べました。この世の中に人の運命や人生を変えてしまうものが存在し、それを伝えている人がいるということをよりたくさんの人に知ってほしいからです。そして、私には自分を変えてくれた道徳というものがあること以外に伝えられることがありません。(Y)
Yさんは自らの変容を肯定的にとらえ、自信をつけて卒業していきました。そしてその原因は「道徳以外にない」と自己評価しているのです。一人の人間にこれだけのことを言わしめるものが何なのか、これは私ももっとしっかりと検証しなければいけないことだなと思っています。道徳教育に身を置く一人として。そして、道徳教育に全く無縁の先生、人はいないはずですよね。
私が常々申し上げている、子どもを変える、授業を変える、教師を変えるための10のポイントをお伝えして、終わりたいと思います。
- 内容項目をどう考えるか
- 教材をどう読むか
- 深く考えるきっかけとなる「真の問い」をどうつくるか
- 真剣に議論する「問い返し」をどれだけ考えられるか
- 板書をどのようにつくるか
- 子どもたちの学び合いの場をいかに演出するか
- いかにして実生活につなぐか
- 何を学んだのかをいかに子どもたちに自己評価させるか
- どのようにして授業に一本筋を通すか
- いかにして目の前の子どもたちとしかできない授業をつくりあげるか
道徳教科化は、授業を変えるチャンスです。
みなさん、理想の道徳授業はありますか? 理想を掲げ、あきらめることなく、妥協することなく、子どもたちと一緒にがんばりましょう!